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物語の裏側で  作者: ティラナ
後日談
97/105

番外編.例えばこんなレオとミリー

試験的にこんなことをしてみました。

なかなかうまく書けません(;^_^A

 



麗凰(レオ)、今日からお前の側付きとして働くことになった、宮本 美莉(ミリ)だ」


「あ、あのっ、宮本 美莉と言います! 誠心誠意、ご主人様にお仕えします!」


 私の名前は、宮本 美莉。

 半年前までは普通の女子高校生でした。

 ですが半年前、突然の事故で両親が他界。 他に身寄りのなかった私が生活費と学費を稼ぎつつ、両親の残した借金を返すためにバイトを探していると、ひょんなことからこの本宮寺家の使用人として働くことになりました。


 本宮寺家は旧華族で、現在でも国内外に数多の企業を持つ世界有数の名家です。

 そして私の仕事は本宮寺家のご子息である、麗凰様の付き人として同じ瑛蘭(えいらん)学園に入学し、24時間365日に渡って彼の生活をサポートすることです。

 学費はもちろん、ノートやペンなどの備品まで本宮寺家の方から支給していただけて、その上で多額のお給料をいただけるという夢のようなお仕事です………が。


「………」


 私の仕えるべきご主人様である、麗凰様は私のことをじっと睨みつけると、ふいっと視線を逸らしてしまいました。

 うぅ、このご主人様呼びはなかなかに心を抉るんですよ……? その上で無視とか、勘弁してください。


「その、なんだ。 こいつはお前の好きに使ってくれて構わないぞ。 いや、気に食わなかったのならば無理に受け取る必要はないんだ」


 それは困ります!

 せっかく採用してもらったのに、ここでクビになってしまってはお給料がもらえません!

 と、背中にツーと冷や汗を垂らしながら焦っていると、ご主人はまるで獲物を前にした猫……いえライオンのようにニヤッと口角を吊り上げました。


「……僕の、好きにしてしまっていいんですね?」


「あ、あぁ……。 どのようにしてしまっても構わないよ」


「そうですか。 分かりました」


 ご主人様と旦那様のやり取りに先ほどとは違った冷や汗が流れます。

 な、何でしょうかこの感覚は……?

 身の危険を感じます。

 フルリと小さく体を震わせていると、ご主人様はクルッと向きを変えてそのまま部屋から出て行こうとします。


「あ、あの……」


 結局、私はどうすればいいのでしょうか?

 そう思って恐る恐る声をかけると、振り返ったご主人様が徐に口を開きました。


「君は僕の側付きなんでしょう? 付いて来てよ」


「は、はいっ」


 きっぱりと言い切ると、そのまま部屋を出て行ってしまいました。

 えっと……。つまり私はクビにならずに済んだということでしょうか?

 何やら嫌な予感はしますが、今はそんなことを気にしている場合ではありません。 旦那様にお辞儀をしてから、私は早歩きでご主人様の後を追いかけました。



「ふぅ、ここまでくればいいかな」


 ご主人様が向かったのは何てことはなく、彼の自室です。

 相も変わらずこの部屋もとってもゴージャスな造りです。家具から小物まで、高校生が使うものではないでしょう。

 下手をしたらあのベッドだけで家が建つのではないでしょうか?


 放心状態から早々に復帰して、ご主人様の意味深な言葉に問いかけることにしましょう。


「なんのことで───ひゃう!?」


「ふふふ、可愛い声」


 な、な、なな……!?

