第55話「闇の司祭」
今日は1時間早く投稿します。
「あなた、いったい何してくれてるのよっ!」
ビシッ! と音の出そうな勢いで僕を指さしていたのは、全身黒い服を着た気の強そうな美少女だった。
腰まで伸びた真っ黒な髪に黒い瞳、額には黒い宝石が飾られて、手にはその美少女っぷりには似つかわしくない厳ついメイスを持っている。
その表情は……明らかに怒ってるぞ。
でもこれだけの美少女だと怒ってても美しいな。
「あなた、聞いてるの? 何をしてくれてるのか、って聞いてるのっ!」
僕に向かって指さしたまま、周りに目もくれずつかつかと僕に向かって歩いてくる。
背はあまり高くも低くもなく、三日月よりだいぶ低いがクノップよりは高い。
レースを多用したアンティーク調の黒い服はゴスロリっていう奴か、良く似合ってるな。
そんな美少女がそのまま僕の目の前に来て、僕の鼻に真っ直ぐ人差し指を向けている。
でもなんでこんなに怒ってるんだ?
「久しぶりに戻ってきたら、ちょうどあなたがあの子を火のついた剣でぶん殴ったのが見えたわ」
ここへ「戻ってきた」?
あの子、ってさっきのスケルトンの事か?!
「……言ってることが良く分からないんだが、ここは君の?」
「だからさっきからそう言ってるでしょっ! わたしの教会でいったい何をしてくれてるの?」
「君の教会、と言われてもなあ。雨宿りに入ったらスケルトンが出てきて……」
「そうだぞ、オレ達が退治してやらなかったらお前が襲われてたぞ」
三日月が横から助け舟を出してくれた。
「栄養が全部胸に回っていかにも脳みそが筋肉で出来てるような女は黙ってなさいっ! わたしが作ったのに襲われるわけがないでしょ? 何意味分かんないこと言ってんの?!」
「な、おま……」
黒い美少女は今度は指先を三日月に向けて言い放った。
おいおい、あの気の強い三日月があまりに酷いいわれように思わず黙ったぞ。
ちょっと痛快な気がするのは何故だろう。
って言うか「わたしが作った」って?!
「作った、って君があのスケルトンを作ったのか?」
「だ・か・ら、そうさっきから言ってるでしょ! わたしが作ったのよ。すっごい大変だったんだから!」
そんなことさっきから言ってなかったぞ。
何がなんだか良く分からない。
「ちょっと落ち着こうか。君の言ってることが良く分からないんだ。ここは君の教会で、君が作ったスケルトンと俺達が戦ってるところに君が帰ってきた。で、俺達がスケルトンを倒したから君が怒ってる、っていう事でいいのかな?」
「そうよ、分かってるじゃない。勝手に家に入られて、家の中のもの壊されて怒らない人がいる?」
まあ、そういう言い方をされたらそうだ。
そんなことをしても怒られないのは勇者ぐらいだ。
勇者なら戸棚開けても壺や樽を壊して回ってもおとがめなしだけどな。
「それはそうなんだが、スケルトンを家の中のものと言われてもな。とにかく、まずは座って話さないか?」
「フン、まあいいわ。ゆっくり話をしようじゃないの」
ここで黒の美少女はやっと僕に向けていた人差し指を下げてくれた。
ほっとしたよ、なんかすごいプレッシャーだったから。
「だいたい人の教会に勝手に入って、床まで剥がして部屋の中で焚き火って何考えてるの?!」
やっと焚き火の周りに座ったと思ったらまた怒ってる。
「……それはこいつらがやったんだ」
三日月が先輩たちに罪をなすりつける。
「なに言ってるんすか、俺達はやれと言われたからやっただけで」
「そうですよ姉御、それはあんまりにも」
黒い少女のあまりの剣幕に黙り込んでいた先輩たちが慌てる。
確かにそれは可哀そうだよ。
「それについては俺から謝る。俺は暁、傭兵で冒険者をやってる。君は?」
「わたしはキトラ、闇の神に仕える司祭よ」
キトラと名乗った黒い少女は自慢げに胸を張る。
それを聞いた先輩たちは明らかにドン引きしてる。。
「闇の司祭、ってまじかよ……」
「こりゃやばいですよお頭。関わらねえ方がいい」
「そうだ暁、これはさっさと出て行った方がいいぞ。闇の司祭なんてのはロクなもんじゃねえって」
三日月まで先輩たちに乗っかる始末。
確かに「闇の司祭」って響きはいかにもアレだけど、そんなにヤバいのかな。
「闇の司祭、ってことは本当にアナタがあのスケルトンを作ったんですか?」
クノップがいかにも興味津々、という感じで質問する。
