第5話「F」
こんばんは!
2週間連続2話投稿キャンペーン3日目です。
いよいよメインキャラクターが登場します☆
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食べられない訳じゃないがやっぱり味的には塩ベースの昼食のあと、約束の人物が僕の元を訪れた。
「初めてお目にかかります。先日まで国境警備隊におりまして、このたびカルロ様の近衛騎士団に配属されました。よろしくお願い致します」
直立不動で立っている男は身長185センチ、鍛え上げられているのが服の上からでも分かる。
彼の名はフィッツモーリス=フィッツジェラルド卿、通称「F」。
カルロ=ド=メリチ辺境伯の近衛騎士団長にして右腕、忠誠心篤く剛毅な騎士だ。
小説の開始時点で32歳の設定なので、いまは27歳か。
それにしても、作者の僕が見ても驚くほどの美男子だ。
茶色い髪に凛々しい目鼻立ち、整った顔はそこらのハリウッド俳優なんか目じゃない。
ここまでカッコいいと嫉妬心もわかないね、フン。
僕だって元の世界から比べればものすごくカッコ良くなってるんだからいいさ。
カルロだって一応モテキャラだからな、金髪にブルーアイズだし。
馬から落っこちて頬っぺたに傷が付いちゃったけど。
Fは物語の終盤で愛想をつかせてカルロの元を去って勇者の仲間になる(予定の)キャラクターだが、僕が書き上げたところではまだ仲間だった。
もう徐々に雰囲気は悪くなっていたけど。
とにかく、最強の仲間になるはずのFとこれほど早く会えるとはラッキーだ。
上手くこのまま仲間になってもらわないとな。
「しかし、卿の名前は長くて呼びにくいな。略して呼んでよいか?」
「結構です。お好きにお呼びください」
「そうか、では今から卿の事を『F』と呼ぼう」
「え、エフですか……?」
しまった、まだ早かったか!
言われたFは呆然、横で聞いてるピカールも「さすがに一文字に略すのは……」とか言ってるし。
でも口に出してしまったものは仕方ない。
これ以上重要キャラの呼び名を変える訳にはいかない。
すでにピカールの呼び方を「ハゲ」から名前に変えてしまったばかりだし。
これで押し通すしかない!
「ワッハッハ、なかなか斬新で良かろう。ところでFよ、卿を呼んだのは他でもない。俺の剣の相手をして欲しいのだ」
「剣の相手を? 私は構いませんが、大丈夫なのですか? 昨日落馬で怪我をされたとお聞きしましたが」
もう話が広まってるのか。
ここはカルロの豪快キャラを印象付けておかなきゃな。
「なに、この通りほんのかすり傷だ。心配は無用よ」
そう強がって僕は腕に巻いた包帯を解いて見せた。
正直あっちこっちズキズキ、ジンジンしてるけどね。
あ、いま引っ張ったせいで擦り傷のカサブタが剥がれた。
これ後で痛いんだよね(涙目)。
「そうですか、出過ぎたことを申しました。ではお相手させていただきます」
「すまんな。ピカール、場所を整えてくれ」
「かしこまりました。では訓練場にご案内いたします」
ピカールに連れられて、Fと一緒に訓練場に移動した。
通りすがりに見ただけだが、やっぱりこの屋敷は狭いな。
僕が住むには広すぎるけど、悪役カルロの住処としては物足りない。
やっぱりバルハート城を建てないと。
訓練場で刃を潰してある試合用武器を選ぶ。
やっぱりFは片手持ちのロングソードと盾を使うのか、小説の通りだ。
だったらやはりカルロとしては小説通り片手・両手持ち兼用のバスタードソードだな。
「遠慮せずかかって来い、F卿」
「では参ります」
たがいに一礼し、訓練試合が始まった。
Fが剣を構えた姿はやっぱり凛々しい。
さすがはフランツ王国最高の騎士だ。
Fは最初は様子を見てくれているので、僕の方から思い切って打ちかかっていく。
素人の上に運動経験もない僕にとって剣の試合は未知の世界だったが、不思議なことに体が勝手に動く。
どう動くか考える間もなく、自然と剣を振っていた。
僕のスムーズな動きにはFも驚いた様子で、次第にFの攻撃も激しくなってくる。
でもその攻撃も僕は意識することなく受け止め、流し、反撃していた。
すげぇ。
これって噂のチート能力なんじゃないか?
