第3話「覚悟」
2週間連続2話投稿の2日目です。
いよいよリョウスケが悪役カルロとしてこの世界で生きていく事を決意します。
一部の読者様にはお気に触る表現があるかもしれませんが、お許しください!(笑)
ブックマーク登録して頂いて本当にありがとうございます!
これからだんだん盛り上がっていきますので、ヨロシクお願いします☆
僕は自分が書いた小説「勇者転生」の悪役、カルロ=ド=メリチ辺境伯として、これからこの世界で生きていくことを決めた。
ただ生きていくだけじゃない、魅力的な悪役を演じ、同時にこの物語をより良くするために演出していくんだ。
その為にやらなければいけない事がたくさんあるだろう。
そう決めたら急にお腹が減ってきた。
机の上のベルを手に取り鳴らしてみる。
チリンチリン――
ベルが鳴るとすぐにメイドのメリッサとレイナ、執事のピカールが入ってきた。
「カルロ様、どうかなさいましたか?」
メリッサの言葉に僕が答えようとした。
「あの、僕、お腹がへ……」
「はぁ――?!」
3人ともすごくびっくりした顔で僕を見ている。
一瞬なぜだか考えたが、すぐに分かった。
言葉遣いだ。
カルロは豪放磊落なキャラクターで、一人称は「俺」。
僕なんて言い方は絶対しないもんな。
「あー、ゴホン、俺は腹が減ってな。飯を用意してくれるかメリッサ」
「あ、はい、かしこまりました。レイナ、準備をしに参りましょう」
メリッサとレイナが頭を下げて出て行った。
メリッサはまだ僕のことを心配そうにながめていたが。
これからは気を付けよう。
部屋にはピカールと二人きりになった。
ピカールにはいろいろと聞いておきたいことがある。
でもその前に問題が。
それはピカールの呼び方だ。
小説ではカルロはピカールを「ハゲ」と呼んでいた。
確かにピカールは見事なまでに禿げ上がっている。
もちろん名前もそこから付けた。
だけどピカールはハゲと呼ばれることを内心とても気に病んでいて、そのストレスで胃を痛めてしまっている、という設定なんだ。
カルロはピカールのそんな気持ちなど知りもしない。
ところが僕はそれを知っている。
しかも僕はもともと人と対立するのが苦手、嫌なのについ人の顔色を見て合わせてしまう性格なんだ。
そんな僕が嫌がる相手に面と向かって「ハゲ」なんて呼べるわけもない。
なんせ空気の読める日本人だからね。
仕方ない、ここは設定と違うけど、作者の権限でストーリー上の許容範囲という事にしておこう。
「ピカール、いくつか聞きたいことがある」
僕が呼び掛けると、ピカールが息をのんだのが分かった。
茫然と僕の顔を眺めていたかと思うと、目に涙を浮かべている。
「どうかしたのか?」
僕の問いにピカールが声を震わせながら答えた。
「……カルロ様がわたくしを名前で呼んで下さいましたのは何年ぶりでしょう。そのことに思わず感動してしまいました。申し訳ございませんでした」
まさかこんなに喜ばれるとは。
深々と頭を下げるピカールが気の毒だ。
だって名前もそういう意味で付けた訳だし。
本人は知らないだろうけど。
作者として責任を感じるなあ。
もうちょっと渋い感じの海坊〇やドッ〇みたいなキャラにしてあげればよかった。
あ、ここは二次創作にならないように伏せ字が必要だな。
「ピカールがそれほど気にしておったとは知らなかった。これからは名前で呼ぶゆえ、許せ」
本当は知ってたけど。
「とんでもございません。ありがたいお言葉、よろしくお願い致します」
なんかすごく喜ばれちゃったな。
まあ良かったんじゃないだろうか。
ピカールとは仲良くしておいた方が何かといいだろうし。
「で、お聞きになりたい事とはなんでしょうか?」
あら、ピカールの表情が明るくなってるぞ。
「うん、今日は何月何日だっけ?」
「9月の2日でございます」
はは、生暖かい視線も消えてるな。
「秋か。今年の農作物の出来はどうだ?」
