第42話「忍び」
今日も何とかセーフ☆
「わかった。では今から俺が話すことをよく聞いてくれ」
僕は軽く深呼吸して、フラウディアに話しかけた。
「まず改めて言っておきたいことは、俺もまた国王陛下と王女殿下に心から忠誠を誓っている、ということだ」
「それはわたしも存じています」
「ああ。そしてフラウディアも聞いただろう、王女殿下は陛下とこのフランツ王国にとって重要な交渉道具だ。このままではいずれ王女殿下は他国の王家か国内の有力貴族に嫁ぐことになるだろう。あくまで政治的な意図で、な」
「それは常々王女様もおっしゃっておいでです。自分はその覚悟は出来ていると」
「そうだな。だが俺は、そんな王女殿下がお可哀そうでならんのだ。自らが望んだ相手ではなく、政治のために自分の身を、人生を犠牲にしなければならない。ましてや今、国王陛下は貴族たちと対立しておられる。このような状況で王女殿下が貴族を懐柔するためにその誰かと結婚させられたら、その行く末はどうなる?」
「それは……」
「いずれ貴族たちと国王陛下が正面からぶつかることは避けられん。それまでの時間稼ぎに王女殿下が使われるようなことはなんとしても避けたいんだ。出来る事なら殿下にはご自分が望む相手と幸せな結婚をして頂きたい」
「でもカルロさまと結婚されたとしてもそれはご自身が望んだお相手ではないのでは? あ、失礼な言い方で申し訳ありませんが」
「いや、その通りだ。俺と結婚させられたのでは同じことだ。フラウディア、今から言う事は殿下にも絶対に秘密にしてくれ」
「はい、なんだかお聞きするのが恐ろしい気もしますが」
「俺が今回殿下との婚約を陛下にお願いしたのは陛下に申しあげた理由と、それに加えて今言った理由からだ。だが俺は王女殿下と結婚する気はない。あくまで婚約するだけだ」
「婚約するだけ……?」
「そうだ。さっきも言ったように殿下にはご自分の望む相手と結婚して幸せになって頂きたいし、俺自身も初対面の殿下に恋心などは抱いていない。全ては政治的な理由から出たことだ。だから俺は殿下との婚約が認められ、国王陛下をお助けして対立する貴族どもを倒したのちに殿下との婚約を解消する」
その相手が勇者だとか、それを決めたのが実はこの世界の作者の僕だとか、そんなことは言えないけどこの気持ち自体に嘘はない。
カルロが王女や国王を裏切ってクーデターを起こせばフラウディアには恨まれるだろうけど、その向こうにハッピーエンドが待っている(予定)から許して欲しいな。
「本気でおっしゃっているのですか?」
「ああ、本気だ。だからもちろん婚約したとしても王女に手を出す気はない。それは近くでフラウディアが見ていれば分かることだろう?」
「カルロさま、そこまで王女様のことを考えていらっしゃるなんて……」
フラウディアが感動して涙ぐんでいるのがベール越しでも分かる。
やったぜカルロ、ポイントアーーーップ!!
ここが攻め時なんじゃないの?
いつ攻めるの? 今でしょ?!(古)
「そもそも俺は初対面の王女殿下よりフラウディアの方がよほど可愛いと思っているのだがな」
ここで僕はルーノスをまねてニコッと微笑む。
どうだ、これは効くんじゃないのか?
「そんな、カルロさま……」
おおお、効いてる、効いてるぞ!
今のパンチはクリーンヒットだ!
ここで抱きしめようかどうしようか、迷っていたその時。
「カルロ様、妙な気配がしますだ」
辺りを見張っていたドッヂが近くに来て小声で囁いてくる。
すでに手には斧を持っている。
そっか、ドッヂは野生の勘に優れている設定だった。
「フラウディア、様子がおかしい。俺の影から出るな」
「は、はい……?」
僕もオリハルコンの剣を鞘から抜き、あたりの気配を探る。
確かに暗闇の中に何人もがうごめく気配がする。
いいところを邪魔しやがって、誰だよ!
レウス……!
僕は心の中で炎の精霊のトカゲ(サラマンダー)であるレウスを呼び出す。
そして左手で小さく印を結んで小声でライトの呪文を唱えた。
ボッ
空中に火の玉が浮かび、同時に辺りが照らし出される。
そこには黒装束に身を包んだ男たちが5人。
全員日本刀のような刀を持ち、覆面で顔を隠している。
これじゃ忍者そのままだ。
「お前たち、妙なカッコしおって、なにもんだ?」
ドッジが問いかけるが誰も何も答えない。
5人で半円形を作り、僕ら3人を囲んでジリジリとすり足で忍び寄ってくる。
「フン、どうせレジュームあたりが寄越したのだろう。狙いは俺か?それともこのフラウディアか?」
僕が問いかけると真ん中の男が話しかけてきた。
「メリチ辺境伯、お命頂戴いたす。他の二人ももちろん生かしちゃおけねえ」
うーん、時代劇。
でも許せないのはこっちの方だ。
あのまま上手くいけばファーストキスだって、いやひょっとしたらその先もあったかもしれない。
そう考えたらめちゃめちゃ腹立ってきたぞ。
「お前たちも可哀そうになあ。よりによってこんな日に来るとは。俺は機嫌が悪いぞ」
そう言ってオリハルコンの剣を構えた。
ちゃんとフラウディアは背中で護る。
ヒュン!
カキーン!
