第57話「石の迷宮Ⅰ」
いよいよ初めてダンジョンに入ります。
ファンタジー小説なのに今さら⁈という感じですがw
「あなた、馬の扱いが下手ねえ。その分じゃ女の扱いも推して知るべし、って感じかしら」
「……何とでも言ってくれよ、もう」
闇の美少女司祭キトラを後ろに乗せたベース先輩が、けなされて拗ねている。
最初はいちいち反発していたが途中で心が折れたようだ。
三日月も出来るだけ目を付けられないようにしているんだろう、すっかり大人しい。
「そろそろコウガの里の近くを通るぞ」
久々に口を開いた三日月がボソッと言う。
コウガの里といえば、マクベル伯爵の領内にあるっていう闇の軍団の本拠地か。
……ん?
この「闇の軍団」ってひょっとして「闇の神」と関係ある?
「キトラ、闇の軍団って知ってるか?」
「そりゃあ知ってるわよ。闇の神の一人で『狼の神』スコルを信じる者たちだもの。陰気臭い連中よね」
やっぱりそうなのか。
まあでもキトラと仲間って感じじゃあなさそうだからいいかな。
ひょっとすると、と思って一応警戒しながら進んだけど特に何も起きなかった。
道なりにさらに進むと、かなり深い山道へと続いていた。
うっそうと茂った森の中を細い道がとおっている。
「この辺りのはずなんだが……」
地図を片手に三日月が辺りを見回すが、見通しが悪く良く分からないようだ。
唯一の手がかりは先に言った冒険者が通ったと思われるけもの道だが、この辺りでみんな迷うのかそれすら迷走している。
「ちょっとアタイが見てきます」
ピックが馬から降りて身軽に走り出す。
仕方がないから僕らも馬を降り、切り株なんかに腰かけながら休憩していた。
そこへピックが走って戻ってきた。
「それらしい穴を見つけました」
さすがは盗賊娘、鼻が利くというか目ざといと言うか。
僕らは馬を曳いてその穴に向かった。
「これがダンジョンなんですね。ボク初めて見ました」
クノップが入り口を見て感心している。
正直僕も初めてでちょっと感動したけど、そうは見られないように平然としたふりをしてみた。
そのダンジョンの入り口は想像していた物とはかなり違った。
なんていうか、もっと自然にできた洞穴みたいなものだと思っていたけど、実際のそれは石造りのアーチに階段まである明らかに人工的な物だ。
先輩たちは感心しながらこわごわ中を覗きこんでいる。
「ふーん、なるほどねえ」
闇司祭のキトラは何かに感心したようにつぶやき、三日月はやっと慣れて自分のペースを取り戻したのか嬉しそうな表情になっている。
「こりゃあさすがはSクラスのダンジョン、ってところだな。金の匂いがプンプンするぜ」
今にも揉み手をしそうな勢いだ。
このタイミングでちょっと聞いてみることにした。
「三日月、どこでそんな匂いを感じるんだ?」
「そりゃあもう見た目がアレだろうが。普通のダンジョンてのは自然の洞窟か、たとえ誰かが作ったにしろそれっぽく偽装しているもんだ。これだけはっきり『ここにダンジョンがある』って主張しているのはそうはねえぜ」
その三日月の言葉にキトラが続けた。
「胸と腕力しか取り柄がない割には良く分かってるじゃない。つまりこれは『誘ってる』って事ね」
「誘ってる、ってオレ達をか」
「だからそう言ってるでしょ、ほんと馬鹿ね。わたし達のような人間を中で待ち構えてるって事よ」
ディスられた三日月はあからさまにムカッとした表情をしたが、何も言い返さなかった。
でもわざわざ誘って何になるんだ?
