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小話『ルイナ、水を得た魚になる』

 



 ◆ルイナ、水を得た魚になる



 ―――ところで、冒険者のランク制度は基本的に最下位をF、最上位をAとする6段階であることをご存じだろうか。


 冒険者になった時点で振り分けられるのは実力に応じてFからBまでの5段階であるが、その後の功績やその者自身の強さを加味し、叶うのであれば冒険者ギルド本部で上位ランクへの更新が認められている。大雑把な話、Fランクは一般市民に毛が生えた程度、Aランクは百戦錬磨の強者といった風である―――と、ここまでが基本的な話。


 さて、当該とうがいのランク制度において、例外となるランクが2つあることを述べておこう。


 まずは生ける伝説と称されるSランクである。これは単純に力や功績のみで成り上がれるランクではない。


 単純な貢献度や強さだけではなく圧倒的な勲功や特異性でもって、ギルドだけでなく国からも存在と価値を認められる必要がある。その勲功や特異性というのは、例えば国家滅亡の危機を救っただとか、上級スキルや天級魔術が使えるだとかである。


 つまりSランクとは、国が英雄としてまつり上げたいと判断した人物にのみ与えられる称号なのである。


 もちろん一面に秀でていたり一躍いちやく時の人となった者でも、他で眉をひそめられるような行いをしていればSランクの称号は与えられないし、実力が伴っていなければそもそもギルドから推薦もされない。


 そうして、それほどに敷居の高い称号であるからして、Sランクとなった者の名は地を轟き、羨望と憧憬の眼差しでもって民や冒険者達より見つめられる。彼らにとってSランクとは強さの象徴、あるいは目指すべき場所なのである。


 ちなみに大陸内で存命中のSランク冒険者は5人。ガザ帝国に2人、クォーツ公国に1人、ユーテル神聖国に2人である。

 残念ながらキルヒ王国には今、Sランク冒険者がいない―――王都バザーにあるギルド本部では今年見出したとある2人の少女の動向に注目し、是非4か国を練り歩いた後には王国に戻ってきてそのまま居ついてもらいたいと切に願っている者がいるのだが、それはまた別の話。


 ―――とまあ、良い方の例外はそんな感じであるがもう1つ、悪い方の例外でGランクという階級がある。


 彼らは冒険者であって冒険者でない。職業も単一であり、受けられる依頼も『薬草採集』の1種類だけである。


 彼らは冒険者ギルドより冒険者としての適性無しと認められた者―――『農夫』と呼ばれる者達である。


 ―――さて、そんなわけで上はSから、下はGまでと合計8段階に分かれているランクであるが、最も人数が多いのはそのGランクの者達である。その次にF、E、Dとランクが上がる毎に減っていく。


 それではどれほどGランクの者が多いかというと、実は全冒険者のおよそ8割以上がGランクであった―――あまりに偏りが過ぎるが、それも仕方ないことなのである。

 例えば、王国では特技や戦闘経験がなくとも、誰でも申請すれば『農夫』になれる。常は畑を耕している本業の農夫でさえ、寒気で畑を寝かせておくしかない時期の副業として『農夫』の認定を受けていたりする―――つまり『農夫』とは、誰でも仕事にありつける非常に敷居の低い職業なのであった。


 そんなわけで、『農夫』はとにかく数が多い。それであるからしてライバルも多い。


 そんな中、特に『農夫』を専業にして生きる者達は副業の輩に出し抜かれないよう常に研鑽を重ねており、経験と知識に基づいた独自の嗅覚と勘でもって薬草を見つけ出す熟練の者(エキスパート)であった。そうでなければ生き残れない。


 そして今ここに、半年の間『元熟練農夫』の講師より可愛がられ、独自にしたためられた技巧書を与えられたり講習後に個人講習を行なってもらったりと英才教育を施され、薬草採集のみで生計を立てていた者がいた。