「はい。今年は幸い天候にも恵まれ、大豊作の予想でございます」
「それはいいな。今この城にはどれだけの兵がおる?」
「城? ここはカルロ様のお屋敷でございます。城ではございません。近衛の兵も10人ほどしかおりませんが」
ピカールが不思議そうな顔をしている。
おかしいな、カルロはバルハート城という城で暮らしている設定だった。
という事はこの5年の間にバルハート城を建てなければいけない、ってことかな。
こりゃあ大変だぞ。
しかも考えてみればカルロは勇者カズマのライバルで、剣の腕も超一流という設定だ。
ところが僕は運動全般からっきしダメだ。
体はカルロの体だから筋力なんかはあるかもしれないけど、急いで腕を磨かないと。
もちろん馬にも乗れないとお話にならないよね。
まあ最初はこの落馬がトラウマになってる、っていうことにしようかな。
ふと気づくと、考え込んでいる僕の顔をピカールが心配そうに見ている。
最初に比べてずいぶん対応が柔らかくなっているような。
やっぱ気持ちって大事だよね。
「ピカール、俺の怪我はどんな具合だ?」
「はい、頬については先ほどお話しした通りですが、それ以外はそれほど大きな怪我はございません。どれも打ち身やすり傷でございます。医者も気がつかれたら動かれても大丈夫だと申しておりました」
よかった、骨折とかはしてないようだ。
「そうか、では明日からさっそく剣の訓練を再開したい。相手役として領内より誰か手練れの者を選んでくれ」
「それでございましたら、フィッツモーリス=フィッツジェラルド卿が適任かと思います」
僕の言葉にピカールが即答した。
フィッツモーリス=フィッツジェラルド卿か。
それなら僕はよく知っている。
この長い名前の人物は、カルロの腹心で近衛騎士団長を務める剛毅な騎士だ。
その長い名前から「F」という呼び名で呼ばれている。
忠誠心が篤く勇敢でこの国最高の剣士で、おまけに超イケメンという反則キャラクター。
カルロのパーティーの中核だけど、最後にはカルロに愛想を尽かして勇者の仲間となる(予定の)人だ。
僕が書き上げたところでは、まだカルロを裏切ってはいなかったけど。
小説の設定では32歳だから、今は27歳か。
「フィッツモーリス=フィッツジェラルド卿、どのような人物だったかな」
とりあえず知らない振りして聞いてみた。
いまなら落馬のショックで忘れてる、って言い訳が出来るからね。
「はい。かなりの使い手で、この領内で右に出る者はいないルーノス卿にも劣らぬ腕前とか。このたび近衛隊に昇進してこのバルハムントに戻ってきたとのことでございます」
聞いてみてよかった、Fは僕とはまだ面識がない状態みたいだ。
こういう事があるからこれからも気を付けないとな。
ちなみにバルハムントというのはカルロが治めているメリチ辺境領で最大の都市だ。
「ほう、それは楽しみだ。さっそく明日にでもここへ参るように伝えてくれ」
「かしこまりました」
ピカールが頭を下げた。
そうこうしているうちに準備が出来たらしい、メリッサとレイナが食事を運んできた。
問題は食事だよなあ。
僕は全然グルメじゃないけど、やっぱ現代日本と中世を設定した物語の中の食べ物は違うよね。
メリッサたちが持ってきてくれたの料理は、メインディッシュは猪のソテー(塩味)、芋と豆のスープ(塩味)、パンとワインだった。
やっぱりこうなるよね、予想はしていたけど。
だって僕が手を抜いて、小説の中の料理はほとんど「塩味の〜」で済ませてたからね、自業自得だ。
まあ何とか食べられない訳じゃないけど、これが毎日続くと正直つらいよ。
食べ物の改革は至急やることにしよう、僕自身のために。
こういう時メリッサが僕に好意的なのは助かるな。
こうして転生した最初の1日は過ぎていった。
いかがでしたでしょうか?
今日の2話目の投稿は11時過ぎになる予定です。
ひょっとしたら10時過ぎかも?
よろしくお願いします。