第52話「出発」
今日も何とか間に合いました。
ただ毎日ギリギリなので近いうちにちょっと書き溜めるためのお休みを頂くかもしれません。
例えば1週間とか、どうですかね?
「暁の兄貴、お久しぶりです! で、今日はいったい何のご用ですか?」
ホビットの女盗賊、ピックが戻ってきて僕に挨拶しに来た。
相変らず見た目はあどけない幼女だな。
中身を知ってるからいいけど、知らなきゃ完全に騙されるぞ、これ。
「ああ、ちょっと頼みたい仕事があってお前に会いに来た」
「え、わざわざアタイにですか? そりゃあ嬉しいなあ」
なんだかピックはニヤニヤしながらベースやドラムの方を横目でちらちら見てる。
それをベースもドラムもそっぽを向いて気付かないフリだ。
「やっぱりあれですよね、アタイと暁の兄貴はトロールの時も息ピッタリでしたしね」
「おい、ピック、お頭に向かって兄貴とか図々しいぞ」
「そうだ、お頭もちゃんと言ってやってくださいよ、こいつはすぐ調子に乗りますから」
「へへーんだ、暁の兄貴が『俺の妹だと言っておけ』って言ったんだもん。ねえ、ア・二・キ」
まあ確かに人に聞かれたらそう言えとは言った。
だからってこんなになれなれしくしろと言ったわけじゃあないんだけどな。
「お前のカギ開けの技術を買っての仕事だ」
「どんな仕事ですか?」
これには興味があるのだろう、ベースもドラムも真面目に聞く体勢になっている。
「迷宮探索の依頼が出た。それもSランクの、な」
「ホントですか?! 三日月の姉御は行かないんですか?」
「三日月とこの間の魔法使いのクノップも一緒だ」
「それ、行きたいです! 暁の兄貴に三日月の姉御にクノップさん、この間のメンバー最強ですよ!」
「そうか、なら明日の朝冒険者ギルドに来てくれ」
用事を済ませたから帰ろうかと思っていると、先輩たちが何か言いたそうに見ているのに気が付いた。
「お前たち、どうかしたか?」
「お頭、それってあんまりじゃありませんか?」
「そうだそうだ、なんでこいつだけなんすか? しかもコイツ見た目はガキでも結構いい年ですよ?」
なんだ、ピックを贔屓してるって怒ってるのか?
「なんだよ、いい年って関係ないだろっ! 大体アニキ達はこっちの仕事があるでしょうが」
「お前ばっかりお頭と動きやがって、ズルいだろうがよっ!」
「それにこっちの仕事はもう安定しているから俺達がいなくても大丈夫だ」
おいおい、下らん理由で喧嘩するなよ。
「お頭、お願いします。ここはベースに任せて、俺も一緒に連れて行って下さい」
「おいこらドラム、なに抜け駆けしてやがるんだよっ! お頭、ここは一つオレを一緒に――」
ああもう、大のおっさんたちが子供みたいな我がまま言うんじゃないよ。
まあ多少人数は増えてもいいんだろうけどさ。
でも三日月は分け前が減るって文句言いそうだな。
「別に連れて行くのは構わんが、ここの仕事は本当に大丈夫なのか?」
「はい、さっきお頭から言われたことは帰ってからになりますが、今まで通りなら特に問題はありません」
「言っとくがお前ら、3人で来ても報酬は1人前しか出さないぞ?」
「それでもSランクダンジョンの探索なら十分でさあ。連れてって下さいよ、おかしらぁ」
ベース先輩、あんたが猫なで声出しても可愛くないんだよ!
「まあ仕方ないな、じゃあ明日までにちゃんとここの仕事の段取りを指示しておくんだぞ」
「へい、フルートの奴にしっかり言っておきますんで」
ああ、あの不審者で名前に統一感のない奴か。
「じゃあ3人とも明日の朝ギルドに来い。遅れるなよ」
「大丈夫です。へへ、アタイはおやつに何を持っていこうかな」
お前ら、遠足じゃないんだぞ!
