第6話「マーカス」
本当2話目の投稿です。
これからどんどん盛り上げていきたいと思います!
カルロが一礼して帰った後、僕は執務室という所でピカールと話をした。
重厚な机のネコみたいな足の付いた背もたれ椅子に座る。
この大きな机はマホガニーとかいうのだろうか、良く知らないけど。
なんかいかにも社長さん、って感じで気分がいい。
ここに美人秘書でもいれば最高だけど、目の前にはハゲ……じゃなくてピカールのおっさん。
「ではピカール、先ほど言ってたようにFを近衛騎士団の隊長にしてくれ」
「カルロ様、それは私の仕事ではございません。近衛騎士団長に命じて下さいませ」
あら、なんでもピカールに頼めばいいって訳にもいかないのか。
「ふむ、騎士団長は誰であったかな?」
必殺の「落馬で記憶喪失の術」を炸裂させる。
「近衛騎士団長を務めますのはマーカス卿でございます。お父上の代から仕えている人物です」
マーカス、マーカス……何となく聞いたことのあるような名前だ。
あっ、そういえば……!
マーカス将軍がどうたらこうたら、という文章を書いた気がする。
別に活躍したとか特別なエピソードがあるわけじゃないんだけど、何かの流れの中で書いたような。
という事はそのマーカスを将軍にして、Fを空いた近衛騎士団長にすればいいってことか。
でも将軍ってだいぶ偉い人だよな。
そんな地位に能力のない人を置くと後で苦労しそうな気がする。
まあちょうどいい、これを機に一度会ってみるか。
「ではピカール、そのマーカスをここへ呼んでくれ」
「かしこまりました」
ピカールが頭を下げて出て行く。
ふーん、ここが僕の部屋なのか。
全体的にアンティーク調で落ち着いた雰囲気だ。
嫌いではないけど、ここにフィギュア置いても似合わないなあ。
部屋の中をうろうろ歩いて戸棚の中を覗いてみたり、机の前の応接用ソファーに座って見たりした。
ふと見ると、この机の上にも呼び鈴がある。
喉が渇いたので呼び鈴を鳴らしてみる。
チリンチリン――
「お呼びでしょうか?」
すぐにメイド姿のレイナがやってきた。
うん、やっぱり可愛い、胸はあまり大きくないけど。
年はいくつなんだろう?
あ、でもこの娘にはアレを見られたんだよな。
……忌まわしい記憶。
消すことの出来ない過去。
出会ってすぐに結ばれないことを運命付けられた二人。
悲劇だ。
でも待てよ?
あの時の僕は自分がカルロであることを知らなかった。
でも彼女が見たのは僕じゃなくてご主人様のカルロだ。
尿瓶を使ったのは僕じゃない、カルロなんだ!
そう考えるとなんだか急に大丈夫なような気になるから不思議だ。
「カルロ様?」
そう、僕はカルロ、悪役で豪放磊落、傍若無人なカルロなんだ。
尿瓶でオシッコするところを見られたくらい、どうだっていうんだ!
「カルロ様? 何かご用でしょうか?」
「あ、すまん、ちょっと考え事をしておった。それはそうとレイナはいくつになるのだったかな?」
「え?あ、今年で17になります」
ストラーイク!
