第51話「探索依頼」
「じゃあ行ってくる。戸締りはしっかりしておくんだぞ」
「はい、行ってらっしゃいませ」
僕は結局3回目のキスのチャンスを逃し、冒険者ギルドへ向かった。
ギルドでは先に着いた三日月が待っていたが、相変らず目線は冷たいままだ。
「よお来たな、色男の旦那。待ちくたびれたぜ」
一瞬何か言ってやろうかと思ったが、どうせロクでもないことになる気がしてやめた。
だいたい言い争いなんて性格的に好きじゃないし。
「待たせて悪かったな。で、迷宮探査の依頼が出てるって?」
「ああ。暁の旦那は迷宮には行った事がないんだろ?」
「そうだ。一度行ってみたいと思っていた」
そもそも偽名で冒険者に登録したのも、迷宮に行ってみたいと思ったのにピカールが許してくれなかったことが発端だ。
勇者であるカズマと出会う前に迷宮での経験値を積んでおきたいところだ。
「じゃあ暁は迷宮探査の基本も知らねえってことだな?」
「ああ、そう思ってもらっていい」
エルサの前であまりジロジロ見る訳にはいかなかったけど、やっぱりこの丸みは見事だな。
二つの完全なる球体とそれらが作り出す深く魅惑的な谷間。
「しょうがねえから初心者の旦那にベテランのオレが丁寧に説明してやるかな!」
三日月は得意げに胸を張った。
なんか知らないけど少しは機嫌が良くなったみたいで良かった。
って、その突き出した右手は何だ?
仕方ないから僕はそこに金貨を1枚乗せた。
「へへ、毎度あり」
お金を手にしたとたんにすっかり機嫌が良くなった。
でもこんなことで毎回金貨1枚、10万円も取られてると後が大変だ。
かといって銀貨1枚、2000円相当ではこのがめつい女傭兵は納得しないだろう。
出来るだけ早く金貨と銀貨の間に当たるものを考えないとな。
「おい、何ぼおっとしてんだ? だから迷宮が見つかるとその中の調査の依頼が出るんだよ」
「ああ、その調査って何を調べたらいいんだ?」
「そりゃあその中に何がいるか、広さ、何階まであるか、色々だよ」
「なるほど、何でもいいってことか。中のモンスターを倒して手に入ったものは貰っていいのか?」
「そりゃそうだ。しかもその討伐した奴によって報酬も増える」
僕が作ったこの世界のモンスターは、倒してもお金や魔石などを落とすわけじゃない。
その代わり牙や革などが物を作る素材になったりするし、倒したモンスターの強さや数、危険度によって報奨金が出る。
これらはギルドの依頼の報酬とは別に冒険者の収入となる、という事のようだ。
「で今回新しい迷宮が見つかって、その探索依頼が大々的に出された、っていう訳だ」
「迷宮が見つかるのは良くあることなのか?」
「馬鹿言え、そんな訳ないだろうが。新しい迷宮なんざ何年かに1度見つかるかどうか、って代物だよ。旦那はつくづく運がいいぜ」
迷宮というのは多くの場合、自然の洞窟や鍾乳洞などに魔物が住みついて作られたものだ。
ゴブリンやノーム、オークなどの人型で繁殖力の強い魔物が住みついた場合、自分たちでその穴を掘り進めることで穴が広がり多層化することがある。
それが一番良くみられる、Aタイプと呼ばれる迷宮だ。
こういうAタイプの場合、迷宮の中はほとんど同じ種類の魔物が生息していることになる。
まれに大勢のゴブリンを少数のオークが支配している、というような事もあるが。
Aタイプの迷宮の中にはマジックアイテムや宝物などの貴重なものはほとんど見つからない。
また一度調査、討伐されてしまうとそのままその迷宮は空になることになる。
時間が経ってまたほかの魔物が住みつく事もあるが。
「しかもな、今回のはどうやらちょっと違うらしいぜ」
今回の依頼の前に行われた事前調査で、様々な魔物が確認されているというのだ。
しかもその洞窟自体が自然にできたものではないらしい。
「これはSタイプ、しかも相当デカいんじゃないかと見られてる」
Sタイプというのは自然発生的に出来たAタイプとは違い、「誰かが意図的に作ったもの」だ。
高位の魔法使いや、極めて知能が高く強力な魔物が作ったもの。
その理由は自らの住処として、またある特殊な物を最奥に隠して守るため、中にはその探索に来る冒険者たちを殺しその装備を奪う為という事もあるらしい。
中には様々な種類の魔物が配置され、より奥に、より深く潜るほど危険度が増すのがパターンだ。
危険な罠があることも多く、扉にも鍵がかかっていることがある為カギ開けの技術は必須だという。
