第36話「成敗」
ガチャリ――
剣を片手にドアノブを回して部屋に入ると、大きな机の横にゲルグの爺さんが立っていた。
執務室だろう、壁に剣が飾られた立派な部屋だ。
「これはこれはカルロ様、こんな夜更けに何の御用ですかな?」
内心はともかく、この期に及んで白々しく聞いてくるあたりこの男も肝が据わってるな。
扉の向こうで戦ってる音が聞こえてるっていうのに、口元には笑みまで浮かべてるし。
「偶然そばを通ったのでな、迷惑だとは思ったが寄らせてもらった」
「いえいえ、迷惑などととんでもない。いつでも歓迎させて頂きますぞ――」
これが貴族という奴か、本心を隠すことになれている。
これも一種の戦いという訳か。
「歓迎か、俺のような金髪の小僧相手に済まないな」
ピクリ。
「金髪の小僧」と言った瞬間わずかに眉が動いた。
どこから情報が漏れたのか考えているのだろう。
「ホホ、誰から何をお聞きになったのか知りませぬが、儂とカルロ様の仲を裂こうと画策する者もおりましょう。お耳を貸されませぬように」
「俺とゲルグの仲? 親しいのは貴公とアルマンディー公の仲ではないのか?」
厭味っぽく言ってやったら、ゲルグの表情が変わった。
ようやく誰がしゃべったのか思い至ったらしい。
「分かりましたぞ。あの仮面の者どもですな。何をお聞きになったかは存じませぬが、あのような下賤な者どもの言葉には何の意味もありませぬぞ」
「仮面の者ども? いったい何のことを言っているのだ? 俺には一向に分からぬが」
僕がとぼけてみせると、ゲルグは真剣な顔で話し出した。
「最近、誘拐事件が頻発していることはカルロ様もご存知でしょう」
そりゃあカルロは知ってるさ、誘拐犯の一味が今日近衛騎士たちとやりあったんだからな。
「儂はその犯人をずっと追っておりました」
「ほう、それで?」
なんだかおもしろい展開になって来たぞ。
どんな言い訳をするのか見ものだな。
「最近になってようやくその犯人を突き止めました。暁と三日月という、どちらも仮面を着けた怪しい男女の傭兵でございます。今日その者たちをあと一歩という所で取り逃がしてしまったのです」
「暁と三日月、仮面を着けた男女の傭兵か、面白いな」
その二人が誘拐犯の中にいたこと自体は事実だ。
それをうちの近衛が確認している事を分かったうえでのこの言葉だろう。
なかなか考えるじゃないか、爺さん。
「考えまするに、その者たちが追い詰められた挙句、儂に罪をきせようとカルロ様に申し立てたに違いありませぬ」
「なるほどそうか、そういえばそのような者の事を近衛から聞いたような気がするな」
僕がそう言ってやると、ゲルグは大げさに手を叩いてうなずいて見せた。
「やはりそうでございましたか! カルロ様、何とぞその両名を儂に引き渡してくだされ。厳しく問い詰め、全ての罪を白状させて見せまする故」
その二人が自白したのち、尋問中の不慮の事故で死んでしまうっていう算段か。
この一瞬で良く考えたなあ。
「そうは言うがな、ゲルグ。俺にはどうもあの二人が嘘をついていたようには思えんのだ」
「何をおっしゃいます! あのような者どもの言葉に耳を傾けてはなりません! それとも儂がやったという証拠でもお持ちですか? もしお持ちなら国王陛下の前で堂々と裁いて頂きましょう」
「証拠か、それはないなあ」
僕がそう言うと、ゲルグはますます勢いづいた。
「そうでしょうとも! そもそも身分は違うとはいえ、儂はカルロ様の家臣ではござらぬ。共に等しく国王陛下より爵位を賜った貴族同士です。それをこのような狼藉、間違ったでは済まされませんぞ!」
この爺さん、とうとう開き直りやがった。
じゃあそろそろ幕を引くとしようか。
「間違い? 俺は間違いなどしておらんよ」
「ですから何を証拠に!」
「証拠などいらんだろう。俺は確かにこの耳で聞いたのだからな」
