第43話
ラ・カーム王国も十一月になり、朝晩は少しずつ冷えてきていた。
ラァとラナはまだ目が覚めない、以前よりも血色も悪くなっているようだった。
王国内の医師と水魔法マスターが様々な方法で対応したが、結局はミルシャの術式を中心とした回復魔法をかけ続けるということになった。
学校には護衛の近衛団を除くとラ・カームとサーシャしかいなかった。
「あーだんだん涼しくなってきましたねー、南のダ・ゴールの海にでもいってパーッとしたいですね」いつものようにサーシャは気軽にラ・カームに声をかけた。
「サーシャ」いつの間にかラ・カームもサーシャのことは呼び捨てになっていた。
「なんですか?」
「もし、国に背くことになっても僕についてきてくれるか」
「え?なにを言っているんですか」
「僕が王都にいれば、ラァとラナは回復しない、クアナ湖のことからずっとなんだ、多分二人のことは考えるだけでもだめだ、一方的に僕に二人の命の力が注ぎ込まれている」
「そんなことって」
「多分、父上や魔術院の人は知っているんだ、初代ラ・カーム王の王妃も若くして亡くなっている」
「どうするんですか?」
「サーシャと逃げる、どこか遠くへ」
「ラ・カーム様」
「これは命令じゃない、お願いだ、だから嫌なら拒否してもらってかまわない、国を裏切ればサーシャの家族にも迷惑がかかるだろう」
「わたし、家族いないんです、ラ・カーム様の言うことならなんでも聞くって言ったじゃないですか、もちろんご一緒させて頂きます」
「・・・ありがとう」
「それに、ラ・カーム様と逃避行なんてどきどきします」
「はは、サーシャはほんとに助かるよ、ごめん」
「大丈夫ですよ、ラ・カーム様」
「でも、どこに逃げるかなんてあてはない、それに僕ら目立つしね」
ラ・カームの王族特有の白髪に紫がかった髪と、赤と黒の髪色を持つサーシャはさぞ目立つであろう。
「染料があるから、髪の毛は黒く染められますよ」
「逃げる場所は・・・」サーシャが髪の毛をいじりながら考えた。
「私に考えがあります」
「うん、任せるよ僕にはなにも君にあげられるものはないけど・・・ごめん」
「謝るの禁止です、じゃあ、これが成功したら付き合ってください」
「え・・・」
「私、ラ・カーム様のことずっと・・・す、好きだったんです」
「ありがとう・・・でも、僕はサーシャのこと愛することはできないと思うよ・・・」
「ラ・カーム様の気持ちはわかっています、でも、私を好きになったらもしかしたらラァ様とラナ様も助かるのかもしれませんよ」
「なんでそうなるの?」
「女のカンっていうやつです」
「うん・・・考えておくよ」
「はい!」元気よく言った。
そこからの準備はほぼサーシャがやったと言ってよい。
馬の調達、旅費の準備をサーシャは一週間足らずでやってしまった。
王都ラーには常時水魔法のラ・バウンディング=魔法攻撃を跳ね返す、とパク・ルーン=物理攻撃にたいする結界、が張られていた。
それゆえ、王都の外からリザ・ゼロを唱えても王都は無傷である。
しかし、中から術式を唱えれば結界の効果は働かない。
王都を逃げ出す日、ラ・カームとサーシャは護衛を撒くためにリザ・ゼロを唱えた。
通常であれば、十名程度のマスターが同時に詠唱しなければ効果はのぞめないが、二人の魔力で王都の東側半分は暴風雨と落雷になる。
その混乱の中、二人は馬をひたすら南に走らせていた。




