アフターストーリー.2 旅立ち
〜レオ視点〜
「それじゃあ、行ってきます」
今日は、フリーダが王都に旅立つ日。
今年で15になったフリーダは、外部生として学園に途中入学することになったのだ。
「ん、いってらっしゃい。 体に気を付けてね」
「何か辛いことがあったらすぐに帰ってくるのですよ?」
「もう、私だってもう子供じゃないんだから大丈夫だよ」
ミリーの通っていた頃は貴族の子女にしか門戸の開かれていない場所だったけど、例の一件の後から王家主導で学園の大改革が行われた。
まず、外部との情報や物品のやり取りがある程度は自由になったこと。 もちろん、貴族の子女が集うという性質上、物品の持ち込みには多くの制約がかかるものの、閉鎖的な空間という印象はだいぶ和らいだ。
次が外部生の受け入れだ。 第一学年と第四学年において、実技と筆記の両方の試験に合格した生徒を特待生として受け入れるという制度を設けたのだ。
この特待生は、学費はもちろんのこと制服や消耗品も学校側が負担してくれるという文字通りの特別待遇だ。 その代わり、テストで常にトップ50以内に入らないといけないという制約はある。
実のところ、ミリーの実家であるルーデイン公爵家の力を使ってフリーダを一般生として入学させるという提案もあったのだけど、フリーダ本人の希望によりそれは断った。
なんでも、自分の力で入りたいそうだ。 見た目だけじゃなくて、中身もミリーに似て真っ直ぐな子だ。
……最近はちょっぴり反抗期だけど。
「子供じゃなくなっても、実の娘のことはいつまでも心配なんだよ」
「うふふ、そういうものなのですよ」
「………恥ずかしいから、私がいなくなっても人前でイチャイチャするのはやめてよね? ご近所さんに家族ともども微笑ましい目で見られるのは、本当に恥ずかしいんだよ……?」
特に、最近は俺とミリーが手を繋いだり腕を組んだり、抱き合ったり、髪を触りあったり、見つめあったり、キスしたりするのがお気に召さないらしい。
「はは、大丈夫だよ」
「うふふ、そうですよ」
俺とミリーはフリーダを安心させるために鷹揚に頷く。
「「もう今更だ(です)から」」
「…………はぁ」
なんか、残念なものを見るような目でため息をつかれた。
夫婦仲がいいのは悪いことじゃないんだけどなぁ。 フリーダだって、俺とミリーがラブラブしてるのは小さな頃からよく見ているだろうに。
年頃の女の子って難しいね。
それに、俺とミリーのラブラブっぷりはフリーダが生まれる前からこの街中に知れ渡っているのだから本当に今更だ。
「もしかしたらフリーダも、学園でこうやって思い合えるようになる相手が見つかるかもしれないよ?」
お父さんはフリーダが惚れた男なら認めてあげるつもりだよ?
ただ、少なくとも俺と同等くらいの剣の腕と、俺と同等くらいの知識量、あとは駆け引きの力では欲しいね。 挨拶に来たらかる〜く手合わせをしてもらうかな。
「いや、別に男漁りに行くんじゃないんだけど……?」
なんて、フリーダは冷めたことを言っている。
フリーダは大人びた雰囲気だけど、どうやら色恋沙汰には興味がないらしい。 俺とミリーを見ていたら『自分も早く幸せな家庭を築きたい』って思っても不思議じゃないんだけどなぁ。
「でも、フリーダは母さんと似て美人だからね。 その気がなくてもきっとモテモテだよ。 ね、ミリー?」
「もう、レオ様ったら。 でも、そうですね。 フリーダはお父様と似て綺麗なお顔をしてますから、ね?」
フリーダはミリーと同じふんわりとした金髪に、クリンとしたサファイアのような瞳の美少女に成長した。 幼さと大人っぽさがうまく同居した、ミリー似の可愛い娘だ。
「このバカップルめ……」
可愛い娘がすごい嫌そうな顔で見てきた……。
………お父さんはショックです。
「ねえ様、ねえ様!」
「ん、なに、クルト?」
「僕も勉強と剣術を頑張って、再来年には学園に行くからね! だから、待っててね!」
クルト最近は背もグングンと伸びて、フリーダより少し低いくらいにまで迫っている。 でも、相変わらずのお姉ちゃん子だ。
お父さんはお前の将来が少しばかり心配です。
「いや、兄さんこの前はここで勉強をして父さんの後を継ぐって言ってなかった?」
「学園で勉強をしてから、父様の後を継ぐの!」
「……あっそ」
対するアルフレッドは少しだけドライだ。
それでも、本当に冷たいわけではなく、むしろとっても優しい性格なのは家族ならみんなが知っている。
「姉さん、目指せ玉の輿」
……次女のターナは。
うん、ゴーイングマイウェイな子です。
茶色のショートヘアはボーイッシュでカッコ可愛いんだけど、残念なオーラがムンムンなんだよね。
他の子に負けず劣らず可愛いし、頭もいいし、容姿もさすがは俺とミリーの子なんだけど……。 なんか、我が道を進んでおります。
「いや、目指さないからね?」
そんな感じでワイワイと別れを惜しんでいると、時間はあっという間に過ぎていった。
「フリーダちゃん、そろそろ」
「あ、はい、ソフィリアさん。 ……それじゃあ、もう行くね」
馬車の準備をしてくれていたソフィリアさんが時間を気にしつつフリーダに声をかける。
いくら馬車とはいえ、あまり出るのが遅くなると夜までに宿につかなくなってしまうからね。
「ん、いってらっしゃい、フリーダ」
「いってらっしゃい。 フリーダのこと、よろしくお願いしますね、ソフィお姉様」
「ああ、任せておけ」
ミリーに対してニッコリと微笑むソフィリアさんは、年を重ねても衰えない美しさがある。 むしろ色気も増してきて、酒場の女主人感が増してきているのは気のせいだろうか?
「いってらっしゃい、ねえ様!」
お姉ちゃん子のクルトは少し寂しそうだけど、それを堪えて笑顔でフリーダを送り出している。
「け、怪我とか、病気とか……気をつけろよな」
アルフよ、お前はツンデレでも目指してるのか?
「目指せ玉の輿!」
ターナ、そのいい笑顔でのサムズアップはやめなさい。
「ふふ。 ありがと、みんな。 それじゃあ、ソフィリアさんお願いします」
家族総出で、街の外に向かっていく馬車に手を振った。
今日から、フリーダの新しい一歩が始まるんだな。