まるで自分じゃないみたいに軽やかでしかも力強い動き。
しかも時々Fの動きがスローモーションのように見える時さえある。
反射神経や瞬発力だけじゃなくて動体視力もだいぶ強化されてるな、これは。
これがカルロの身体の能力によるものなのか、作者補正が掛かっているのかは知らないけど。
でもさすがにFから一本取るって訳にはいかない。
さすがはフランツ王国内でも最高の剣の使い手というだけのことはある。
これからもFに稽古を付けてもらうことにしよう。
そうすればそのうち結構すごい必殺技なんかも覚えたりするかも。
カルロにはスタミナもかなりあるらしく、夢中で試合を繰り返すうちに気が付くと2時間が経っていた。
はあ、はあ、はあ
さすがに息が上がる。
「見事だ。さすがに我が領内で卿の右に出る者はいない、とまで言われるというだけのことはあるな」
「恐縮にございます」
「これからも俺に剣の稽古を付けてくれ。そうだな、卿を俺付きの隊長にしよう」
「はっ?いや、しかし私は近衛騎士団にも昇進したばかりで家柄も低く」
「家柄などどうでも良い。俺は能力のある者はそれにふさわしい地位に付くべきだと思っている。いずれは騎士団長に、とも思うが今は隊長で我慢しろ」
――――――――――――
フィッツモーリス=フィッツジェラルドは戸惑っていた。
彼はメリチ家に仕える貧乏騎士の後継ぎとして生まれた。
勉強も出来たが幼い頃より剣に抜群の才能があり、周りからは神童と呼ばれていた。
いつか立派な騎士として名を上げたいという目標を持ち、そのために鍛錬を積み重ねてきたのだ。
今ではこのフランツ王国全土を見渡しても、自分より強い者はそうはいまいという自負がある。
しかしやはり家柄の低さはいかんともしがたく、蛮族バルバロイとの国境での警備に回された。
任地はこのバルハムントより北へ遠く離れ、決して華やかな仕事ではなかった。
そこでいくつかの武勲を上げ、27歳になってやっと近衛騎士団に配属されて戻ってきたのだ。
主君からいきなり呼び出しがかかった時は何事かと驚いたがこのカルロという人物、相当変わり者だ。
名前が長いから略されるのには慣れていたが、大抵は「フィッツ」と呼ばれていた。
それをいきなりアルファベット一文字に略すとは。
落馬して怪我をしたと聞いていたが、それを気にする様子もなく剣の試合をしろという。
豪快な人物だという噂も聞いていたがその通りらしい。
実際に手を合わせてみてさらに驚いた。
その地位からしておそらく実戦経験はないだろうが、そうとは思えぬほどの腕前。
さすがに一本は取られなかったが、何度かヒヤリとする場面があった。
しかもその剣筋が天衣無縫、実に伸びやかだ。
これはこの方の性格を表しているのでは、というイメージを抱いた。
このまま修行されたらかなりの腕前になることだろう。
しかしやはり一番驚かされたのはその後だ。
いきなり自分を騎士団の隊長にするという。
家柄を気にせず、能力に応じて取り立てるというのだ。
この時代にそんな貴族は聞いたことがない。
長らく騎士として名を上げたいと夢見てきたが、やっとその時が来たのかもしれない。
自分を信頼し、自分の能力を発揮させてくれる主君と出会うこと。
それがどれほど難しく尊い事か。
カルロ=ド=メリチ辺境伯に仕える騎士「F」としてこの剣を捧げよう。
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