その様子にキトラもちょっと表情を緩める。
「あら、あなたは少しお話が出来そうね。そうよ、わたしが作ったの」
「具体的にはどうやるんですか?」
「手順はそう複雑じゃないわ。この辺りには戦争で死んだ兵士たちの骨がたくさんあるから、それを集めるの。問題は出来る限り人体の構造通りに骨を集めないと、足りない部分が多いとより脆くなってしまうことよね。あと大きさも揃えなきゃいけないからかなり大変なのよ」
「じゃあそうやって一体ずつ集めてきたんですか?」
「まあこの教会の奥の部屋には完全な形で何体分もあったから、それは楽だったんだけどね」
「それって姉御が言ってた通りじゃねえか……」
「だろ? やっぱりオレの推理は当たってたんだよ」
おい三日月、そんなことで威張るんじゃない。
「で、その骨をどうやってスケルトンにするんですか?」
「それは闇魔法を使うのよ。具体的には反魂の術ね」
「でもスケルトンにしては動きが早くなかったか? それに武器や盾も使ってたしよ」
三日月も気になったのか、クノップに続いて質問した。
「あら、いい質問だわ。あなた胸ばっかり大きくて頭は空っぽかと思ったけど、少しは考えられるのね。そうよ、あれは普通のスケルトンじゃないわ。能力を底上げして、速さや力、武器を使う能力を高める秘術を使ってるの。これってかなり大変なんだから」
なるほど勝手に自分の領域に侵入された上に、そうやって苦労して作っておいたスケルトンを壊されたんだから腹を立てるのも道理だな。
そう怒られてもこっちは困る訳なんだけれども。
「で、あなた達どうしてくれるの? あれだけの骨を揃えるだけでも結構大変なんだから。死んだばっかりの死体があってもスケルトンは出来ないしね」
「死体があればスケルトンは出来るわけじゃないんですか?」
クノップの質問にキトラは呆れたように答える。
「そりゃそうよ。肉が付いたままじゃあゾンビになっちゃうじゃない。あいつらは臭いし不衛生だし、自分が住んでるところに置きたくなんてないわよ。だいいち見た目が可愛くないわ」
スケルトンも全然可愛くないとは思うが、確かに臭くはなさそうだ。
「じゃあスケルトンとゾンビって、素材の状態が違うだけで作り方は同じなんですか?」
「まあそういう事ね。あとゾンビって、下手に脳が残ってると自我とか性格とかが出て使いづらいのよねえ。その点スケルトンは素直で言うこと聞くから好きだわぁ」
クノップはものすごく一生懸命聞いてるけど、それがいったい何の役に立つんだ?
この猫耳マッドサイエンティストは何しでかすか分からない所があるからなあ。
闇魔法に頼らず人工的にゾンビやスケルトンを作り出す実験とかしそうで怖いよ。
「どうしてくれるのか、と聞かれると俺も困るんだが。まあ金で何とか納得してもらえないか?」
「お金? そんなものもらっても何の役にも立たないわ。わたし、お金には興味ないもの」
おい、三日月、聞いたか?
何をそんな信じられない事を聞いたような顔で茫然と見つめてるんだ。
この世の中にはお金に興味がない人もいるんだよ。
「そう言われても金以外で解決する方法なんてなあ……」
僕が頭をひねっていると、三日月が悪い顔で囁いてくる。
「んじゃやっちまったスケルトンの代わりにこいつらを置いていく、って言うのはどうだ?」
そう言って意味ありげに先輩たちの方を見る。
お前って本当に先輩たちいじるの好きだな。
「そ、それってあまりに酷くないですか?」
「そうですよ姉御、無茶苦茶言い過ぎっすよぉ」
本気で焦って抗議する先輩たちに、キトラが冷たく言い放つ。
「結構よ、こんなのいらないわ。これだったらスケルトンの方が何倍も役に立ちそうだもの」
「う、うむぅ……」
断られたことに喜んでいいのか悔しいのか分からないような表情を見せて先輩たちは黙り込んだ。
「それで、あなた達ってこれからどこに行くつもりなの?」
キトラの方から話題を変えてくれて、僕はちょっとほっとした。
別に秘密にすることでもないから、ダンジョンに探索をしに行くことを説明する。
「へえ、この近くにそんなダンジョンが出来てたなんて知らなかったわ……」
そう言ってキトラはしばらく考え込んだかと思うと、急に眼を輝かせて僕に指先を突き付けた。
「あなた、私もそこへ連れて行きなさい!」




