第64話「軍事演習Ⅱ」
一方その頃、丘を挟んで逆の東側の陣には将軍のマーカスと近衛隊長のルーノスがいた。
青い軍旗を持った兵たちが並ぶ後ろに置かれた机を挟んで話し合っている。
「将軍、作戦はどのように?」
「うむ、そうじゃな。まずはカルロさまの出方じゃ。今回の軍制改革の目玉が騎馬隊の分離にある以上、騎馬の機動力を生かした作戦を取ってくるのは間違いなかろう」
「そうですね」
「騎馬を独立して運用することは、その速さという面では確実に効果がある。じゃが一方でその数が多い訳ではないから、いかにそれが近衛騎士からなる精鋭といえど多数と正面から当たりたくはないはずじゃ」
マーカスはそう言うと、机の上に広げた地図の中心を指し示す。
「向こうはほぼ間違いなく最初にこの砦を奪いに来るじゃろう」
「速さでは確実に向こうが上ですから、砦を抑えられるのは間違いありません。それが厄介ですね」
「そうよの。たとえ50にすぎぬとはいえ、近衛騎士に砦に籠られると落とすのは時間が掛かる」
「じきに後続の応援が来てしまいます。そうなるとますます落とすのは難しくなりますね」
「そうじゃろう、そこでじゃ」
マーカスは丘の南を迂回する大きな弧を描いて見せた。
「ワシらは砦を狙わず南を回って直接本陣を落とす」
「なるほど、裏をかくという訳ですか」
ちなみに相手の本陣を落として狼煙を上げることに成功すれば、その時点で勝ちとなる。
「しかしもし相手も同じように迂回して来たらどうします?」
「如何に相手の脚が速かろうと騎馬50騎じゃ、その備えにこちらは本陣に3分の1の兵を残す」
「100の兵で本陣を守り、残る200の兵で相手の本陣を突く訳ですね」
「さようその兵はルーノス、お主に任せる。例えカルロさまが騎馬以外の兵250を全て本陣に置いておったとしても所詮は屯田兵の寄せ集め、指揮する者も戦の経験のない烏合の衆じゃ、恐れるに足らん」
「もし途中で騎馬隊に遭遇しても、その兵力差では確実に打ち破れますね」
「騎馬を独立させると歩兵と速さの差がでる故、各個撃破の危険性も増す。そこを利用させてもらおうか」
作戦計画が出来上がり、マーカスはルーノスと共に兵たちの前に立って話し始めた。
「現在カルロ様の命により、軍の改革が行われているのは皆聞いておろう。騎士団の中にはあまり納得できておらん者もおるかと思う。そういう者にこの新しい編成がいかに効果的かを見せるのが今回の演習の目的じゃ。つまり――」
マーカス将軍はそこで一呼吸おいて声を張り上げた。
「今回、我々はやられ役じゃ。散々に負けて『この軍制改革が正しかった』と皆に分からせることが期待されておる!」
マーカスのその言葉を聞いて兵たちがざわつく。
自分たちがやられ役だと言われたのだからそれも当然だ。
ルーノスは思わず小声でマーカスに聞いた。
(そんなことをぶっちゃけて大丈夫なんですか?将軍は勝つおつもりなんですよね?)
(まあ、見ておれ)
マーカスはさらに声を張り上げた。
「しかし、じゃ。ワシはおとなしく負けて見せる気は毛頭ない! カルロさまからも思い切りやってよいとの許しを得ておる。お主らはどうじゃ? 勝ってカルロさまの鼻を明かしてやりたいとは思わんか?!」
兵たちのざわつきはさらに大きくなる。
「お主ら、ここで見事に勝って見せようではないか! そうじゃ、勝てば皆に特別な褒賞を出そう! お主ら、勝ちたいとは思わんか?!」
『おお――!』
兵たちはマーカスの問いかけにこぶしを突き上げて答える。
それに続いてルーノスも叫んだ。
「お前ら、勝って今夜は美味い酒をたらふく飲むぞ!」
『おお――!』
「年越しはその金でちょっとはいい思いが出来るぞ!」
『おおぉ――!』
「いいか、これは演習じゃない! 実戦のつもりで絶対勝つぞ!」
『おおおおお!!』
「うむ、皆なかなかいい塩梅にやる気が出たようじゃな」
兵たちの士気の高まりに、マーカス将軍は満足げにあご髭を撫でた。
「そうですね、これなら十二分にやれます」
「ではそろそろ時間じゃろう。攻撃隊の準備を頼む」
「かしこまりました。陣の守りはお任せしますので」
こうして準備は整った。
あとは砦から演習開始の狼煙が上がるのを待つだけだ。




