死人に出来ること
正直転生して最初に思ったことは、
『なんっじゃそりゃぁぁぁぁぁ!!!!!』
だった。
転生したのは良い。けど、明らかに体がおかしい。手足は二本ずつで指も五本ずつあって人間の体なのは分かるのに、色がこう、エグい。何色とかは言わないけど、とにかく生きている人間の色ではなかった。
何より所々傷があるのにも関わらず、痛みは全く無いし、何故か走れない。なにゆえ。
因みに言えば喋れもしない。ふざけるな。
あーとかうーとかなら言えるけど、そんなのコミュニケーションもクソもあったものじゃない。チッ。
ついでに言えば私が転生した場所は墓地感満載の墓場だった。形式は見ため洋風の。
まぁでもこの段階ではもしかしたらそう言う人種に転生したのだと少なからず希望を抱くことができたのだが、その希望さえも無慈悲に打ち砕かれることになる。それが私の初期能力として持っていたこの『観察Lv1』という力だ。
私の身に起こったことを調べようと試行錯誤していると私の目の前に……と言うよりも頭の中に妙な画面が浮かんできたのだ。ゲームで例えればステータス画面。そんな感じ。ただ、ステータス画面と言っても表記されている情報は少なく、この『観察Lv1』と『感染Lv1』の2つしかなかった。
恐らくこれはスキルとかアビリティとかそんな感じのやつなのだろう。レベル表記があることからテンプレ通りの異世界に転生した可能性は高い。
それで色々試した結果、この観察という能力は自分が調べたいものを対象にそれが何であるのかを詳細を調べてくれる、ネットで言えば検索機能みたいな能力のよう……だと思うことが分かった。
これについてあまり自信を持って言えないと言うのも、レベルが1のせいなのかは知らないが、何を調べてもとにかく得られる情報が少ないのだ。
例えば近くにある墓らしきもの。これを観察してみると、『墓』としか出ない。雑草を観察してみても『草』若しくは『雑草』としか出ない。
とは言え他にあてになるものも無く、仕方なくこの能力で私自身を調べた結果、『死人』とだけ出たので私の転生先が分かったという次第だ。
以上、私の死から現状までの情報整理でした!
あー……これからどうしよ。
墓地の周りはうっそうとした森が広がり、どの方向に行けば森の外に出られるのかは分からない。しかも走れないものだから外に出るまで距離があったとしたらかなりの時間がかかることになる。
現状私が何をエネルギーにして活動しているのかが分からない限り、無駄な力の浪費は避けたい。死人に転生したとは言え、わざわざ新しい生を無下にするつもりも無い。
となると今私がやるべきことは、今の私に何が出来るかを把握することだ。
まずは身体能力から!
歩行…成人した人間と同じくらいの速度で歩くことが出来る。ただし妙にフラフラしながら。
走行…不可能。頼むから走らせてくれ。
握力…手のひらサイズの岩とか木の棒なら簡単に粉砕することが出来た。力はかなり強い。
腕力…真上に拾った岩を投げたらかなりの高さまで飛んで行った。こちらも力はかなり強い。
視力…現状測定不能。基準が無いからね。
聴力…現状測定不能。ここ、殆ど音がしないからね。
身体能力はこんなものかな?
次は能力!
『観察Lv1』…なにを観察しても簡潔に一言で現してくれるだけ。観察しまくったらLvが上がったりしないかな?
