第74話「金欠」
本日2話目の投稿です。
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さて、困った。
今晩寝るところがない。
手持ちのお金は全部エルサに渡してしまって無一文状態。
館に戻ればいい事なんだけど、あんな感じで出てきた手前ルチアさんに会うのも気恥ずかしい。
仕方ないから冒険者として依頼でもこなして稼ぐ事にしようと思う。
「ドッヂ、冒険者ギルドに行く。ついて来てくれ」
いざとなったらドッヂにも手伝ってもらおう。
なんとかしてこのスカンピン状態から脱出しないと。
「へえ、冒険者ギルドって中はこうなってるだか。入ったのは初めてですだ」
ギルドに入ると、ドッヂは物珍しそうに周りを見回している。
年末だからか、冒険者の数はまばらで閑散としている。
「よう、暁の旦那じゃねえか。久しぶりだな!」
いつもの指定席に座った三日月がこっちに向かって手を振る。
冬だというのに相変らず露出が激しい。
あんなに胸の谷間を放り出して寒くないのかな?
まあ僕としては嫌いじゃないけど。
「で、このデカい兄ちゃんは誰なんだ?」
三日月は無遠慮にドッヂを上から下まで見回して言う。
デカいって、君の山脈も充分デカいけどね!
「これはドッヂだ。俺の世話をしてくれてる」
「ドッヂですだ。カル、じゃなくて暁さまの右腕ですだ」
ドッヂがそう言って胸を張る。
君はいつから僕の右腕になったのかな?
つい『俺の右腕ならここにある』なんて悪役っぽいセリフを言いたくなったけど、こらえる。
世話になってるドッヂの機嫌を損ねるのはまずい。
「ふーん、オレは三日月だ。で、どうしたんだ? こんな年末に」
三日月はそっけない限り。
お前自分から聞いておいてもうちょっとドッヂに興味持てよな!
「いや、あっちの仕事が一段落したから何かいい依頼でもないかと思ってな」
僕の言葉を聞いて三日月は肩をすくめた。
「そりゃご愁傷さまなこった。あいにくロクな依頼はねえぞ。冒険者もほとんどいねえしな」
だったらお前はなんでこんなところに居たんだよ。
さては他に行くところがないのか、よっぽど暇なのかどっちかだな。
でも困ったなあ、お金稼がなきゃいけないのに。
念のため依頼が張り出してある掲示板を見てみる。
ペットの犬探し。
年末の大掃除の手伝い。
夜中の火の用心の見回り。
旅行で留守の間の家の警備。
……ホントにロクなのがないね!
ていうか、冒険者ってほとんど便利屋さんみたいな扱いなのね。
「言ったろ? この時期はアホどももほとんど休むから、依頼を出す奴もいないんだよ。でもまあ、話によっちゃあオレが仕事探して紹介してやってもいいぜ?」
三日月はそう言ってニヤリと笑い、右手を差し出してくる。
「残念だな、三日月。俺はいま一文無しなんだ。だから情報料は払えない」
「なんだって?! だって旦那、あんたはここの領……」
でっかい声で叫ぼうとする三日月を慌てて止める。
こんな所で人の正体をばらすんじゃないよ、まったくもう。
「ちょっと事情があって、今あっちには戻りたくないんだ。それで何か稼げればと思ったんだがな」
「ふーん、そういう事か。じゃあオレが……貸してやろうか?」
三日月の笑顔の裏に企みが透けて見える。
赤い仮面を着けていてもはっきり分かんだな。
これは悪魔が魂を売る契約を持ちかける時の顔に違いない。
「やめておこう、とんでもなく高い利子がつきそうだ」
「へへ、バレてたか。仕方ねえな」
悪戯がバレた子供のように肩をすくめてペロリと舌を出す。
お前がそんな可愛い仕草しても無駄だぞ。
後ろから尖ったしっぽが見えてるからな。
「うーん、じゃあ久しぶりにあそこへ行ってみるってのはどうだ?」
「あそこっていうのは……『石の迷宮』の事か?」
「ご名答! あの先が気になってたんだよ。きっとあの闇の女司祭もイライラして待ってるぜ」
なるほど、今なら行っても禿にばれないし、探索の時間も取れるから丁度いいな。
ピックとクノップの都合が合えばいいんだけど。
ちなみに先輩たちはもう連れて行かない。
その方が先輩たちも幸せだろう。
「確かにそれもいいが、さすがに無一文で出かける訳にもいかんしなあ」
「だから、そこはオレが貸しておいてやるって!」
おいおい、ヨダレが垂れそうだぞ。
君からだけは絶対に借りないから。
「あの、暁さま、お金がないだか?」
うん、さっきからずっとそう言う話をしているよね。
「ああ。だから手っ取り早く稼ぎたいと思ってたんだが」
「なら、これを使って下せえ」
そう言ってドッヂは2枚の金貨を差し出した。
これって……?!
「いいのか? これはお前の」
「構いませんだよ。母ちゃんにはまたいつか何か買ってやりますから」
あげたボーナスを返してくれるなんて、お前はなんていい奴なんだ。
ドッヂ、お前は間違いなく僕の右腕だよ。
胸が熱くなりながら有り難くそれを受け取った。
「すまん、必ず返すからな」
「気にしないでくだせえ。それよりどこに行かれるんですか?」
「ああ、ちょっと前に探索に行った迷宮へな」
「もちろん連れてってもらえますだね?」
ドッヂの目が輝いている。
うーん、どうしようかな。
ドッヂは僕の小説の中で戦うシーンも何度かあるし、前衛としては多分優秀だ。
でも得意な武器は大斧なんだよなあ。
狭い洞窟の中で暁の大剣とドッヂの戦斧を同時に振り回したら邪魔だろうな。
やっぱりやめておこう。
「すまん、今回は留守番を頼む」
「えっ、連れて行ってもらえないですだか? だってオラは暁さまの右腕ですだよ?!」
「そうなんだが、でも今回はちょっとな」
「……だったらさっきのお金、返してくだせえ」
「へっ?!」
「オラは連れて行ってもらえると思って渡しただ。連れてってくれないなら返してくだせえ!」
それは困る、めっちゃ困る。
そうなったら三日月に借りなきゃならない。
そんなことになったらきっとケツの毛まで全部抜かれちゃうに決まってる。
しかたないな、はあ。
「分かった分かった、連れてくよ」
「ホントですだか?! 嬉しいですだ」
「そうか、よかったな。それでその前にドッヂには別に頼みたいことがある」
「なんですだか?」
「三日月、ちょっと紙とペンを貸してくれ」
僕は手紙を書いた。
周りに聞こえないようにドッヂに顔を寄せて小声で頼む。
「ドッヂ、武器を取りついでに屋敷に戻ってこの手紙をミレアに届けてくれ」
「分かりましただ。ミレアさんに渡しますだ」
「何かあったらこれをすぐに騎士団長に渡すようにミレアに伝えてくれ」
「なにかあったらこれを団長さんに渡すように言うだな」
「そうだ、頼むぞ。俺の右腕と見込んでの秘密の任務だからな」
秘密の任務と聞いてドッヂの鼻息が荒い。
こういうの好きだよね。
「よし、決まった。じゃあ三日月、あとはクノップとピックを誘うか」
「ああ、いいぜ。それと一応確認しておくが、さっきの紙とペンは貸しだからな」
し、しまったああ。
ニタニタと笑う三日月の笑顔が怖過ぎる。
今度から三日月に物を借りないように気を付けなきゃ。
明日も投稿します^_−☆




