第26話「トロール退治Ⅰ」
これから連続でトロール退治のお話です。
よろしくお願いします!
翌朝、僕はまず隠れ家に行って仮面を付けてから馬を借り、クノップのもとを訪れた。
「よお、クノップ」
「ど、どなたさまですか?」
仮面を付けた僕の顔を見て驚いている。
そりゃあ初めて見ればビックリするよな。
僕は仮面を外して見せた。
「俺だ、カルロだ」
「ああ驚いた。何なんです、その仮面。ボクを驚かせるためにそんなもの買ったんですか?」
「そんな訳ないだろう。領主が冒険者になる訳にもいかんのでな、仮面を付けて別人に成りすましてるんだ」
「なるほど、そういうことか。じゃあ名前も変えてるんですか?」
「ああ。暁と名乗っている。クノップもそう呼んでくれ」
「分かりましたよ、暁。で、朝から何の用です?」
さすがにこの猫耳娘は物わかりがいい。
ご褒美に耳をモフモフしてやりたかったが変態扱いは必至なので我慢した。
だいたいこの猫耳娘、若く見えるけど猫人間と人とのハーフで年上だし。
「ルイードの森近くの集落に二つ頭のトロールが出たらしくてな。その討伐に力を貸してほしいんだ」
「え、二つ頭!興味あるし行ってもいいですけど、ボク実戦経験ないですよ?それでも役に立ちますかね」
そっか、クノップは研究者気質だから実戦は経験してないのか。
でもクノップの実力なら力になるのは間違いないだろう。
「それは大丈夫だ。俺や経験豊富な仲間がサポートする。良ければ頼む」
「分かりました、行きますよ。すぐ準備しますね」
「例のアレを忘れるなよ」
「うん、分かってる」
5分後、僕はクノップを連れてギルドホールヘ向かった。
そこではすでに三日月とピックが待っていた。
「遅かったな。もう依頼は受けておいたぞ。報酬は金貨30枚だとよ、エヘヘ」
三日月がよだれをたらしそうな顔で笑っている。
ピックも気合いが入っているようだ。
「おかし……じゃなくて兄貴と三日月さんが居れば楽勝ですよ!で、この女の子は?」
見た目女の子なのはお前の方だろうが。
ピックは見た目は子供、中身は大人というより悪賢い盗賊だからなあ。
「俺の魔法の師匠でクノップだ。猫人間と人とのハーフで、こう見えても30歳だ」
「どうしてわざわざ年のこと言うかな!あ、よろしくお願いします、クノップです」
「へー、兄貴の師匠で30かあ、見た目によらないもんだねえ」
ピックが大げさに驚いて見せる。
そういうお前は見た目小学生だけど、本当はいくつなんだよっ!
「オレは三日月だ。傭兵やってる。よろしくな」
「アタイはピック。暁の兄貴の妹分のホビットです。ヨロシク」
挨拶も終わったし、さっそく打ち合わせに入る。
トロールが出たのは昨日の夕刻。
突然集落に現れ、慌ててここに救援を求めるために出てきたから魔法を使うかなどの詳細は不明。
大きさは約5メートルの大型巨人……じゃなかった大型トロールらしい。
頭が二つあったのを見て驚いてここへ向かったそうだ。
集落の被害も不明。
「オレたち以外にもいくつかのパーティーがこの依頼を受けてる。ただそいつらは複数のパーティーで組んで行くつもりみたいだから、話し合いに手間取るだろう。その間に行って独り占めしちまおうぜ」
三日月はあくまで他のパーティーと分け合う気はないらしい。
まあいいだろう。
「あの、ボクは一応四属性の魔法を使えますが、実戦は初めてなのでよろしくお願いします」
「へえ、四属性の魔法が使えるなんてスゲエじゃねえか。でもその分大した魔法は使えなさそうだな。まあいいや、とにかくよろしくな」
「クノップの実力は俺が保証する。詠唱中に邪魔が入らないようにピックがカバーしてやってくれ」
「分かりました、兄貴!」
僕らは出発することにした。
街を出て橋を渡り、ルイードの森の外周に沿って進むと、やがて目的の集落が見えてきた。
「いよいよだ、気を抜くな」
僕の言葉にみんなが頷く。
実は一番緊張しているのは僕かもしれない。
今回の敵は前にやったコボルドとは格が違う。
そういう意味では初陣以上に緊張するな。
警戒しながら集落の入り口に付いた。
特に異常は見えない。
というより、あまりに静かだ。
「人が居ねえな……」
三日月が呟く。
そう、誰もいないんだ。
ここの住人も、犬の一匹もいない。
「入ってみようか」
オリハルコンの剣を抜いて、みんなに告げた。
みんな馬を降りて、それぞれ武器や杖を構えて集落の中に入る。
やはり家や馬小屋には誰もいない。
やっぱり静かすぎるぞ。
でもところどころ壊れている家がある。
中を覗くと荒らされた形跡があるが誰もいない。
他の家もまわってみるが、やはり住人の姿はない。
「みんなどこかに逃げちまったんですかね?」
ピックが言うのも無理はない。
「おい、こっちへ来てみろ!」
三日月の言葉に行ってみると、そこには石造りの風車があった。
風車の入り口の扉はぴったりと閉められている。
「開かねえな」
三日月が戸を開けようとするが、押しても引いても開かない。
中から鍵がかかっているようだ。
「普通、風車の扉なんかに鍵はかけねえよなぁ」
「そうか、という事は中に誰かいるのかもしれないな」
「だったらアタイが扉の鍵を開けましょうか?」
僕の言葉にピックが反応する。
「ああ、やってみてくれるか?」
ピックが鍵穴をいじること約20秒。
「開きました」
早っ!
なんという早業。
扉を開けると、中にはこの集落の住人達がいた。
みんなで固まって怯えている。
「助けに来たぜ」
「助け、ってあんた達だけですか?他の人たちは?」
「また後から来るだろうが、オレ達だけで大丈夫だよ」
三日月の言葉に、住人の代表らしき初老の男が血相を変えて叫ぶ。
「あんた達はアレを見てないからそんなのんきなことを言ってられるんだ!アレがどれほど恐ろしいか……いかん、何時アレが戻って来るか分からん。とにかくわしらは他の人たちが来てくれるまでここで隠れさせてもらう」
どうも本当に恐ろしい目に合ったみたいだな。
「ここにはこの集落の人全員隠れているんですか?」
「いや、何人かは逃げ遅れた。わしらはとにかくここへ命からがら逃げ込んだんでその者たちがどうなったかは分からんが、恐らく……」
そうか、やっぱり犠牲者が出たのか。
何とかこの人たちを守ってそいつを退治しないとな。
「出たのは二つ頭のトロールだという事ですが」
「ああ、間違いない。普通のトロールよりかなり大きく、動きも素早い。あんなのは今まで見たこともない」
「魔法は使ってましたか?」
「それが、正直分からんのだ。わしは見ておらんが、逃げてきた者の中には魔法らしきものを使ったと言う者もおる」
まあ使う前提で当たった方がいいな。
「クノップ、相手も魔法を使うという前提で当たってくれ。みんなもそのつもりでな」
「そろそろいいかの。わしらはこの中に隠れさせて――」
ズウウウン、ズウウウン
そこまで言いかけた時に、明らかに異質な地響きが聞こえてきた。




