第46話「DDT作戦Ⅳ」
長らく続いた「DDT(脱童貞)作戦」もいよいよ最終局面です(笑)
「わたし、頑張りますから!」
そう言ってキラキラした眼で僕を見上げてくるエルサ。
僕とエルサの唇は10センチしか離れていない。
やばい、身動きできない。
あんな話聞いた後で手を出すなんて絶対無理だし。
そう思ってると突然エルサが目を閉じた。
そのままアゴを上げて、唇を軽く突き出してくる。
……こ、こ、これって。
ひょっとしてキスしろ、ってことなのかな?
無理無理無理。
ただでさえ未経験なのに、あんな話聞いた後でなんて無理だぁ!
「あの、カルロさま?」
そのまま硬直していると、エルサが待ちくたびれたのか目を開けて不思議そうに首を傾げている。
「あ、いや、なんでもない。ちょっと見とれていただけだ」
「そうですか、良かった。やっぱりわたしの事をお気に召さないのかと思いました」
「いや、大丈夫だ。むしろすごく可愛いと思うぞ」
「えへ、ありがとうございます」
エルサはちょっと照れ臭そうに笑った。
「えっと、まずはお風呂にいたしましょうか。手順はお姉さんたちから教わっていますので大丈夫です!」
おふ、おふ、おふろぉぉ!
一緒に入るんだよな、それって。
どどどどどどどどうしよう。
悩んでいるとエルサが急に立ち上がって風呂場を見に行った。
「いい感じで沸いてますよ。お背中お流しします」
そう言ってエルサは僕の手を取って立ち上がらせた。
されるがままで直立不動な僕。
そのままエルサは僕の服を脱がせていく。
まずは上着、続いてシャツ、エルサは脱がせた服を一枚一枚丁寧にたたんでくれる。
僕はただひたすら立っているだけ。
エルサはひざまずいてズボンと靴下を脱がしていく。
あとはとうとうパンツ一枚が残るのみとなる。
エルサはそのままパンツに手を掛けた。
ストーーーップ!
それだけは、それだけは無理だ。
僕は急いでエルサから離れて後ろを向いた。
「カルロさま?」
「これはいい。自分でするから」
僕はそう言うとパンツを脱いで、そのままエルサに見られないように風呂場に向かった。
「先に入っているからな」
そう言って風呂場に入り、ざっと掛け湯をして湯船につかる。
確かにいい湯加減だが今はそんなことは重要ではない。
来る、きっと来る。
もうすぐ来る。
そう思うだけで心臓の鼓動がとてつもない速さでビートを刻む。
「失礼します」
エルサの声がすると同時に、湯けむりの向こうにエルサの姿が見えた。
僕はとっさに目を逸らしたが、一瞬タオルを巻いただけのエルサの姿が目に入る。
すらっと長い脚が、太ももまで露わになっている様子が脳裏に焼き付いた。
「お背中お流ししますから出て頂いていいですか?」
エルサの声に何も言わず僕は湯船を出た。
見ないように、かつ見られないように注意しながら。
そのままエルサに背を向けて小さな木製の腰掛けに座る。
そのまま全身が緊張で固まる。
エルサが泡をたっぷり立てたスポンジで背中を洗ってくれる。
子供の頃母さんに洗ってもらって以来の感触が心地いい。
でも今僕の背中を洗ってくれているのは母さんじゃない。
「では前を洗いますからこちらを向いてください」
前!?
僕は体をひねって後ろを向いて、エルサからスポンジを奪い取った。
その一瞬でタオルを巻いた胸元の谷間が目に飛び込んでくる。
三日月やロゼアほどの大きさはないが程よい感じの谷間。
「こっちは自分で洗うからいい」
「え、でも……」
エルサの不満げな声は無視して、背中を向けたまま僕はゴシゴシと力を入れて大急ぎで洗った。
もちろんあそこも念入りに。
洗い終わるとそのまま桶で湯を汲んで、自分で体を流す。
そのまま僕は湯船に飛び込んだ。
「わたしが洗いましたのに」
「いや、いいんだ」
そう言って僕はエルサの方を見ないように湯船の中でそっぽを向く。
視界には入らないがエルサが自分で体を洗っているのが音と気配で分かる。
「あの、失礼します」
しばらくして体を流す音がして、エルサが湯船に入ってきた。
あああああ、体が触れる。
僕の全神経が隣のエルサと触れ合っている右肩に集中する。
やばい、動けない。
「カルロさま……」
エルサが僕の肩に頭をそっと傾けてきた。
も、もう……限界だ!!
「先に上がるぞ」
僕はそっけなくそう言って、湯船を飛び出した。
置いてあったタオルで急いで体を拭く。
これからどうすればいいんだ……?
