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作者が転生?!~りっぱな悪役になってやる!  作者: 梅田遼介
「王都リュアン」編
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第47話「身請け」

「エルサ、君がドロアから借りたのはいくらだ?」


「え……?」


 エルサは僕の問いかけの意味が分からなかったのか、不思議そうな顔をしている。

 目にはまだ涙を浮かべたままだ。


「借りたお金の額はいくらか聞いてるんだ」


「えっと、金貨50枚ですけど……」


 エルサは言いにくそうに答えた。

 日本円で500万円か。

 この年の女の子には大金だ。

 元の世界の僕にとっても凄い金額だよ。


「それを返せばこの仕事を辞められるんだな?」


「え、はい、でももっと頑張ってお金を稼いで――」


「おじいさんとおばあさんを楽にさせてあげるんだよな。でもそれはこの仕事じゃなくてもいいんだろ?」


「それはそうですけど、他にお金稼ぐ方法なんて」


 そうだよな、この年の女の子が500万円を返してさらに稼ぐなんて大変だ。

 ましてやこの世界は男女平等じゃない。

 中世ヨーロッパをモデルに僕が作った世界だから、元の世界とは訳が違う。


「エルサ、僕――俺のことをどう思う?」


「さっきも言いましたけど、優しい方だなって思います」


「嫌いじゃないか?」


「嫌いなわけないじゃないですか。カルロさまが初めてのお客様でわたし、本当に良かったって――」


 そうか、嫌いじゃないんだ。

 だったらやっぱりそう・・しよう。


「エルサ、さっき言ってたよな。お金持ちの愛人になるのも一つの方法だって」


「ええ、ドロアさんがその方がいいって言ってましたけど」 


「俺の愛人になってみないか? 愛人って言っても無理矢理どうこうしようという訳じゃない。嫌なら出て行っても構わない。もちろんちゃんと実家に仕送りするための手当ても毎月払う」


「え?! でもまだ何もしてないですよ?」


「それは焦らなくていい。エルサが初めてなら、こういう形じゃなくてお互いをよく知って、エルサが本当に僕とそうなりたいと思ってからの方がいいと思うんだ」


 それと僕の方も覚悟が出来たら、ね。


「でも、そんなに甘えられません」


「いいんだ、エルサがそれで良かったら俺がそうしたいんだから。嫌か?」


「そんなの……嫌なわけないじゃないですか……でもやっぱり申し訳なくて……」


「エルサが嫌じゃなきゃ決まりだ。すぐにドロアに話をしに行こう」


 僕はさっさとベッドを抜け出した。

 エルサの方を見ないようにして、部屋を出て服を着る。

 丁寧に畳まれている服を見るとエルサへのいとしさが湧き上がってくる。


 これは恋じゃない。

 もちろん愛でもなく、ただの情なのかもしれない。

 結局は独りよがりの人助けにすぎないんだろう。

 でもそれでいいじゃないか。

 だいたい僕は悪役カルロだ、愛人の一人ぐらい囲っていて丁度いい!