『感染Lv1』…まだよく分かってない。映画通りの死人なら、引っ掻いたり噛み付いた相手を同じ死人にするのだろうけど、こればっかりは確かめようがない。他の可能性としては死人特有の毒を注入してやる、とかかな。機会があれば試してみよう。
能力はこんなものか。まだまだ未知が多いな。
ここがもし勇者とか魔王が居るタイプの世界なら能力が生命線になるのは間違いない。魔物とかも居るだろうし、敵に襲われても生き長らえるようなるべく早くに把握をしておこう。
後は…攻撃手段か。
投擲…投げるものがあればそこそこ使える筈。威力はともかく、正確さは定かではないけど。
引っ掻く…試しに木に向かって思いっきり引っ掻いてみたら私実は熊なんじゃないかと思うぐらいの傷跡がついた。これは期待出来る。
噛み付き…木の枝に噛み付くと、簡単に切断出来た。切れ味はかなり良いみたい。これも期待は出来る
キック…これは何故か出来ない。そもそもあまり脚が曲がらない。走れないのもあるし、死人は下半身が弱いのかも知れない。
人間の時に比べると力は強くなっているみたいだから、何かに襲われた時には何かしらの対策はし易いのかも知れない。しかし、それは前世基準で考えた場合であり、この世界では分からない。
もしかするとこの世界に居る生物の殆どはめちゃくちゃ硬くて私何かの力じゃ手も足も出ないかも知れないし、私の力でもある程度は立ち向かうことが出来るのかも知れない。
……今になって分かったけど、生きて行く上で最も大事なのはお金とか食料じゃなくて、正確な情報を知っているということらしい。
現状この世界について、自分自身についても何も分からない私にとって何一つとして信じることが出来るものが無い。
自ら歩むべき道の指針も、参考にすべき知識も、活動する為に必要な栄養でさえも。
無知は罪とはよく言ったものだ。何も知らないまま死んだとしても、それは自分の責任であり、誰かを咎めることは出来ない。
そしてその状況は今まさに私に当てはまっている。
生きたければ情報を集めろ。些細なものでも何でも、前世の知識に囚われず、今、この世界の情報を。
そう、本能が私を刺激してから私は最初に住処を作ることにした。外敵に襲われたとしても若干の余裕を持つ為に。
まず、野晒しになっている墓地を中心に、木を折ったり噛んだりして加工した木材を使い墓地の周辺を四角形に囲っていく。
次に、その上に長い枝を置いて屋根を作り、更にその上に葉のついた枝を乗せることで雨を防ぐようにする。
これでとりあえず簡易の小屋が完成。形の割に所要日数が2日と存外早く完成させることが出来たと思う。
当然出来はお粗末なものだけど、何も無いよりはマシだ。前世の体験がそうさせているのかは分からないけど流石になにも無い場所で生活するのは落ち着かない。まぁ、墓地で生活するのも妙な話なのだが、不思議と恐怖は無い。死人だからだろうか?死に近いものに対しては恐怖や嫌悪という感情が一切無くなった。前世なら墓地で生活など死んでも嫌だったけど。
そうして、ここで生活を始めてから少しずつ分かってきたことがある。
一つ目に、木材を集めている最中にやっぱりと言うか、魔物に遭遇した。観察の結果は小鬼。よく低位の魔物として表現される定番のあいつだ。
容姿は薄緑色で、頭に小さな角があり、小柄。服はボロきれのような布をまとい、手には棍棒のような武器を持っていた。
小鬼は私を見るや否や棍棒で攻撃してきた。が、速度は遅く私程度の移動能力でも簡単に回避することが出来たので、すぐに反撃。勢い余って転倒した小鬼の背中を思いっきり殴ると、何回か痙攣した後死んでしまった。
小鬼なら私の攻撃が通用する。これが一つ目に分かったこと。
次に『感染Lv1』の能力だが、どうやらこれは映画通りの能力らしい。他に遭遇した小鬼を殺さずに引っ掻いてみると、暫くした後に目が虚ろになり、ふらふらと私のような足取りになってどこかへ行ってしまった。殺さなくても敵を無力化させることの出来るこの力、もしかするとかなり強いのかも知れない。他にも複数体の小鬼を相手に試してみたけど結果は同じ。ついでに分かったこととして、この能力は観察のように任意で発動するものでは無く、常時発動する力のようだ。
最後に、まだ確信を持って言えるわけではないけど、多分私は食事と休息の必要が無い。転生してからゆうに一週間は経っている筈なのに、一向にお腹が減る感じはしないし疲れもしない。死人という種が既に死んでいるせいなのかは分からないが、もし本当にそうならこれはとてもありがたい。こんな何が食べられていつ敵に襲われるかも分からない世界でそんな余計な心配をしなくてもいいということは、生活的に負担が減るということになる。出来ることならなるべく楽に生活したいからね。
分かったことと言えばこんなもの。
今日も日が暮れてきたし、そろそろ明日に備えよう。
一週間の情報整理終了!