死に愛された私はついに死ぬ
私、天祢美桜は死に愛されている。それはもう、過保護なくらいに。
私は産まれて間もない時にウィルスに感染し、生死の狭間をさ迷った。まず、これが私の人生初の臨死体験。
次の臨死体験は5歳の時。大地震が私の住んでいる地域を襲った時に、棚の上に置いてあった鍋が頭上に落下し意識不明の重体に。回復に1ヶ月かかったという。
その次の臨死体験は9歳の時。新型インフルエンザに感染し、生きるか死ぬかというギリギリになってとりあえずの薬が完成し、なんとか生き延びることが出来た。
更にその次の臨死体験は13歳の時。単純に雷が直撃し重体に。2ヶ月はろくに動けなかった。
更にその次の次の……面倒だな。
14歳の時には落石と転落で2回死にかける。
15歳の時には交通事故と低体温症と日射病で3回死にかける。
16歳の時には火事と窒息と拒食症と凍傷と出血で5回死にかける。
17歳の時には喧嘩と強姦と虐めと毒と中毒とアレルギーと感電で7回死にかける。
13歳の臨死体験を皮切りに私の死への愛され方は1年毎に馬鹿みたいに加速していった。本当に馬鹿じゃないのかと思うくらいに。
だってさ、あんまりにも死にかけるもんだからギネスに『最年少で最も死ぬ思いをしてきた少女』として登録されたぐらいなのよ?何なの本当に馬鹿でしょ。
もっと馬鹿なのは18歳の時よ。てかついこの間の話。何の気なしに夜中に中々寝付けないものだから外を散歩していたの。そしたらふいに頭上が明るくなったものだから何の明かりかと思って上を見るとあらびっくり。隕石が墜ちてきているではありませんか。真っ赤にゴウゴウと音を立てて墜ちてくる隕石。流石の私もそれが隕石だと認識をすることは出来たけど、回避するまでには至らなかった。当然直撃。
体が原型を留めない程のダメージを受けたんじゃ生きるものも生きられない。私の不運な人生もここでとうとう終わった……かと思っていた。けど、どうやら私の不運な人生はまだ終わってはいないようであった。
いや、正確には人生は終わっている。何せ死んだのだから。だが、信じられないことに私は転生をしてしまったようだ。ネットの小説とかであるテンプレのあれだ。『異世界最強!』とか『チート能力で無双!』とか『勇者に転生して不幸な前世とは一変して世界の主人公に!』とかの転生だ。
が、私は全然嬉しくない。
生前に未練なんか無かったし、別段生に執着していたわけでもない。家族も友達もそこそこの付き合いで幸せではあったし、後悔をする程やり残したことも無かったから。いつ死ぬか分からない私としては、いつ死んでもいいように常日頃から死の準備を怠ることは無かったし。
だから、いつ死ぬか分からない日常に恐怖を抱きながら生きるよりも、何も考えず楽になれるようそのまま死なせてくれた方が私にとっては幸せだった。
でも、転生してしまったものはしょうがない。過去は過去、現世は現世と割りきって生きていくつもりだった。
のに。
この仕打ちはあんまりだと思う。『死』は一体私に何の恨みがあるのか。それとも本当に愛されているのだろうか。どちらにせよ、私がまた不幸な人生を歩んで行くのは間違いないだろう。
何故なら私が転生した先、それは勇者でも人間でもなく、ただの生ける屍、死人だったからだ……