 ……ただしまだチェリーどうていだけど。




 僕はエルサが服を着るのを待って、一緒に部屋を出た。

 入り口にいた人とは別の廊下にいた黒服の男の人が慌ててやってくる。


「もうお帰りですか? まだ時間はさほど立っておりませんが、何かご不満な点でも?」


「いや、ドロアと話がしたい。すまないが呼んできてくれるか?」


 僕たちは階段を下りて、さっきの小さな部屋に通された。

 エルサは僕の隣で固まっている。


「カルロさま、本当にいいんですか?」


「いいって言っただろ。それとも嫌なのか?」


 エルサは小さく首を横に振った。 


「嫌じゃない、って私も言ったじゃないですか。でもまだ信じられなくて」


「じゃあ座ってろ。もうすぐ信じさせてやるから」


 そんなことを話している時にドアをノックする音がした。




「まあカルロさま、何のご用でしょう? この子が何か粗相をいたしまして?」


 ドロアがにこやかな笑みを浮かべながら入ってきた。

 優雅でありながらどことなく色気のある動きがさすがだ。

 この人はまさに百戦錬磨だな。


「いや、実はこのエルサを連れて帰りたいと思ってな」


「まあ、余程お気に召しましたのね? 大丈夫です。当店はお屋敷や宿への派遣も――」


「そうじゃないんだ」


 僕はドロアの言葉をさえぎって、真剣に話しかけた。


「このエルサを俺の手元にずっと置いておきたい。もちろん金は応分に払う」


「まあ、身請けされるとおっしゃるのですか?」


 こういうのを身請け、って言うのか。

 なんだか時代劇か歴史小説で聞いたことのあるような気もするな。


「この子の事情はお聞きになりまして?」


「ああ。ドロアから金を借りていると言っていた」


「それもご存じでおっしゃっているのですね」


 ドロアは真顔になってエルサを見つめた。

 さっきまでの営業トークではない、少し低いトーンで問いかける。


「エルサ、あなたはどうなの? このカルロさまのもとへ行きたいの?」


 エルサは問いかけられて少し戸惑った様子でちらっと僕の顔を見る。

 僕がうなずいて見せると、決心したようにドロアに向き直った。


「わたしは、もしカルロさまとドロアさんが許して下さるなら行きたいです」


「……そう、そうなのね」


 ドロアは軽くため息をつくと、僕に語りかけた。


「わたしは正直この子がこの仕事に就くのは反対でした。稼げますが、それ以上につらいことの多い仕事ですから」


 そしてちょっと苦笑いして言葉を続ける。


「それが最初のお客様でこんなことになってしまうとは。長い経験の中でもこんなことは初めてですわ」


「まあそうだろうな」


「カルロさま、この子が望むなら私は反対しません。この子を幸せにしてやって頂けますか?」


 カルロはこの世界では悪役で、僕自身は女の子と付き合った経験がない。

 だから正直、幸せにできるかどうかなんてわからない。

 でも最低自由にしてあげる事は出来るはずだ。

 それでも今のこの状況よりは幸せだろう。


「正直に言うと、わからん。俺が誰かを幸せに出来るのかどうかもな。でも幸せにしてやりたいとは思っている」


「そうですか。そう思って頂けているならいいのです。お金はお支払いいただけますね?」


 エルサがドロアに借りた金額は金貨50枚、白金貨なら5枚だ。

 それにきっと利子がつくだろうし、それ以上に高く言われるに違いない。


「いくら払えばいい? 今の手持ちで足りない分はあとで届けさせる」


「カルロさま、今日のお遊びのご予算は白金貨5枚でしたわね?」


「ああ、今の分をその中から払ったがな」


「ではその残りで結構です。白金貨4枚とお釣りでお渡しした金貨7枚をお支払いください」


「おい、それじゃあ――」


 ドロアが損をするだろう、と言おうとしたらドロアが首を振ってそれを止めた。


「わたしも商売でこの仕事をやっていますが、それ以前にこの子たちの母親のつもりでいます。その分この子を大切にしてやってください。それで充分です」


「ドロアさん……」


 ドロアの言葉を聞いて、エルサは言葉が出ない。

 両手で口を覆ってただ涙を流している。

 僕もドロアの女気に感心してしまった。


「分かった。大切にすると約束しよう」


「それで結構です。ではお代を頂きましょうか」


 ドロアは僕ににっこりと笑って右掌を僕に差し出した。

