3段目
光がなくなっても、そこは前と同じような場所だった。
「同しー」
声は無視して数式を確認する。
『cos36°』
変わっていた。
「違うー」
「何が言いたいんだ」
「何もー」
「ならば、何も言うな。煩いだけだ」
「分かったー」
これを求めること自体は簡単だ。
等式sin2θ=sin3θを解けばいい。そうすればすぐにcosθ=(1+√5)/4(θ=36°)という答えがでるはずだ。
それにしても問題が簡単になっている気がするのは気のせいだろうか。
一問目は逆正接関数の問題、二問目は虚数と等比数列の和の問題。そして三問目が余弦関数の問題。
共通点としては、数学の、いや正確には計算の問題だということ。それほど解を出すのに手間取らないということの二点だ。
まだヒントが少ない。
折角だ。不本意だがこの建物を探索するか。
「どこ行くの?」
立ち上がると、藤原が聞いてきた。
「探索だ」
「私も行く」
見えない体だ。付いてこようがこまいが僕には関係がなかった。あえて言うならば、煩いか煩くないかの違いか。
万が一迷った時のための保障として、この通路の右側に手を添えて歩き出す。所謂、右手法だ。
今更ながら気付いたが、着ているものは制服、履いているものは皮靴だった。鞄は見当たらない。学校帰りだったのだろうか。
そんなことを考えているうちに角に来た。右に曲がる。ここまで40歩。
「長いね。疲れない?」
「問題無い」
「そーなんっすかー」
それが言いたかっただけか、これは。
また角に来た。右に曲がる。ここまで80歩。
しばらく歩くとまた角にきた。ここまで81歩。
そしてまた角。ここまで80歩。
40歩進むと壁には『cos36°』と書いてあった。どうやら元の場所に戻ってきた感じだ。
僕の歩幅が72cmだから、この建物は一辺が約57.6mの正方形ということか。
「何か分かった?」
「君は、もう少し生産的な事を言えないのか」
「む〜」
何も無かった。それだけだ。均一な壁、床、天井。音もそれほど響かず、臭いも感じられない。空気も人体に影響を与えるような感じではない。
「そうだみょ、この壁の向こう、空洞だったよ。上と下にずーーーーっと続く」
正方形の内側のことだろうか。
「こっちか」
「うんうんうんうんうん」
どうやらそうらしい。
「なら、外側はどうだった」
「うーん、分かんない」
「そうか」
さて、どういうことだろうか。
「(1+√5)/4」
「あっ、ちょっ」
僕は光に包まれた。