 その名はルイナ―――そう、彼女もまた、熟練の域の者であるのだった。








「―――見つけた!」


 ルイナは『長目飛耳』を発動させた視界の奥、鬱蒼と生い茂る草の中から微かに覗いている紫色の花弁を捉える。


 瞬間、『光陰如箭』にてそこへ跳び、木陰の根元に生えるその花を見下ろす――二股の茎、細いながらも芯の硬さを感じさせる凛とした佇まい、そして先端に群生している花弁は白色がかった紫色をしている。


 間違いなく彼女が探している薬草、ムラサキクマタケであった。


 ―――ちなみにこの花には補血の成分が含まれており、出血をした患者の治療に多く使用される。


 冒険者にとっても馴染み深い薬草の1つであり、傷を負った冒険者はこのムラサキクマタケを頬張りながら、消毒作用のあるカイランと止血作用のあるイモギリ草という薬草を磨り潰して傷口にあてがう。これら3つの薬草は冒険者間では三種の神器と言われており、冒険に出る際の必需品と謳われていたりする。


「……よし、これは採集していいやつね」


 そうしてルイナは目下の花を見下ろし、採集可否の判断を下す。


 『農夫』には守らねばならない掟がある―――それは、採集する薬草は後生こうせいを残した後のものに限る、というものである。


 つまり受粉後の、種子を蒔いたものしか採集してはならないというルールである。種子を蒔く前に採集されたものについて、冒険者ギルドは買い取ってくれない。ギルドにしても、薬草は需要こそ高いが採集し尽くして供給不足になることだけは避けたいのである。よってきちんと自身の役目を果たし、後は枯れるのみとなった薬草のみ採集して良しという取り決めをしているのであった。


 この取り決めに照らし合わせると、目の前のムラサキクマタケはめしべの下にある子房が既に破裂済みである。ここより種が飛び散った後であるから、この薬草は採集しても良いものである。ルイナは茎より花を折り、それを荷袋の中に入れた。

 そして―――


「あ、みーつけたっ」


 ルイナは辺りを見回し、近くに複数本ムラサキクマタケが群生しているのを発見する。この花は種を風にのって運ばせる種類ではなく、物理的に周囲にまき散らす。その知識を知っているからこそ、採集してよいものが1本見つかれば近くに同じくらい熟れたものがあるはずという経験則に則り、彼女はそれらを見つけることが出来たのである。


 目の前には薬草おたからの山―――自然、彼女の口から笑みがこぼれる。


「うふ、うふふ、いっぱい生えてる……」


 ……もし、今ここを偶然にも通りすがる者がいればその者は目を見開き、彼女の容姿を二度見するであろう。


 枝葉生い茂り陰が濃く漂う森の中、雪原のように白い肌と見目麗しい容貌の少女があでやかに嗤っているのである。そこにあるのは夢幻か、あるいは狂気か。およそ現実離れした光景にヒトは惹かれつつもおののき、その場を後ずさって去るであろう。


 しかしその実、彼女は単純に笑っているだけであった―――常の2倍の額に高騰している薬草がそこら中に生えているのである。笑わずにいられない。


 ……ちなみに、彼女に金銭的ないやしさはない。ただ、報酬額をやりがいに変えている節はある。報酬額とはつまり、そのままミチの役にどれだけ立てたかの指標なのだ。


 故に、常なら出てこぬ幼さが充実感の隙をつき、おもてに現れてしまっているだけなのである。


「あ、あっちにもいっぱい! すごい! すごいいっぱい生えてる!!」


 彼女はあっちへこっちへ『光陰如箭』で跳んでいく。上級スキルの大安売りである。


 ―――そうして彼女は、緊急扱いとなっているにも関わらずくだんの薬草が大量に生えているという状況の齟齬に気づかぬまま、どんどんと森の奥へと入り込んでいく。


 鬱蒼と生い茂る木々の下は紺の闇。暗い深淵へといざなわれるように彼女は奥へ奥へと森を進み……


 ……やがて、その場に出くわすのであった。




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