 ご主人様は私の言葉を遮るように、いきなり抱き締めてきました。 私の目の前にはご主人様の鎖骨が……。


「あのっ!? えと……ご主人様!?」


「麗凰」


 慌てて取り乱す私に対して、ご主人様は平坦な声を返してきました。


「……え?」


「麗凰、“俺”の名前だよ。 これからはそう呼んで?」


 どうやらご主人様呼びがお気に召さなかったようです。

 私としてもやはり辛いものがあったので、ここは素直に頷いておくことにしましょう。


「か、畏まりました。 麗凰様」


「ん、よろしい」


 満足そうに微笑んだご主人様改め麗凰様ですが、一向に私を解放するそぶりを見せません。 それどころか、頭の後ろに回した手で髪の毛を弄り始めました。

 ……ちょっとくすぐったいです。


「あの、これはどういう状況なのでしょうか?」


「ん? 俺が美莉を抱きしめてるんだよ?」


 さもこの世界の摂理のようにおっしゃいます。

 ……とても不可思議な摂理です。


「いえ、あの……どうして……」


「好きにしていいって言われたから」


 そう言葉を紡いだ口が、私のおでこにチュッという音を立てて触れました。


「え? ………え!?」


 い、今のはいわゆるキスというやつでしょうか!?

 え?

 なんで!?

 どうして私はキスをされたのですか!?

 も、もしかして麗凰様は私に気が───


「ははっ。 顔真っ赤、面白いわ」


 ───ないですね。

 はい、少し調子に乗ってしまいました。

 この様子は完全に私の反応で遊んでいますね。

 そうですよね。

 私みたいな平凡な子を麗凰様のようなイケメンさんが好きになるなんてないですよね。


「美莉、これから君は俺の玩具ね。 ……いい?」


 いたずらっ子のような笑みを浮かべる麗凰様に、私は少し涙目になりながら頷くことしかできませんでした。




 ◇



 私立瑛蘭学園。

 一にお金、二に家柄、三四に見た目、五にお金というなんとも最低な……もとい、とても気品溢れる優雅な学校です。 何故か中庭に大きな噴水があるくらいには優雅です。


 そして麗凰様、なんとこの瑛蘭学園の生徒会長様でいらっしゃいました。

 要するにこの学園のボスです。

 悪の親玉です。

 諸悪の根源です。


 女の子の純情を弄ぶくらいですから納得です!


「御機嫌よう、本宮寺さま」


「ん、あぁ。 こんにちは、一條さん、二宮さん、三条院さん」


 しかし、何故か麗凰様はモテます。

 中庭を歩けばこうして女性に話しかけられるのは、初日の今日だけでもう21回目です。


 確かに見目麗しくて成績優秀で、家柄はこの学園でもピカイチで、カリスマ性があって、外面はとても紳士的です。だからって、この人がこんなにモテるのは理解できません。

 一体なにがいいのでしょうか?


「……あら、そちらの女性は何方(どなた)ですの?」


「あぁ。 僕の付き人の、美莉ですよ」


「あ、えっと、宮本 美莉と申します。 宜しくお願いします」


 紹介されたので一歩だけ前に出てお辞儀をします。

 角度は30度。

 いち、にー、さん、のリズムです。


 しばらく麗凰様と女性陣の会話を一歩下がったところで見守っていると、一人の男子生徒が麗凰様に何か耳打ちをしました。


「先生に生徒会関連のことで呼び出しを受けてるから、その辺で待っていてくれる? ごめんなさい、皆さん。 少し急用ができてしまったので僕はこの辺りで失礼しますね」


「あ、はい。 畏まりました」


 置いていかれるのは寂しいですが、私は麗凰様の付き人であると同時に瑛蘭学園の一般生でもあるのです。 生徒会の集まりに関係のない一般生が参加するのは余程の例外を除けばNGなのです。

 お金持ち学園ならではの機密事項みたいなものがあるのかもしれません。


 さて、麗凰様がいなくなった途端に目つきの鋭くなったこのご令嬢たちに私はどう接すればいいのでしょうか?