「なんと……?!あれをかわすとは」
いきなり何かが飛んで来たのを剣で叩き落とす。
やっぱり手裏剣みたいなのを投げてきたか。
カッコを見てそうじゃないかと思ってたからしっかり対処できた。
火球のおかげで明るいし、こっちは作者補正掛かってるからね。
対応されたことにこいつら驚いてやがる。
「そんな小細工は通用しないぞ。信じられないならもっと試してみるか?」
ヒュン、ヒュウン、ヒュン!
僕の挑発に乗って何本もの手裏剣が飛んで来た。
キン、カキン、カキーン!
僕はそれを右へ左へ弾き返す。
横を見てみるとドッヂも斧を盾代わりに使ってちゃんと防いでいる。
野性児の勘は素晴らしいな。
「くそっ! こいつらやるぞ」
「言っただろ? 効かないって。さあ次はどうする? 忍術でも使うか?」
そう言った途端に左からまた手裏剣が飛んで来た。
頭に向けて飛んで来たそれを剣で弾き返すところに忍者が一人飛び込んでくる。
低い姿勢で地を這うように走って刀を突いてくる。
上下の連携攻撃か、考えてるな。
でも僕のスピードはそれを許さない。
上段で手裏剣をはじいたその剣をそのまま下段に振り下ろした。
飛び込んでくる相手の刀の切っ先が届くより早く僕の剣が相手に届く。
ザンッ!
一人を斬ったその瞬間、別の奴が宙を飛んで斬りかかってくる。
僕は逆にその方向に踏み込んで、振り下ろされる相手の刀を真正面から受け止めた。
ギイイン
衝撃と共に相手の刀が根元からへし折られる。
そのショックでそいつはバランスを崩し後ろに弾け飛ぶのを、僕はそのまま剣で突く。
グサッ
なんとも言えない手応えと共に相手の胸元をオリハルコンの剣が貫いた。
それを引き抜く瞬間、背中にチリチリと焼けるような感覚が走る。
ブンッ!
僕がその気配に振り向くと同時に、後ろから刀が襲いかかってくる。
それを体をひねってかわしながら、僕は剣を左に薙いだ。
ズバッ!!
僕が斬ったのは問いかけに答えたリーダー格の男だった。
男の身体に深々と僕の剣が喰い込んでいる。
ぐはっ
男は口から血を吐いてゆっくりと倒れ込んだ。
男の身体から引き抜いたオリハルコンの剣は刃こぼれもないどころか血のりもほとんどついていない。
3人斬っても切れ味には全く問題ない。
さすがにこれは名刀だよ、高かっただけのことはある。
横を見るとドッヂが一人を斬って最後の一人と向き合っている。
コイツを捕えて裏に誰がいるのか聞きだすとしようか。
「ドッヂ、こいつは生かして捕えるぞ」
「分かりましただ」
他の仲間が全員やられたのを見て、男は後ろを向いて逃げ出そうとした。
それを僕は剣の刃ではない所を使った平打ちで背中を打った。
男は衝撃で刀を手放して倒れ込む。
僕はその男の頭をつかんで引き起こした。
「お前には誰の差し金なのか話してもらうぞ」
「ぐ、ぐふっ……」
男の口の端から血が流れ落ちる。
みるみるうちに男の瞳から光が失われていく。
くそっ、舌を噛んだのか。
そこまでして秘密を守ろうとするなんて、なんて奴らだ。
こんな奴らを使う敵がいるんだ、油断できないな。
「フラウディア、大丈夫か? 怖かっただろう」
「大丈夫です。カルロさまのお力は存じておりますから」
フラウディアに歩み寄ってその手を引き寄せた。
少し震えながらもフラウディアは気丈に僕を見つめてくる。
ベールの隙間から覗く茶色いその瞳は何処までも真っ直ぐだ。
やばい、やっぱこの子タイプだよ。
「すぐに人が来るだろう。ここで会っていたことがバレるといろいろ面倒だ。さあ先に行きなさい」
「分かりました。それではわたしは失礼いたします。あと、カルロ様……」
「なんだ?」
「わたしの事はどうぞフラウとお呼び下さい。では」
僕は火球を消して、フラウディアは暗闇の中へ去って行った。
あ、違う、フラウだ。
フラウ、次はいつ会えるんだろう。
そうこうしている内に3人の騎士たちが駆けつけてきた。
王城の警備を担当している騎士たちらしい。
遅いよ、まったく。
「これはいったい何事だ? 貴殿の名をお聞かせいただきたい」
「俺はカルロ=ド=メリチ辺境伯だ。これにいるのは俺の従者のドッヂだ」
「これは辺境伯さまとは失礼いたしました。何があったのですか? この死んでいる者たちは?」
「それはこちらが聞きたい。俺が歩いていると突然この者どもに襲われたのだ。こいつらは何者だ?」
「心当たりはおありにならないのですか?」
「全く見当もつかん。君たちでこの男たちの身元を調べてくれ」
まあ証拠になるようなものは何もないだろうけどね。
こいつらは明らかにプロの忍びだ。
「ところで辺境伯はここで何をなさっておいででしたのですか?」
「それを君らに説明せねばいけないのかね?」
僕がジロリと睨んでやったら騎士たちは急に焦り始めた。
「いえ、特にお聞きしなくても問題ございません。どうぞお気をつけて」
「すまんが調べの方をよろしく頼む。何か分かったら俺にも教えてくれ」
「かしこまりました」
僕はドッヂを連れて屋敷に戻った。
あーあ、もうちょっとでキス出来そうだったのになあ。
明日も何とか頑張りますので、応援よろしくお願いします!




