第45話
先を行くサーシャがラ・カームを草原の小屋へ導いた。
「こちらへ」
小屋に着くと、新しい馬と服が用意されていた。
「髪の毛もここで染めます」
小屋には三人の協力者がいた。
「ラ・カーム殿下、魔術院の中には私どものように殿下を支持する者もいることを知ってください」
一人の女性がそう言った。
「ありがとう、この恩は忘れません」
「もったいないお言葉です」
「確かに僕の馬も、この髪の色も目立つからね」髪の毛の先をいじりながらラ・カームが言った。
「ラ・カーム様の髪の色大好きなんですよぉー、もったいないですけど」サーシャも髪の毛を染めながら言った。
「ありがとう、サーシャ」
「ここで少し休憩したら一気にユーラまで行きますからね」
「分かった」
「殿下に召し上がって頂くには、心苦しいのですが」
そう言って、黒パンとチーズ、干し肉が出された。
「ううん、ありがとう」
そう言ったものの、食べてみるとお世辞にも美味しいとは言えない物だった。
固いパンをかじりながら、ラァやラナのことを考える。
・・・ラァ、ラナ。
「ラ・カーム様、この服どうですか?」
サーシャはいつも着ていた魔術院の制服から、赤い冬ジャケットと短パンにタイツといった服装に変わっていた。
「あ、似合っていると思うよ」
「無理に言っていません?」
「そんなことないよ、か、かわいいと思うよ」照れながら下を向いた。
「あ、ありがとうございます」言ってサーシャも照れていた。
「サーシャ、殿下に気を使わせるんじゃありません」魔術院の協力者が釘をさした。
「はーい、でも私服はやっぱりいいよねー、ラ・カーム様も似合っていますよ」
ラ・カームも黒いコートに皮のズボンに着替えていた。
「ありがとうサーシャ」
「もう夜になります、今日はここで仮眠を取って、明け方に出立しましょう」サーシャが言った。
二人が寝室に行くとベッドは一つしかなかった。
「僕は下に寝るから、サーシャベッドで寝ていいよ」
「何言っているんですか?一緒に寝ましょうよ」
「僕はそれでもいいけど・・・」
「私はそれがいいです!」
「うん」少し照れながらラ・カームが答えた。
二人はより添って寝ていたが、王都の騒動からここまでずっと緊張しっぱなしだったこともあって、ラ・カームはすぐにぐっすり眠ってしまった。
「ラ・カーム様、いつも無理しすぎなんですよ」言ってラ・カームを包み込むように抱きしめてサーシャも眠りについた。
四時間ほど寝て二人は新しい馬でユーラを目指した。
十一月の早朝はすでに肌寒かったが、二人ともコートで寒さをしのいでいた。
途中、軍の検問がある場所などはあえて通らず迂回をしながら六時間ほど走った。
ちょうど十二時になる頃、サーシャがラ・カームに合図をして、木陰に馬を止めて昼食にした。
「ラ・カーム様きつくないですか?」
「大丈夫だよ、サーシャ」
「元気ですよねー、ほんと」
「二人のことは心配だけど、今は自由でいられることが楽しいんだ」
「とりあえず、ここでお昼にしましょう」
サーシャがバックから取り出したのは、昨日食べたものと同じ黒パンとチーズと干し肉であった。
「また同じものになってしまいすみません」
「サーシャが謝ることないよ、僕一人だったら食事すらままならなかったと思う、感謝しているよ」
「せめて、私がラ・カーム様のお口に放り込んであげますよぉ」
「え・・・いいよ、自分で食べるから」
「遠慮したらだめですよぉー、昨日同じベッドで一夜を明かした仲じゃないですか」
「え・・同じベッドで寝たらなにかあるの?」
「もーラ・カーム様は純粋培養すぎですー、でも全部私が教えるというのもそれはそれで・・・」サーシャの顔がにやけていた。
「とにかく、ご飯くらいは僕が食べるからいいよ」
「はーい」
「サーシャ」言って、ラ・カームがサーシャを前から抱きしめて木に押し付けた。
「ラ・カーム様、いきなりすぎですよぉー、あ、でも私はいいですけど・・・」
「グリフォンの偵察がきている」
「え・・・」
しばらくすると、二人の頭上をグリフォンが通過していった。
「もうこっちまで警戒されているんだ」ラ・カームが言った。
「ラ・カーム様、意外と筋肉があるんですね」
「え・・あ、ごめん痛かったかな」
「いえ、ずっとこのままでもいいですよ」
「・・・ごめん」ラ・カームは照れて離れた。