「貴女、ちょっと本宮寺さまに気に入られてるからって調子に乗るんじゃないわよ!」

「そうよ。 本宮寺さまは庶民の貴女が珍しいだけなのよ、わかる?」

「どうせ、本宮寺さまに媚を売っているんでしょう? 全く、汚らわしいですわ!」


「いえ、あの、私はそのようなことは……」


 全くの濡れ衣です。

 麗凰様は私で遊んでいるだけで、気に入っているというわけではないでしょう。 本人も玩具だとおっしゃっていましたし。

 確かに初めこそ気に入られようなどと考えていましたけど、今となってはもう少し距離をおいて欲しいです。 あのような玩具扱いは私の精神衛生上あまりよろしくありません。


「まぁ! この後に及んで見苦しい言い訳なの!?」

「なんて烏滸がましい……!」

「この人には恥というものがないのかしら!」


 しかし私の言葉を遮るように、ご令嬢たちは責め立ててきます。まぁ、好きな人の近くに他の人がいたら気に食わないですよね。

 ……しかし、女を三つ書いて(かしま)しいとはよく言ったもので───


「きゃっ!?」


 ───バシャン


 くだらないことを考えていると、思いっきり噴水に押し倒されてしまいました。 尻もちをついて、跳ねた水で全身びしょ濡れです。 ……あ、本当に濡れ衣ですね。


「うふふ、いい気味ね」

「こんなんじゃ本宮寺さまの近くには居られないですわね」

「そもそも、この学園にも居られなくなるますわね」


 3人はそれぞれに言いたいことを言ってから清々しい笑顔で去って行きました。


 ………さて、どうしましょう。

 噴水の中に一人取り残されてしまいました。

 びしょ濡れのままでは何処かに行くこともできませんし、そもそもどこに行けばいいのかもわかりません。 携帯電話でもあればいいのですが、生憎とこの学園は携帯電話の持ち込み禁止です。


「……美莉?」


「あ……。 麗凰様……」


 首を捻っていると麗凰様に声をかけられました。

 生徒会の用件は終わったのでしょうか?


「何やってるの、こんなところで?」

「いえ、その……」


 麗凰様に聞かれて思わず口籠ります。

 これは素直に答えていいものなのでしょうか?

 いらない心配をかけてしまうかもしれませんし、今回の件で彼女たちの気が晴れたのならば問題ないでしょう。

 まぁ、そう考えるのは楽観的すぎるのでしょうけど。


「噴水の側を歩いていたら転んでしまって……」


「それで噴水の方に落ちたと」


「はい……」


 呆れたように問いかけてくる麗凰様に首を縦に振りながら答えます。

 私のお仕事はこの人の生活の補佐をすることです。 私のことで心配をかけてしまうわけにはいきませんし、自分のことは自分で何とかしなければいけません。 もちろん、この件で麗凰様に大きな迷惑をかけてしまうようなことになればそれは私一人の問題ではありませんが、私の対人関係という点に関してはまだ私の問題でしょう。


「あーあ……。 これはもうダメだね」


 しゃがみ込んで私のスカートの裾を触る麗凰様。

 も、もしかしてこの制服って水に濡らしたらいけないやつですか?! それとも、噴水の水で汚れたものは着ないという貴族の矜持みたいなものですか?


「あのっ、せっかく貸していただいた制服を汚してしまって申し訳ありません!」

「全くだよ。 替えのを用意しないと……」


 麗凰様はため息をひとつついてから、「ほら、立てる?」と手を差し伸べてくださいました。

 うぅ……。 なぜこういう時だけ紳士的なのでしょうか?


「歩ける?」


「はい、大丈夫です」


 な、何故に困っているときはこんなに優しいのですか……。

 普段はあんなに意地悪だというのに……。


「新しい制服代、借金に上乗せしといたから」


「………はい」


 やっぱり意地悪でした。

 そうですよね、麗凰様が優しいなんてありえないですよね。


「君は何をやってるんだか……。 親の借金を返すためにうちで働いてるんでしょう? 借金を増やしてどうするの」


「………申し訳ありません」


 そう責めてきますが、その表情はどこか嬉しそうです。

 私の借金が増えて嬉しいですか、そうですか!


「ま、俺はそれでもいいけどね。 少なくとも借金全額返済までは美莉は俺のものだから、側から離れられないわけだし」


 ね?、と微笑みかけてきます。

 この人は私のことを一体なんだと……!