JK絶好球だ。
「そ、そうか。喉が渇いた。水を頼めるか?」
「かしこまりました、今お持ちいたします」
レイナは頭を下げて出て行った。
うーん、やるな、僕。
これほどさりげなく自然な感じで女の子に年を聞けるなんて、カルロの効果は凄いな。
もとの世界の僕自身では絶対無理な芸当だ。
レイナが戻ってくると同時に、男の人が入ってきた。
白い口ひげが立派な、ちょっと年配の男性だ。
目は開いているのか閉じているのかわからないほど細い。
宇宙戦艦の初代艦長をしていそうな、いかにも頑固そうな感じ。
「これはカルロ様、ご無沙汰しております。このマーカスに何かご用だとか」
僕が勧めるのも待たずソファーにどっかりと座りこんだ。
いかにも歴戦の騎士、という感じで迫力あるな。
でも僕は悪役カルロ、引く訳にはいかない。
「マーカスか。息災か?」
「おかげさまで。で、何の御用ですかな?」
うう、なんとなくプレッシャー。
負けるな、僕。
「近ごろ近衛に配属されたフィッツジェラルドという男を知っておるか?」
「おお、存じております。あの男がどうかしましたかな?」
「マーカスはあの男をどう見る?」
「剣の腕は相当なものですし、人物としても肝が据わっております。正直今まで平騎士でおったのが不思議なほどですな。まあ家柄が低いのが理由なのでしょうが」
うん、この爺さんなかなか人を見る目があるじゃないか。
「そうか。ではフィッツジェラルドを俺直属の隊長にしてくれ」
マーカスの爺さんはほう、といった表情で細い目を開けて僕を見た。
ますます艦長にしか見えなくなってくる。
波動ほ……おっと、危うく二次創作に走る所だった。
「分かりました。ではさっそく明日にでも」
「頼む。話は変わるがマーカス、今のフランツ王家についてどう思う?」
「そうですな、中央集権化を急ぐあまり、旧来の有力諸侯との仲はかなり冷え切っているようです」
「そうか、俺に対してはどうだ?」
「メリチ家は有力ですが新興の貴族。カルロ様の態度によっては近づこうとして来るやもしれませぬ」
「有力諸侯に対する盾代わりにしよう、という事か」
うーん、この爺さん分かってるな。
僕の小説ではフランツ王は有力諸侯に対抗するために、カルロと王女を婚約させることになってる。
まあでもそのシャーロット王女は勇者に恋して、最後は勇者と結ばれる(予定)のだけれども。
「ではバルバロイの奴らについてはどう考えておる?」
メリチ辺境伯領を含むフランツ王国は、その北側をバルバロイという騎馬の民と国境を接している。
僕は小説の中でバルバロイが辺境領との国境を侵して侵入し、カルロがその撃退に苦労したと書いた。
でもそれがいつのことかは書かなかったから気になっていたんだ。
「国境から戻ってきたフィッツジェラルドの話を聞いておりますと、今年攻め入ってくるという可能性は低いかと思います。ですが、この2、3年のうちに攻め込んでまいる可能性は極めて高いと言えるでしょうな」
「そうか、ではすぐにでも策を立てておく必要があるな」
この爺さん、使えるじゃないか。
外交に見識もあるし、バルバロイの分析にしても将軍にするにはぴったりだ。
カルロはいろいろやることも多いし、軍事面を任せることが出来る人材は必要不可欠だ。
「マーカス、内密にしてほしい相談がある」
「……何でございますかな?」
「できるだけ近いうちに、お前を将軍とし、近衛騎士団長の後任にフィッツジェラルドを充てたい」
「ほう、この爺に閑職に退け、ということですかな?」
「逆だ。お前に兵馬の権を任せたい」
マーカスは表情には出さなかったが、内心驚いていた。
カルロは暗愚な主君ではなかったが、先代より仕えている自分を煙たく思っていたはずだ。
その証拠に今日まで腹を割った話をしたこともなかった。
それが突然呼び出され、珍しいことだと思っていたらこの話だ。
落馬したと聞いたが、その時に頭でも打ったか?
どうも今までとは感じが違う。
まるで人が変わったのかと思うほどだ。
まあそうだとしても、腹心にフィッツジェラルドを選ぶとは悪くない選択だ。
外交の質問も的を射ている。
何より感心したのは、バルバロイへの対策を急がねばならないと言ったことだ。
この国の貴族は総じて、バルバロイを蛮族と呼んでその力を軽視する傾向にある。
騎馬の民であるバルバロイの戦闘力を見ようとせず、文化的に劣っていると馬鹿にしているのだ。
それを真っ向から脅威ととらえ、その対策を急ぐというのはまさに正しい判断だ。
しかも自分を将軍に据え、用兵の権限を与えようという。
まあたとえ頭を打って人が変わったとしても、それがいい変化であるなら拒むことはない。
まだ尻の青い金髪の小僧だと思っていたが、なかなかの人物かもしれぬ。
自分もそろそろ余生に入るのかと思っていたが、思わぬ働きの場を得たようだ。
「なるほど、かしこまりました。では御意に沿うべく、フィッツジェラルドに手柄を立てさせましょう」
「悪いが頼む。今の話を実行に移す方法を考えてくれ」
「はい、ではこれにて失礼いたします」
マーカスは出て行った。
どうやら僕の提案を好意的に受け止めてくれたようだ。
Fに続いて有能な人物と知り合うことができた。
これでまた物語の結末へ一歩前進だな。
お読み頂いてありがとうございます!
マーカス団長のモデルはヤ○トの沖○艦長です(古
また明日もよろしくお願いします☆