 僕は小袋から白金貨4枚と金貨7枚を取り出して手の上に乗せた。


「まだ金貨2枚なら払えるが?」


「そんなけち臭いこと言いませんよ。これで結構です」


 そう言うと後ろに立っていた黒服のおじさんに話しかけた。


「エルサの証文をここに持って来ておくれ」


 おじさんはすぐに1枚の紙を手に戻ってきた。


「さあ、これであんたは自由の身だよ」


 そう言うと、ドロアは受け取った証文を4つに破いてエルサに渡した。


「ドロアさん……」


「さあ何してるんだい、すぐに自分の荷物を取ってきな。カルロさまと一緒にここを出るんだよ」


「あ、は、はいっ!」 


 エルサは慌てて部屋を出て行った。




「カルロさま、有り難うございます。最初からあの子をここで働かせたくはなかったんですよ。まだまだ世間知らずの子ですから。どうぞ優しくしてやってくださいね」


「わかっているさ。それはそうと、ドロアはかなり情報には詳しいみたいだが」


「そりゃあこういう仕事を長年していれば、色んな噂も入ってきますし顔も広くなりますよ」


 そうだよな、色んな人間が出入りするだろうし。

 ましてここは超高級店だ。

 身分の高い連中が利用しているだろう。


「ドロア、頼みがあるんだが」


「……なんですか?」


 話の流れから少しドロアは警戒しているようだ。


「実は、俺は国王陛下に頼まれてこのフランツ王国と王都リュアンの治安を守る為に動いている。もしよかったらなんだが、協力してはくれないか?」


「そりゃああたしだってこのリュアンで生まれ育ったんだ、陛下のお役には立ちたいと思いますけどねえ。危ないことはないんですか?」


「その点は大丈夫だ。ドロアやこの店には決して迷惑を掛けない。ただ貴族たちの様子や噂を教えてくれたらいいんだ」


「確かにうちには貴族の皆さんも大勢いらっしゃいます。陛下のお役にたてるならやぶさかじゃありませんが、お代はちゃんといただけるんですか?」


 さすがにしっかりしてるな。

 でもここの情報はかなり魅力的だ。

 僕がリュアンに来たことや顔の傷のことまでちゃんと把握してたぐらいだからな。


「もちろんだ。しっかり払うさ。『野ウサギ団』という組織の者にここに時々寄るように言うから、そいつらに伝えてくれればいい」


「まあ『野ウサギ団』なんて可愛らしい名前だこと」


 ドロアは面白そうに笑った。


「ああ、ただそいつらには俺のことは言わないでほしいんだ。表向き俺は関わっていないことになっているからな。代わりに『あかつき』という男に宛てて情報を渡してくれ」


「何やら面白そうな話だこと。暁さん、ですね。分かりました。でもいいんですか?わたしがその情報を誰かにしゃべるかもしれませんよ?」


「俺はドロアを信用できると思ったんだ。そうなったとしたら俺が間違っていたって事さ」


「まあ、そんなこと言われちゃ話すわけにはいきませんね。大丈夫、誰にも言いませんよ」


「あと野ウサギ団の男達にはここで遊ばせないでくれ。あいつら嵌って破産するに決まってる」


「そりゃあ残念ですわね。いいお客様になって頂けそうなのに」


 ドロアは声を上げて笑う。

 冗談じゃない、あいつらの遊びで作った借金まで肩代わりさせられてたまるか!




「お待たせしました」


 ドアをノックしてエルサが入ってきた。

 さっきまでのなまめかしいドレス姿から自分の持ち物だろう質素な服に着替えている。

 うん、この格好の方が僕の好みだ。

 エルサの素直な可愛らしさが良く出ている。


「来たね。エルサ、カルロさまにしっかりお仕えするんだよ。でももし酷いことされたらここへ逃げておいで」


「おいおい、それはないだろう」


 僕が抗議するとドロアは面白そうに笑って言う。


「冗談ですよ。この子の事をよろしくお願いします」




 ドロアや黒服のおじさんたちに見送られて僕とエルサは『女神たちの館』を出た。


「本当にありがとうございます。これから一生懸命お仕えします」


「うん、エルサ、これからよろしくな」


 エルサは僕に抱きついてきて、僕はその肩を抱きしめた。

 どちらからともなく、2度目の口づけをする。

 その時、暗闇から突然声を掛けられた。


「あの、ゴホン、そちらの方を紹介して頂いてもいいですだか?」

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