 あ、玩具でしたね………。



 (あく)る日。

 どういう訳か今日は生徒会室に私も同行することになりました。 というか、今日からは生徒会室にも同行するようにとのことです。

 私のことを気遣ってくれたのか、それともただの気まぐれなのか。 きっと、前者ですね。

 そもそも、一般生を生徒会室に招くなんて会長としての職権濫用ですね。


 しばらく麗凰様をはじめ、生徒会役員の方々のお茶汲みをしているとノックのあとに3名の生徒たちが入ってきました。

 その顔ぶれに思わず頬が引きつりそうになりますが、どうにか堪えて素知らぬふりを通します。


「御機嫌よう、本宮寺様」


「これはこれは。 御機嫌よう、一條さん、二宮さん、三条院さん。 生徒会になんの御用かな?」


 昨日の悪女3人組です。


「その、“生徒会長様”にご相談がありまして」

「お時間を少しだけいただけないかと」

「よろしいでしょうか?」


「えぇ、もちろん。 生徒がより快適な学園生活を送れるようにするのが生徒会の務めですから」


 麗凰様は3人にニッコリと笑顔を浮かべると丁寧に返答します。 昨日のことは麗凰様には言っていませんから、私が耐えれば変な空気になることはないでしょう。


「ありがとうございますわ」


「それで、相談というのは?」


「それなのですが、よろしければ中庭のテラスでお茶でもしながらに致しませんか? その方がよりリラックスした状態でお話できると思いますの」


「ふふ、分かりました。 それではそうしましょうか。 準備をしてくれ、美莉」


 麗凰様の言葉に無言で首肯し、ティーセットの準備をしようとしましたが、それは一條さんの言葉によって遮られることになりました。


「本宮寺様、あまり人に聞かれたい話ではありませんの。 ですから、宮本さんにはご一緒していただきたくないのですが……」


「ふむ……」


 麗凰様は顎に手を当てて少し考えるような素振りを見せます。

 なるほど、やはり彼女たちにとって私はお邪魔虫なのでしょう。 まぁ、彼女たちにしてみれば自分たちの王子様の前に現れた得体の知れない女です。 こうして忌み嫌われても仕方がないかもしれません。


「いいですよ」


 考えがまとまったのか、麗凰様は令嬢たちにニッコリと微笑みました。


「ごめんね、美莉。 遅くなるかもしれないから、先に帰っていてくれる? 隆元(たかもと)、悪いけどウチの車のところまで美莉を連れて行ってくれないかな?」


「ん〜、了解〜」


 副会長である、吉川(きっかわ) 隆元様がのんびりとした声で頷きます。 ……麗凰様、さすがにどの車が本宮寺家のものかはわかります。


「……はい、畏まりました」


 私は麗凰様の付き人であり、主人の行動に対して一切の決定権は持っていません。 私と麗凰様は、主と従の関係です。

 けれど、この胸のモヤモヤは何でしょう……?

 彼女たちのところに行ってしまうことに、何やら苛立ちに似た感情が巻き起こります。


「それでは失礼いたしますわね、宮本さん」

「うふふ、御機嫌よう」

「くれぐれも、もう噴水に落ちるような無様な真似はなさらないでくださいね。 同じ学園に通うものとして恥ずかしいですわ」


「……むぅ」


 麗凰様たちの姿が見えなくなったのを確認してから、私はコッソリと口を窄めました。





「お帰りなさいませ、麗凰様」


「ん」


 私が帰宅してからおよそ1時間後、お屋敷に麗凰様が帰ってきました。 玄関まで出向いてそれをお迎えします。

 そのあとは身の回りのお世話をしたり、遊ばれたりしているうちに就寝の時間になります。 ……ですが、今日は麗凰様が私に悪戯をしてくることはありませんでした。

 いつもなら、ドキドキするような悪戯をされるのですが……。


「……おやすみなさいませ、麗凰様」


「ん、おやすみ」


 何もない平穏なお勤めのはずなのに、何か心の中で残念なように思ってしまいます。

 いえ、これが私の求めていた職場なのです!

 これでいいのです!


