第44話
あと五百メートルで王都を抜けるという時、目の前に人影が見えた。
「殿下、なにをなされているのですか」
シュナイゼルであった。
「シュナイゼル団長、通してくれ」ラ・カームが言う。
「それはできません」シュナイゼルの目には殺気すら浮かんでいた。
ラ・カームは愛刀の短剣を引き抜いた。
同時にシュナイゼルも剣を鞘から抜く。
ッ
掛け声とともにラ・カームがシュナイゼルに突っ込む。
・・・速い
ラ・カームの短剣の一撃を剣で捌く
しかし、その次の瞬間ラ・カームの体が光り短剣から雷系統の圧倒的な衝撃が放たれた。
シュナイゼルは後方に大きく飛び、かろうじて衝撃をかわす。
二人の間に距離ができた時に、サーシャがファ・トルネイド=炎の竜巻、をシュナイゼルに唱えた。
「団長なら、死なないよね」願うように言いながら、この間に二人は馬をさらに走らせ、王都の城壁を抜けた。
追手はすぐに編成されるであろう。
二人は馬が走れる限界までスピードを上げて草原をひたすら南に走った。
シュナイゼルはサーシャがファ・トルネイドを放つと同時にファ・ギガスレイブを唱えていた。
ギガスレイブは術者を中心に炎が円状に広がり、敵に囲まれた時に使う術式であるが、魔力が同等以上であれば、炎魔法の術式をキャンセルできる。
「サーシャのやつ、殺す気か」シュナイゼルは毒づいた。
雷雨がやんだ王都に被害らしい被害はなかった。
シュナイゼルはすぐに王宮へ行き、ラ・ヌカ国王に二人のことを伝えた。
「そうか・・・、シュナイゼル責任は取ってもらう、が今はラ・カームを保護することが最優先だ、お前が組織してすぐに追いかけろ、必要であればグリフォン部隊も使ってよい」
「はっ、申し訳ございません、すぐに殿下の保護に向かいます」
王都から出て一時間、二人は何も言葉を交わさずにずっと馬を南に走らせていた。
・・・こんなに気持ちいいものなんだ。
ラ・カームは思った。
生まれてから今まで、全てのことについて国王や国、学校に管理されていたラ・カームにとって、初めて自分の意思で決めたことだった。
『自由』
そんな二文字がラ・カームの頭の中に思い浮かんだ。
しかし、王都はラ・カーム王国の中央東側にあるので皇子たちが王国を脱出するのは至難の業であった。
・・・港町ダ・ゴールまでまっすぐ行ってもどこかで追手に捕まるか。
このまま南へまっすぐ行けば、ラーカの都、西へ行くと平原地帯、東は小規模な港町ユーラがある。
少し心配になって、ラ・カームはサーシャの横に馬を付けた。
サーシャも説明をしたかったようで、いったん馬を止めた。
「王都から三十キロは離れましたね」
「うん、このあとどうするの?」
「ラ・カーム様から相談を受けて一週間資金の準備だけをしていたわけじゃないんですよ」
「なにか手を打っているの?」
「私の師匠に話してあります。東のユーラの港から北部森林のロズオブニア地方へ船で行くつもりです」
「そっか、サーシャなにも考えずにダ・ゴールまで行くのかと思ったよ」
「きちんとラ・カーム様のためにがんばっているんですからねぇー」
「ありがと、サーシャ」
「ここから東のユーラまで馬でも二日かかります、主要街道も使えませんからね」
「うん」
「ラ・カーム様、なんか顔がわくわくしていますよ」
「なんだか、皇子としての義務じゃないことをやるのははじめてのような気がしてね」
「あは、そうかもしれませんね、ラ・カーム様、最近大人びてきていますよ」
「ありがとうサーシャ」
言葉を締めくくって二人は迂回しながら東へ進んだ。