入場料を取って稼ぐ、って訳じゃないだろうし。
もしかして中にアトラクションがあって、そのたびにお金取られたりして。
それじゃまるであこぎなテーマパークだよ。
「まあいいじゃねえか。相手が何を企んでるのか、入って見りゃわかる。なあ、暁」
そういう事だな。
まあこのメンバーなら何とかなるだろう。
本当ならここにFとか入れたらもっと心強いんだけど、Fには暁のこと話してないからな。
「よし、じゃあ入ってみるか。三日月とピックで先導を頼む。敵と罠に気を付けろよ。続いて俺とキトラ、その後にクノップを挟んで後衛がベースとドラムだ。後ろも油断するなよ」
入るとすぐにそこは真っ暗闇。
僕は火トカゲの精霊レウスを呼び出し、灯の呪文を唱えた。
すぐに明るい火の玉がフワフワと浮かんで辺りを照らし出す。
「あなた、火の魔法が使えるのね。なかなか便利じゃない」
僕にはお化けとセットの火の玉にしか見えなくて気味悪いんだけど、みんなはそうは思わないようだ。
クノップも同じように火の玉を出して、僕が前を、クノップは真ん中から後ろを照らす。
ダンジョンの中は道も壁も天井も、全てしっかりした石を積み上げて出来ている。
細い一本道の通路を歩いて行くと、四つ角に出た。
僕はポケットからメモと筆記用具を出して書き込む。
「暁、何やってるんだ?」
「いや、見取り図を作っておこうと思ってな」
僕はけっこう昔のゲームも好きで、古いマシンとソフトを買っていくつもRPGをやった。
中古で買うと安いし、味わいがあって意外と面白いんだよね。
グラフィックは当然クソだけどそこもまた味だったりする。
最近のと違い、そういう昔のゲームじゃマッピングは絶対必要だから慣れたもんだよ。
「旦那、マメだなあ。オレはいつもダンジョン出てから、大体の記憶でぱーっと描くけどな」
それはお前が大ざっぱ過ぎるんだよ。
まあそれと筆記用具の面も大きいだろう。
羽ペンとインクじゃこういう所で気軽には描けないもんな。
実は今日この日のために、密かに作った鉛筆の試作品を持ってきたんだ。
まだまだ改良の余地はあるけど、簡単な地図を描くぐらいには充分使えるな。
「とりあえず右から行ってみるか」
巨大迷路攻略の基本、右手を壁に付けっぱなし作戦をやってみる。
四つ角を右に曲がり、そのまま進むと急に広い部屋に出た。
「こりゃあ広すぎて向こうの壁が見えませんね」
ドラム先輩の言う通り、この部屋はかなり広いみたいで向こう側の壁まで光が届かない。
ここは基本にのっとって右の壁伝いに回ってみることにした。
「特に何にも居ねえ、なっ?!」
三日月が何もいないと言いかけた時、突然頭の上から黒くて長いものが落ちてきた。
何かと見てみると、それは体長1メートル以上もある巨大なムカデだ。
天井に張り付いていたところをフワフワと飛んで来た火の玉に焙られて落ちてきたらしい。
無数の足がワシャワシャ動き、ウネウネとくねる姿は見れば見るほどグロテスクだ。
しかも攻撃的なようで、頭を上げてこちらを威嚇してくる。
その口には大きな牙が見えた。
「大ムカデか。大した相手じゃないが気を付けろよ、こいつは毒を持ってる。やられると腫れるし痛えぞ」
三日月の言葉にキトラが反応した。
「大丈夫、もし咬まれたらわたしが治してあげるから」
キトラの妖しい微笑みに、三日月と男たちは全員咬まれないように気を付けようと心に誓った。
注意深くピックが頭を串刺しにして、なおも暴れまわる胴体を三日月がぶつ切りにすると動かなくなった。
「ふう、まあこれしきはどうってことないっすね」
気味悪そうにそれを眺めていたベース先輩がホッとしたように言う。
自分は何もしてないくせに良く言うよ。
まあ僕もあんまりこういうのは相手にしたくないから気持ちは分かるけど。
そのまま壁伝いにぐるっと回り、結局元の場所へ戻ってきた。
「何もありませんでしたね」
クノップが言う。
でも部屋が大きいから真ん中がまだチェックできてない。
仕方ないから全員で今度は部屋の真ん中を突っ切ることにした。
今度は天井も注意して――
「なんだよこれえええええ!!」
しばらく進んだ先の部屋の中心の天井は、一瞬黒く塗りつぶされているかに見えた。
でもよく見るとそれがウネウネと蠢いている。
それを見て三日月が叫んだ瞬間、それが一斉に降ってきた。
天井にはさっきの大ムカデがびっしりと、無数に張り付いていたのだ。
「うわああ!!」
「ひいっ!」
まさに阿鼻叫喚。
ピックも三日月も必死に武器を振り回すが、数が多すぎてお話にならない。
自分に当たらないようにするので精いっぱいのようだ。
「クノップ、魔法だ!」
僕はそう叫びながら炎の壁の呪文を唱えた。
すぐに炎の壁が僕らと大ムカデの間に立ち上がる。
その壁に巻き込まれた大ムカデたちはもがきながら燃えていき、焦げ臭いにおいが立ち込める。
続いてクノップの唱えるファイヤーボールが次々と床に落ちて蠢くムカデたちに炸裂した。
「お、終わったか」
三日月がホッとしたように構えた武器を下ろした。
先輩たちもゲッソリしている。
「あら、誰も咬まれなかったの? あなたたちって意外と優秀ね」
キトラの軽口にも誰も反応してない。
「お頭、最初の部屋でこれって、この先どうなるんすかねえ」
僕に聞かれたって知らないよっ!