「あ、そうそう」


 まるで自分に言い聞かせるようにそう考えていると、麗凰様がふと思い出したように切り出しました。 眩しいくらいに怖い、良い笑顔です。


「明日の放課後、生徒会室で面白いものが見られるから楽しみにしててね」


「………畏まりました」


 面白いもの、ですか?

 嫌な予感しかしないのですが……。




 麗凰様が面白いものを見せてくれると言った放課後。

 昨日と同様に私は生徒会室でお茶汲みをしていました。


「あの、面白いものとは一体なんでしょうか?」


 私が問いかけると麗凰様はまるでプレゼントを隠している子供みたいに悪戯っぽい笑みを浮かべました。


「ふふふ、見ていればわかるよ」


「全く。 お前も趣味が悪いな、麗凰」


「それはお互い様でしょう、隆元(たかもと)


 吉川(きっかわ)様はどうやら麗凰様が何をなさろうとしているのか、すでにご存知のようです。

 吉川様は麗凰様とは幼馴染だそうですから、もしかしたら言葉にせずとも察しているのかもしれません。


「いや、お前には本気でかなわねぇよ……」


 吉川様が呟いたのとほとんど同時に、生徒会室のドアがノックされました。


「御機嫌よう、本宮寺さま。 それから生徒会の皆様」

「本宮寺さまの方からお声がけいただけるなんて、とても光栄ですわ」


「御機嫌よう、一條さん、二宮さん、三条院さん。 時間通りに来ていただいて安心しました」


 入ってきたのは、件のご令嬢たち。

 もしかしてこの方たちが面白いものと関係があるのでしょうか?

 しかし、私としてはこの方たちと面白い事というのがどうにも結び付きません。


「当然ですわ。 本宮寺さまとのお約束に遅れるなど、そんな失礼なこと致しませんわ」


 リーダー格である一條さんがそう声高に宣言します。

 その様子を見ながら、麗凰様が仕草で彼女たちを応接用の椅子に座るように促しました。

 彼女たちもそれに答え、令嬢らしく優雅な所作で腰を下ろします。


「えぇ、そうですね。 ご存知ないかもしれないが、僕は心が広い人間じゃないんだ。 僕のことを馬鹿にするような真似をした人間を、許すつもりはないよ」


「本宮寺さまを馬鹿にする人間など、この学園にはおりませんわ」

「そうですわ。 本宮寺さまはとても素晴らしいお方ですもの、非の打ち所などありませんわ」

「私共も、本宮寺さまを愚弄する輩など許せませんわ!」


「ふふふ、ありがとうございます。 貴女達も同じ意見のようで安心しました」



 麗凰様はそう言うなり、────自分の紅茶を一條さんの顔に向かって盛大に撒き散らしました。

 それが彼女たちの顔にかかるまでほんの一瞬のことだったのでしょう。 けれど私には、まるでスローモーションのようにゆっくりと動くように見えました。


「きゃあ!?」

「ほ、本宮寺さま!?」

「どうなさったのですか!?」


 ご令嬢たちは悲鳴混じりの言葉を紡ぎながら立ち上がります。

 私はその様子をただ呆然と眺めることしかできませんでした。 だって、理解が全く追いついていません。

 何がどうなっているのでしょうか。


「俺のものを汚したゴミが」


 彼女たちに酷く冷たい視線を麗凰様が投げかけます。 それはまるで、本当に彼女たちをゴミだと思っているかのような冷徹さです。 少なくとも、麗凰様のことを慕っている女性に対するものではないでしょう。


「俺は言ったよな? こいつは俺の付き人、つまりは俺のものだって。 お前らはそれを承知の上で美莉に嫌がらせをした。 要するにお前達は自ら、俺の所有物を汚したってことだ。 それって、俺のことを侮辱する行為だよな?」


「そのようなことは……!」


「ないって? それは何に対しての否定だ?」


 どこから取り出したのか、麗凰様は数枚の写真を机の上に広げます。


「美莉に嫌がらせをしたことについてか? それとも、俺を侮辱する気は無かったとでも言いたいのか?」


 写真に映っていたのは、私が彼女たちに噴水に落とされるまでの一部始終のものでした。

 さらに、私の靴に画鋲を仕込んでいる写真もあります。

 ……画鋲はまだやられていませんね。 もしかして誰かがこっそりと取り除いてくださったのでしょうか?