「どうだ、こりゃあ逃す手はないだろ? すでに腕に覚えのある連中は続々と向かってるし、オレも出来るだけ早く行きたいと思ってる。美味しいところを他人に取られるのはシャクだからな」
Sタイプの迷宮の場合、その迷宮のある地域以外の冒険者ギルドにも広く依頼が掛けられるという。
今回発見された迷宮はどこにあるのかと聞いてみると、あのマクベル伯爵の領地だというじゃないか。
暗殺者を送り出す闇の軍団、その出身地のコウガの里のあるカマキリ野郎の領地か、興味があるな。
「多少準備が必要だな。クノップとピック、あと何人か連れていこう」
「あの猫耳の魔法使いとホビットの盗賊か。あの盗賊のカギ開けは見事な腕だったし、魔法使いもちょっと気持ち悪いが腕は確かだからな。あと出来れば回復役がいるといいんだが、治癒の魔法は光の魔法だから坊さんぐらいじゃないと使えないしな。オレ坊主は苦手なんだよ」
確かに守銭奴の女傭兵と聖職者じゃ相性は良くないだろうな。
しかし三日月はいまだにクノップに苦手意識があるようだ。
よっぽどあの空気銃の魔法がインパクトあったみたいだな。
「じゃあ明日クノップとピックを誘ってくる。出発は明後日になるがいいか?」
「急ぎたい所だが仕方ねえな。んじゃオレは明日のうちに情報を集めておくよ」
夜は三日月に誘われて一緒に晩御飯を食べてからカルロの屋敷に帰った。
エルサも誘おうかと思ったが、どうせ三日月の機嫌が悪くなるだけだからやめておいた。
エルサはちゃんと食事取ってるかな、ちょっと心配だ。
翌日僕は仮面を持って屋敷を出て、馬を借りてまずクノップのいる風車小屋に向かった。
「――という訳なんだが、一緒に行ってくれるか?」
「もちろん行きたいです。Sタイプの迷宮探索なんてめったに体験できることじゃないですから」
「じゃあ明日の朝、冒険者ギルドで待ち合わせでいいか?」
「分かりました、準備していきます」
次に向かったのは野ウサギ団のアジトだ。
ここに来るのは久しぶりだな。
「ああっ! お頭じゃねえですか! おい、みんな、暁のお頭が来られたぞ!」
「久しぶりだな。ピックはいるか?」
「ちょっと今出かけてますがすぐ戻ります。どうぞ中にお入りください」
ベースとドラムの先輩二人が迎え入れてくれた。
痩せていてせわしないベースと、ガッチリしていて落ち着いたドラム。
相変らずいいコンビですね、先輩たち。
「仕事の調子はどうだ?」
「へへへ、これがなかなか順調でして。特に早馬での配達はお得意も増えていい感じでさあ」
「一方で盗賊稼ぎの方はあいにくですね。最近関税を誤魔化そうとする隊商が減ってまして、なかなか稼ぎになりません」
関税を払う商人たちが増えたのはいいことだけど、その分野ウサギ団の稼ぎが減るとは皮肉だな。
「近々バルハムントと王都を結ぶこの街道が石畳で舗装される予定だ。そうなったら早馬だけでなく馬車での人や物の輸送も盛んになるだろう」
「おお、それは本当ですか? そんな噂聞いたことがありませんが」
「へへ、お頭の情報に間違いがあるもんか。なんせこの街の有力者様とお頭はツーカーなんだからよ」
ツーカー、っていうか領主本人だからね、情報に詳しいのは当然だよ。
「ああ、間違いない。それも来年の春には完成する予定だから、今から馬や馬車の手配をしておけ」
「わかりやした!」
これが上手く行けば盗賊稼ぎの減少分を賄えるだろう。
「情報の方はどうだ?」
「それなんですが、ここの領主のカルロとよその貴族たちがきな臭えという噂があります」
「そうなんでさあ。なんか貴族同士で揉めてるような気配なんで」
ほう、先輩たちなかなか優秀じゃないか。
でももうそのことが噂になっているとは。
まだ国王とのことや婚約の事は知られてないみたいだけど、いろいろ気を付けて動かなきゃいけないな。
「そうか、その件はこれからも注意して調べてくれ。それと新たな情報源になりそうな店を見つけた――」
僕は「女神たちの館」のドロアの事を話した。
「ちょくちょく覗いて女主人から話を聞いてくれ。高級な店だ、くれぐれも粗相の無いようにな」
「高級娼館かあ、いっぺんでいいから行ってみてぇなぁ」
こらこら、ベース先輩、あんたは絶対はまるから絶対だめだぞ。
こいつらを入れないようにドロアにもう一度念押ししておかないと。
そんな話をしていたらホビットの女盗賊、ピックが戻ってきた。
「兄貴、お久しぶりです! で、今日はいったい何のご用ですか?」