翌朝、ギルドの前に行くともうみんな揃っていた。
なにやら三日月が野ウサギ団のメンバーに文句を言っているようだ。
「待たせたな」
「おい暁の旦那、本当にこいつらも連れて行くのか?!」
「いや三日月のアネゴ、そう言わないで下さいよ」
「そうです、俺たち一生懸命頑張りますから」
さすがに先輩たちも三日月には頭が上がらないみたいだな。
「まあいいじゃないですか。Sランクの迷宮探索となれば荷物も増えますし、ボクはいいと思います」
「あ、いや、まあそうだな……」
猫耳娘の魔法使い、クノップがなだめると三日月はおとなしくなった。
とことん三日月はクノップが苦手みたいだな。
「お頭、なんかアネゴはあの小娘の魔法使いに遠慮しているように見えるんすが」
ベース先輩が小声で僕に囁いてくる。
なかなかいいところ見てるよな、この先輩は。
「この間のクノップの戦いぶりに度肝を抜かれたみたいだな」
「へえ、あの三日月のアネゴがねえ。どうもそうは見えないがあの小娘そんなにすごいんですか?」
「ベースのアニキ、見た目で判断しない方がいいすよ。あの魔法使い、見たこともない魔法一発でトロールを即死させたんですから」
ピックの言う通りだ。
先輩たち、くれぐれもクノップに吹っ飛ばされないようにね。
狭い迷宮であのクノップのブースト魔法が炸裂したらどうなるのか想像すると怖い気もする。
「お頭、こちらに馬もご用意しておきました」
さすがにドラムはしっかりしてる。
こういう時は頼りになりそうだ。
「では出発しようか。目的地はマクベル伯爵領だ」
僕たちは馬で走り出した。
といってもかなり距離があるのでスピードは出さずだく足だ。
マクベル伯爵領はカルロの領地から見るとかなり南に位置している。
その多くを山に囲まれた土地で、谷と盆地に人口が集中しているそうだ。
「マクベル伯爵領と言いやすと、コウガの里がある所ですね」
ドラムが馬で並走しながら話しかけてくる。
「ほう、影の軍団を知っているのか」
「そりゃあ俺たちもああいう家業をしてやしたからね、蛇の道は蛇って奴でさあ」
ベースも話に入ってきた。
「影の軍団? なんだか怖そうな名前ですね」
クノップは聞いたことがないみたいだな。
ちなみにクノップは三日月の後ろに乗せてもらっている。
おかげで三日月はいつもの勢いがない。
「影の軍団、っていうのは人を殺したり物を壊したり、あと情報をばらまいたりといった闇の稼業を専門にやる組織だ。その中心がマクベル伯爵領のコウガの里にある、と言われてるんだ」
三日月の態度が僕に対する時と全然違う。
情報をただでしゃべってるし。
「お前たちは影の軍団と関わったことはあるのか?」
「アタイはありません。噂には聞いてますけど」
「俺達も直接のかかわりはありませんね」
同じ悪の組織でも、野ウサギ団は影の軍団ほどシビアじゃないもんな。
負けたら死ぬどころか、こうやって負けた相手の子分になってるぐらいだもんなあ。
「オレは何度かやり合ったことがあるぞ。そのたびに返り討ちにしてやってるけどな」
なんとなく三日月はありそうな気がしてたよ。
でもそのたびに、って何度も襲われてるのかよ。
それなのにそんなところに行って大丈夫なのか?
「なんだか恐ろしいところなんですね。なんだか怖いなあ」
「いや、オレからしたらあんたの魔法の方が……」
後ろのクノップに聞こえないように三日月がぶつぶつ言ってるのが聞こえてきた。
よっぽどあのエアガンが気味悪かったんだな。
まあ物理的な飛び道具と言えば弓、というこの世界からしたら有りえない事だから分かるけど。
「着くまでにどれぐらいの時間が掛かるんですか?」
「この調子で行けば四日ぐらいで着くと思うんだが」
四日も掛かるのか、正直うんざりだな。
そもそも、僕はもともとあまり外に出ない性格なんだ。
外でつるむ友達がいなかった、ってこともあるけど。
家の中でラノベやマンガ読んだりゲームやったりフィギュア作ってる方が楽しかった。
それがこんなことになるなんて、人生分からないものだ。
夜になったら野営をして休む。
見張りは野ウサギ団の三人が交代でしてくれると言うので任せた。
こうしてみると連れて来てよかったかな。
お頭にもたすわけにはいかない、とか言って荷物も持ってくれてるし。
こうして迷宮へ向かう旅はとりあえず順調だった。