「それは……」


「ほら、とあるルートから手に入れた写真だ。 これを見てどう思う?」


 冷たい視線のまま、トントンと写真を指で叩きます。


「わ、私達はそこの庶民に物の道理を教えは致しましたが、決して本宮寺さまを侮辱するつもりなどありませんでしたわ!」

「そもそも、そんな薄汚い女の存在こそ本宮寺さまの品位を貶めるもの。 私達はこれを排除しようとしただけです!」

「私達は本宮寺さまをお慕いしているからこそ、その女を排除しようとしたのですわ!」


 瞬間、ガシャンという音とともにティーカップが床の上で砕け散りました。


「ひぃっ!」


「誰が、いつ、そんなことを頼んだ!」


 とうとう怒りが抑えきれなくなったのか、怒鳴りつけるように彼女たちを叱りつけます。


「てめぇらのは唯の自己満足だろうが! 醜い嫉妬心に突き動かされただけだろうが!」


 ……ほ、本当に胸ぐらを掴みかからんほどの勢いです。

 と、止めに入った方がいいのでしょうか!?


「そんなくだらねぇもんのために俺の所有物を汚したんだ。 それなりの覚悟はできてるんだろうな?」


「あ、あの、麗凰さ───」

「………はぁ。 三人とも、悪いことは言わないから今すぐこの学園から消えたほうがいいよ。 これ以上、麗凰の怒りを買わないためにも」


 私の言葉は、呆れたような様子の吉川様に遮られてしまいました。 しかしその言葉が余計に彼女たちの恐怖心を掻き立てているようです。


「あーあ、隆元のせいで興ざめだ。 もういい、さっさとこいつらを摘み出せ」


 麗凰様がつまらなそうに言うと、本宮寺家のスタッフの方々がご令嬢たちを強制退場させてしまいました。


 そしてそのあとに残された沈黙……。


「あの……麗凰様?」


「ん、何?」


「今のは一体?」


 恐る恐る問いかけると、少しだけ怒りのオーラが和らいだ麗凰様が私の方に歩み寄ってきます。


「あいつらがお前に嫌がらせをしていたのは知ってる。 だから、彼奴らもびしょ濡れにしてやった。 それだけだ」


「……ん」


 そう言うと、麗凰様は私の頭にトンと手を置きます。 いつもより口調も頭の撫で方も荒っぽいです。


「勘違いするなよ、俺のお気に入りの玩具に手を出したんだから。 同然の報いでしょう?」


 私の頭を撫でながら、徐々にいつもの口調に戻っていく麗凰様。


 もしかして、私が彼女たちに嫌がらせを受けたから守ってくださったということでしょうか?


 そう思うと、どこか心がほっこりとなります。 やり方は雑ですし少し大袈裟な気もしますが、不思議と悪い気はしません。

 いつも色々と意地悪をしてきますけど、なんだかんだで麗凰様は私のことを大切に思ってくださっていたのですね。それが女の子としてではなくても、なんだか嬉しいです。


 こうして頭を撫でてももらうのも、今日はとっても気持ちいいです。


「お前は俺のものだよ。 借金を返すまで、せいぜい俺を楽しませてね」


 その言葉を聞いて、もう少しくらいなら麗凰様のお(そば)にいてもいいかな、と思ってしまいました。







「あ、そうそう。 割れたカップ代と汚れた絨毯代、君の借金に上乗せしといたから」



 ………やっぱり麗凰様はただの鬼畜なのかもしれません。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「───という、お話を書いてみたのですがどうでしょうか? ピュアなヒロインと、ドSレオ様です!」


「うん。 いろいろとツッコミたいところはあるけど、ミリーが可愛いから許す」


「ふわぁ……」

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