僕は胸元からゆっくりとアレを取り出して、ゲルグの前で着けて見せてやった。
「お、おまえは傭兵、暁!」
「そうだ、お前が俺に直接べらべらと喋ったのだ。お、そう言えば証拠もあったな。フラウディアだ。あの娘も今頃俺の部下が保護している頃だ。どうだ、それでも国王の前で裁かれたいか?」
仮面を着けて笑うと、ゲルグの顔が怒りでゆがんだ。
「おのれぇ、謀りおって! しかし貴様が何と言おうと儂の身はレジューム様がお護り下さるわっ!」
やっぱりこの爺さん、レジュームと完全に通じ合ってるな。
「残念だがそれは無理だ。お前は今ここで死ぬのだからな」
「な、何を――」
そこまで言いかけて僕の真意に気付いたのだろう、ゲルグは壁に掛かっていた剣に飛びついた。
僕はゲルグがその剣を抜くまで待ってやる。
「貴族の儂をその手に掛けたとなれば、貴様もただでは済まんぞ。もし国王が貴様を許しても、レジューム様が決してお許しにならぬ!」
「それも俺の望むところだと言ったら?」
「貴様、レジューム様まで狙っておるのか、許せん! 死ね、金髪の小僧めえっ!」
ゲルグは怒りにまかせて僕に斬りかかってきた。
だが年のせいかその攻撃は遅く、弱い。
僕はそのひと振りをかわすと同時にゲルグの胸にオリハルコンの剣を突き立てた。
「お、おのれ、あの世で呪ってやるわ……」
剣を引き抜くとゲルグは口から血を吐き、そのまま床に崩れ落ちて息絶えた。
これが人を殺す、という事か。
相手が悪党だとわかっていても気持ちのいいものじゃないな。
でもきっとこれからも僕が人を手に掛けなければいけない事は多々あるだろう。
なんせ僕は悪役、カルロ=ド=メリチ辺境伯なのだから。
爺さん、先に地獄に行って待っててくれ。
「待たせたな」
仮面をしまって扉を開けると、Fとルーノスがその前で待っていた。
ザクリーはとっくにやられて、その遺体が壁際に横たえられている。
「ゲルグ子爵はどうされました?」
「罪を認めて自害した。下の様子はどうだ?」
「全て終わっております。男たちは全員死亡、捕えられていたと思われる女は全員無事です」
「こちらに被害は?」
「ありません。二人ほど傷を負いましたが、共にかすり傷です」
報告を受けて階段を下りると、騎士団員たちが整列していた。
女たちは怖そうに壁際で一団となっている。
聞けば地下にも部屋があり、何人かそこで捕らえられていたそうだ。
よし、フラウディアもちゃんといるな。
「ご苦労だった。これより帰投する。ルーノスは女たちを連れ、先に屋敷に戻れ。フィッツジェラルドは5名を選び、俺とここに残れ」
「八ツ!」
ルーノスが女たちを連れていったのを見届けた後、僕はFたちに命じて屋敷に火を掛けさせた。
火は瞬く間に全体に回り、闇の中で屋敷は紅蓮の炎に包まれる。
ゲルグ達の遺体は中に残したままだ。
「明日になれば大騒ぎでしょう。カルロ様が兵を率いて出て行ったのは街の皆が見ております。その正体はともかく、ゲルグは民から慕われていたそうですので」
Fが民衆の評判を気にかけて僕に話しかけるが、僕は気にしていない。
「かまわん。それより早急に王都へ向かうぞ。この事がレジュームに伝わる前に動かねばならん」
「アルマンディー公ですか。ゲルグ子爵と繋がっていたのですか?」
「そうだ。だからこそ奴を裁きに掛けるわけにはいかなかったのだ。邪魔してくるに決まっているからな」
「なかなか厄介な相手ですね」
「ふん、負けんよ、俺は」
「私に出来ることは何でもお申し付けください」
屋敷が完全に燃えるのを見届けた後で、僕はFを連れて屋敷に戻った。
読んでいただいてあざーす!2章をここまで読んだ方はお分かりかもしれませんが、この一連の話は時代劇を意識して書いてみましたwああいうベタな展開って、実は好きなんですよね~。またどこかで使いたいかもです(笑)
でもこの事件はここで終わりじゃないですよー




