第11話
七月
王都ラーにも夏が訪れていた。
王宮内の教室にも暑い日差しが照り付けていた。
その炎天下でも、ミルシャは淡々と授業を続けていた。
「殿下たちには、改めて中央大陸の軍事情勢・政治情勢を説明いたします」
「ラ・カーム王国は、今現在でも北の大国イグニクェトゥアと戦争状態にあります」
「イグニクェトゥアは二千年続く国で、魔法技術を最初に確立した国と言われています」
「我々の住むラ・カーム王国を含む大陸の東側部分のほとんどは、二千年前からイグニクェトゥアの支配に置かれていました。」
「およそ九百年前、初代ラ・カーム王はイグニクェトゥアに対して独立戦争を起こし、現在の南部海岸地方ダ・ゴールで挙兵しました」
「イグニクェトゥアは魔法を使えるものを貴族階級として、魔法を使えない者を奴隷のように扱っていたため、その抑圧に耐え切れなかった者たちはラ・カーム王の下に集まりました」
「王の軍勢は現在の南部海岸、王都のある中央平原、そして金鉱のある中央高地まで数年のうちに掌握しました」
「そして、北部森林まで到達したところで、イグニクェトゥアと膠着状態となり、現在まで千年戦争と言われる状態になっております」
「また、独立戦争の際にラ・カーム王国の北西に位置する山岳地帯はレグニヤーローと名乗り共に独立しましたが、圧倒的なイグニクェトゥアの軍隊に屈服し、今はイグニクェトゥアの保護国として、軍事顧問団が派遣されており、政治の実質はその軍事顧問団が決定しています。」
「王国の北部方面軍は主にイグニクェトゥアとの戦闘に当たっており、南部方面軍はレグニヤーローとの戦闘に当たっております。なお、南部方面軍のグリフォン部隊が、イグニクェトゥアに対して空からの電撃作戦を行い、北部方面軍をサポートしています」
「また、南部海岸の西には我が国の同盟国キリスオーがありますが、好戦的な種族ではなく、亜人が住んでいます」
「亜人?」ラァが尋ねた。
「普通の人とはちょっと違った人種です、・・・魚だけ食っとけ」
「????」
「いえ、すみません、魚介類が好きな人種でして、女好きというか、遊び人というか・・・」
・・・たぶん先生には触れられたくない過去があるんだろうな。幼いながらも三人は思った。
「とにかく、キリスオーはダ・ゴール自衛軍という、王国に忠誠を誓う自衛軍が守り、キリスオーの北の山岳地帯のレグニヤーローと戦争状態にあります」
「そして、キリスオーとレグニヤーローを挟んだ、西の彼方にはメノ・インヴォーズという国があります」
「メノ・インヴォーズは、数千人の国民を生贄にして、魔人を召喚する恐ろしい国です」
「魔人は五つの系統の魔法を全て使用でき、また我々には理解できない魔法を発現させます」
「メノ・インヴォーズには百年前の戦争で、ダ・ゴール自衛軍が魔人一人に壊滅させられたという記録が残っております」
「ただし、メノ・インヴォーズには他国に攻め込む意識は低く、我が国やイグニクェトゥアに対しては中立を保っています」
午前中の長い授業が終わり昼休みに入った。
「今日は長かったねー」とラァ
「ん・・・眠かった」目を赤くしながらラナ
「メノ・インヴォーズの魔人か、たしか聞いたことあるよね」ラ・カームが言う。
「うん、五千人の命の代わりに十年の時を生きる魔人」ラァも厳しい表情で答える。
「えっと・・・魔人よりもレグニヤーローの亜人のほうが気になったんだけど・・・」
「たぶん先生の元カレだよー」ラァは目をきらきらさせながら話す。
「勝手に詮索するのは良くないよ」とラ・カーム
「んー・・でもあんな先生初めて見たし、多分ふられたんだよー」
「そうだよねー、かわいそうな先生、あんなにきれいなのに」
「とにかく、お昼にしよう、午後もまたシュナイゼル先生の稽古があるんだ」
「ラ・カームはミルシャ先生に興味ないの?」
「あるって言ったら二人とも怒るくせに」
『とーぜん』二人の声がハモっていた。