第18話「野ウサギ団」
引き続き、先輩たちの登場です。
悪役を主役にするからには、どこかで「悪の組織」を登場させたいと思っていたのでこの話を書きました。
お楽しみいただけたら幸いです☆
「うわああっ!」
僕に刀を叩き落とされた痩せた方の先輩が、叫ぶと同時にすぐさま後ろを向いて逃げ出す。
それに続いてガッチリした方の先輩も一緒に走り出す。
やっぱりこの二人の先輩の切り替えは見事だ。
「レウス」
心の中でサラマンダーの子供のレウスを呼び出す。
オリハルコンの剣を右手で持ち、左手で素早く印を切る。
この辺りクノップとの練習が生きてるな。
「ファイヤーウォール!」
左手で水平に先輩たちの行く手を指し示すと、そこに炎の壁が立ち上がる。
目の前に火の壁が現れた先輩たちは、二人そろって驚いて尻もちをついた。
この揃った動き、なんとも悪役っぽい。
さすがは先輩たち、勉強になります。
「前の奴は魔法使いだったのに、今日の連れは魔法戦士かよっ!」
先輩の中ではあくまで前回の僕と今日の僕は別人の設定なんですね。
まあ僕はその方が都合いいけど。
それに続いてたまらずに何人か逃げ出す奴も出てくるが、それはファイヤーウォールで通せんぼする。
まだ頑張って攻撃してくる奴の武器を叩き落とし、平打ちで交戦能力を奪っていく。
三日月の方はと見ると、そっちも大体終わって来たみたいだ。
「うぇーん」
男たちの間にいた幼い女の子が泣いている。
そりゃこれだけ周りで大人たちが戦っていたら怖いよな。
先輩たちがミレアさんとルチアちゃんみたいにどこからかさらってきたんだろうか。
あの時の事を思い出して怒りが込み上げてくる。
「もう大丈夫だよ」
慰めようと近づいたその時、三日月から言葉が飛んだ。
「気を付けな、暁!」
「ちっ!」
その瞬間その女の子が短刀を僕に向かって突き出した。
危なくギリギリでそれを避ける。
助かったよ、三日月。
「そいつは子供じゃない、ホビットの女だ。見た目に騙されるな」
「余計なことを、このくそアマが」
悔しそうに言うその表情は確かに子供のそれじゃない。
「あーあ失敗しちまった。アタイの負けだよ好きにしな」
その女の子……じゃないホビットは持っていた短刀を投げ捨てるとふて腐れたように座り込む。
他の男たちも一か所にまとめて座らせた。
「参った、俺たちの負けだ。お上に突き出すなり殺すなり、好きなようにしてくれ」
ガッチリした方の先輩が観念したようにそう言う。
こういう潔さもあるんだな、先輩。
「俺はお前たちを殺す気も、どこかへ突き出す気もない」
僕がそう言うと、先輩たちは皆いぶかしげに僕を見る。
三日月も不思議そうに僕を見ている。
「俺の名は暁。見ての通り傭兵をやっている魔法戦士だ。俺の腕前は見ただろう」
「ああ、あんたすげえよ。俺たちじゃかないっこねえ」
僕の言葉に痩せた方の先輩が答える。
「お前ら、俺の手下になれ」
「どういう事だ?俺たちに何をさせようっていうんだ?」
「俺は今日、ギルドの依頼でここへ来た。この辺りに不審な奴らがいるから見回れってな。お前らはもうすでに目を付けられてる。俺が見逃しても捕まるのは時間の問題だ。三日月、こいつらが捕まったらどうなる?」
「こいつらは人さらいやってるからな。どうせ隊商を襲ったりもしてるだろう。捕まりゃ間違いなく縛り首だな」
分かってはいたことだろうが、三日月の言葉にみんなが息をのむ。
「そうだ、捕まればお前らは終わりだ。そうなる前に今の仕事から足を洗って俺の手下になれ」
「い、いやでも、そんなことすりゃ飯の食い上げですぜ」
ガッチリした先輩がいい、皆うなづいている。
「そうならないように俺が仕事をやる。表の仕事と裏の仕事だ。表の仕事は、バルハムントと王都リュアンを結ぶ早馬だ。街道に駅を置いて、そこで馬を繋いで全速力で物や文を運ぶんだ。これは必ず金になる」
駅伝制、別の言い方でいえば伝馬制だな。
情報や流通は速さが命だ。
他にないスピードで情報が手に入ればカルロにとっては大きな利益になる。
「裏の仕事は情報集めと今まで通りの盗賊だ」
「情報、と言いますとどんなことを調べればよろしいんで」
痩せた方の先輩の質問に答えてやる。