もう一回服を着るのはなんだか変な気がするし。
悩んだ結果、とりあえずタオルを腰に巻いてベッドルームへ向かった。
この格好で、しかも風呂場から出てくるエルサを迎える勇気は僕にはないよ。
そのままとりあえずベッドにもぐりこむ。
やばい、やばい、やばい。
これって完全にそういう流れだよな。
もちろんそのつもりでこのお店に来たんだけど。
でもまさか相手がこんなに可愛くていい子で、しかも僕が初めてのお客だなんて。
どうしよう。
でもここまで来たんだからって言う気持ちと、でもあんないい子にっていう気持ちと。
心の中で葛藤している間に、風呂から人が出てくる気配がした。
体をタオルで拭いている音がかすかに聞こえてくる。
という事は、今エルサは何も身に付けていない……?!
しばらくすると人がやってくる気配。
僕は思わずそれを見ないように逆の方に顔を向けた。
すると部屋の入り口のロウソクを消したのだろう、灯りが落とされ部屋が薄暗くなる。
「お待たせいたしました」
ベッドに人が近づいてきて、布団がめくられたと思うとエルサが僕の隣に入ってきた。
僕は逆側を向いたまま動けない。
そのまましばらく二人とも無言でじっとしていたが、エルサが先に口を開いた。
「あの、カルロさま?」
「はい?」
あ、答え方間違えた。
緊張で喉が渇く。
歯を磨いてないけど大丈夫かな?
「もし勘違いでしたら失礼なのですが」
「構わん。言ってみろ」
「ひょっとしてカルロさまは、こういったお店は初めてでいらっしゃいますか?」
ば、ば、バレてるじゃん!
どうする?
なんて答えたらいい?
僕は悪役カルロだ、ここはカッコを付けたいところだ。
でも正直そんな自信はない。
どうしよう。
悩んだ結果、僕は正直になることにした。
ここでカッコを付けたところで隠し通せるわけがない。
それにきっとこのエルサならそれでバカにしたりはしないだろう、そんな気がしたんだ。
「……実はそうなんだ」
「やっぱり、そうですよね! すごく緊張されているのが分かりましたから」
「あはは、やっぱりバレてたか」
僕は正直に話したことで一挙に肩の力が抜けた。
体の向きを変えてエルサと向き合う。
エルサの顔が5センチ前で微笑んでいる。
鼻と鼻がひっつきそうな距離だ。
「実はこういうお店は全く経験がなくてね。すごく緊張してるし、どうしたらいいか分からないんだ」
僕が本音で話すと、エルサはニッコリ笑って……僕に軽くキスをした。
これがキスか。
すごくドキドキするし緊張するけど、なんだかあったかい気持ちになるな。
「任せてください。わたし、お姉さんたちからいろいろ聞いてますからリードします!」
そう言ってエルサは布団をはぐと、僕の上に覆いかぶさってきた。
エルサのなにも着けていない体が露わになる。
僕の胸に、エルサの胸が当たっている。
なんとなく先端の感触が分かるような気がする。
僕は思わずエルサの身体を両手で抱きしめた。
……ん?
エルサの身体が小刻みに震えている。
出来るだけこらえているのだろう、でもその震えは隠しきれていない。
一瞬寒いのかと思ったけど、そうじゃなさそうだ。
「リラックスして、私に全部任せてくださいね」
「エルサ、ちょっといいかな」
「はい、なんですか?」
顔を上げて僕の顔を見つめるエルサの顔は緊張で引きつっていた。
笑顔がぎこちない。
「エルサ、こういう事の経験はあるの?」
「だから今日が初めてのお仕事ですけど、お姉さんたちにやり方は聞いていますから――」
「そうじゃなくて、男の人とこういう事をしたことはあるの?」
エルサは一瞬固まって、僕の目から視線を外して横を向いた。
「あの、初めて、です……」
「キスは?」
「えっと、さっきのが初めて、です」
やっぱりか。
そんな感じがしたよ。
「やめよう」
「え? でも……」
「いいから。これで終わりにしよう」
「ごめんなさい、未体験はお嫌でしたか? あの、本当にゴメンなさい」
エルサは涙ぐんでしまっている。
「違うんだ。エルサ、泣かないで大丈夫だよ」
そう言って僕はエルサを隣に寝かせた。
見えないように布団を掛けて。
「エルサ、君がドロアから借りたのはいくらだ?」
実はこの展開は小説の設定を考えた時に最初に思い付いたエピソードだったりします。
……あ、だからって作者自身がヘタレな訳じゃないんだからねっ!(涙目)




