第12話
この日の午後もシュナイゼルの授業だと思っていたラ・カームであったが、剣術道場にはシュナイゼルの姿はなかった。
その代わりに屈強な体格の兵士が立っていた。
「殿下、初めてお目にかかります。本日はシュナイゼルに代わりまして、わたくし、ダナ・カシムが稽古を行います」
そう野太い声で言った。
茶色の短い髪に褐色の肌、大柄な身長に無数の傷跡が残る。
立っているだけでも威圧感が感じられた。
「北部方面軍団長のダナ・カシムですね」ラ・カームは言った。
「殿下の耳に届いているとは光栄です。殿下のお噂もすでに国中に響いております。剣術も魔法もすでに近衛団のレベルを超えていると」
「いえ、まだわたしにはそのような力はありません」
「ご謙遜ですな、シュナイゼルのような軟弱者に教わっていると殿下の腕が鈍るかと、私が国王陛下に進言し、本日だけではございますが、殿下の剣術のお相手をさせていただきます。」
「分かりました、ダナ・カシム団長、よろしくお願いします」
「では、構えてください」
ラ・カームはいつものようにすっと構えた。
今のラ・カームには分かる、隙がない。
模擬刀を持ったまま数秒動けなかった。その数秒がラ・カームには三十分にも思えた。
ドンッ
受け身を取る隙もない強烈な一撃がラ・カームを襲った。
「殿下、力量差だけでは勝負は決しません、次に会う時まではせめて一太刀見せてください」
ラ・カームは意識が遠のく中でその言葉を聞いた。
「・・カーム」
「ラ・カーム」
ラ・カームは宿舎にいて、もう夕刻であることに気付いた。
そばにはミルシャ先生とラァ、ラナがいた。
ミルシャ先生がラ・ケアの術によって治療してくれているのが分かった。
「ダナ・カシムは今度会ったら殺しておきますから、安心してくださいね」ミルシャはにこやかな顔で怖いことを言っていた。
ラァとラナも覚えたてのラ・ケアの術式を詠唱してくれているらしい。
「大陸一の剣士なんでしょ?手加減てものをしらないのかしら」ラァはかんかんに怒っていた。
「・・・えっと、たぶんこれでも手加減しているんだと思う、けど・・・」
「三人ともありがとう、ダナ・カシム団長は悪い人じゃないよ」ラ・カームはやっとしゃべれるようになるとそう言った。