「情報の方は、フランツ王室や諸侯の噂、王都リュアンで流行っているもの、農作物の出来栄えや外国の動向などリュアンで手に入る情報を全部俺に報告しろ。どこで魔物が出たとか最近妙な事件が起こっている、なんてことも全部だ。集めた情報は金で買ってやる」
「盗賊の方は足を洗えとおっしゃいましたが」
「そうだ。このバルハムントの人間や物には一切手を出すな。これは命令だ。これを破った奴は俺がこの手で殺す。ただし例外がある。この辺境領の通行手形を持ってない隊商は襲っていい。むしろ積極的に襲え」
この辺境領以外から来る隊商には関税をかけ、支払った隊商には通行手形を渡す。
それ以外の密輸をしようという隊商をこいつらに襲わせれば、密輸は減るだろう。
「そんなことをして大丈夫なんですかい?」
先輩たちもやっぱり縛り首は恐ろしいようだ。
「大丈夫だ。俺はこの辺境領の有力者とコネがある。情報を集めるのもそのためだ。お前たちがしっかりこの辺境領の役に立てば、罪には問わんしむしろ褒美が出るだろう。どうだ、やってみるか?」
有力者とコネ、というより領主さま本人なんだけどね。
横で聞いている三日月はニヤニヤしている。
「俺はやらせてもらいます。暁様の手下になります」
ガッチリした方の先輩が頭を下げた。
「お、俺も従います。何でもおっしゃって下せえ」
痩せた方の先輩が頭を下げると、ホビットの女や他の男たちも一斉に頭を下げた。
「いいだろう。お前、名前はなんていう?」
「ベースっていいやす。よろしくお願い致しやす」
痩せた方の先輩はベースっていうのか。
ガッチリした方の先輩にも聞いてみる。
「俺はドラムと言います。よろしくお願いします」
ベースにドラムね。
「ベース、ドラム、お前らがこいつらを束ねろ。ホビットの女、お前の名前は?」
「アタイはピックっていうんだ。盗みや罠を開ける事では誰にも負けないよ。暁の旦那、よろしくね」
見た目は小学校高学年ぐらいの幼くて可愛い女の子だけど、いかにもずる賢そうで使えそうだな。
しかしベースにドラムときたからギターで来るかと思えばピックか。
ピッキングともかかってるのかな。
全員ロック縛りだな、安易な名前の付け方だ。
作者の顔が見てみたいよ、まったく。
「ピック、お前は俺とこいつらとの連絡役をやれ。バルハムントにある俺の家とここを行き来するんだ」
「暁、アンタって実はロリコ……?だからオレに手を出そうとしないのか……」
三日月が信じられないものを見たという顔で僕を見ている。
違うから、そういう趣味で家に来いと言ったわけじゃないから!
「お前ら、何か呼び名はあるのか?」
「特にありやせん。街道の盗賊とか言われてやすが」
実にそのままで何のひねりもないな。
「よし、じゃあ俺が名付けてやる。今日からお前らは『野ウサギ団』だ。わかったな?」
ミレアさんを傷つけた罰だ。
カッコ悪い名前を付けてやる。
「野ウサギ団だってよ」
「いいんじゃねえか?いかにも跳ねそうで縁起がいいぜ」
先輩たち喜んでるし。
どんな趣味してるんだよ。
「暁、アンタけっこうなワルだったんだな。見直したぜ」
三日月に褒められた。
なんか妙な気分だが、悪役らしくなるのはいいことだ。
「ドラム、ベース、これをやるから準備金に使え。これで馬を買って駅を作るんだ。要領はまたピックに伝える」
僕は残った白金貨4枚を先輩二人に渡した。
「お、お頭、こんなにいいんですかい?!」
「すげえ、白金貨だ。初めて見たぜ……。お頭、ありがとうございます。これからよろしくお願いします」
「ああ、じゃあ俺は行くからな。ピック、付いて来い」
僕は三日月とピックを連れて野ウサギ団のアジトを後にすることにした。
出て行こうとすると、最初に見つけた不審者の男がいたから気になって聞いてみた。
「お前の名前はなんていうんだ?」
「あっしの名前はフルートでさあ。よろしくおねげえしますぜ」
……ロック縛りでさえないのかよっ。
いい加減すぎるだろ!
いかがでしたか?
これからの先輩たちと野ウサギ団の活躍にご期待ください☆
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