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物語の裏側で  作者: ティラナ
第三章
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第79話 断罪・3

 


 〜レオ視点〜



「この世界はゲームとは違う。 ミリーは俺のものだ。 貴女を殺すなんてこと、あり得ない」


 俺があんたを殺すことはあり得なくもないけど。

 数瞬ののち、アリス子爵令嬢は目から鱗が落ちたとでも言うような表情になった。 今まではこの世界はゲームであり、ミリアリアは死の象徴とでも思っていたのだろう。

 しばらくして、唇を震わせながらようやく口を開いた。


「ごめん、なさい……」


「アリス?」


「ごめんなさい。 ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


 壊れたレコードか何かのように同じことを繰り返し始めた。

 これがラノベの主人公とかだったら、『大丈夫だよ』とか言いながら慰めるんだろうけど、彼女にそんな優しくする筋合いはない。

 ミリーだったらそれどころじゃ済まないけどね。 まずはその唇を俺の唇で塞いで、落ち着いたところで涙を吸ってあげる。 そして────。 こういうのはこれが終わってから考えよう。


「はぁ……。 謝ってるつもりなのかもしれないけどさ、たくさん言えばいいってもんじゃないと思うんだよ」


 謝罪って回数を重ねれば重ねるほど薄くなる気がするんだよね。 遅れて来た奴が『ごめんごめんごめんごめ〜ん』とか言ってたら軽くイラっと来る。

 もちろん、ミリーなら許すけどね! むしろ、遅れてきたらすっごく心配になるだろうから、ミリーの姿を見たらすぐに抱きしめるかもしれない。


「私は、どうしたら……」


「そんなもの、本人に聞いてみるしかないんじゃない?」


 しばらくの後、消え入りそうな声でアリス子爵令嬢が問いかけてくるが、俺に聞かれたって分かるわけがないじゃないか。 頑張ればミリーの気持ちなら分からなくもなさそうだけど。

 こういうのは本人が決めるものであって、俺が決めるものじゃない。 こいつらにどんな制裁を下すのか、それを決めるのはミリーだ。

 俺はあくまでもミリーの願いを聞いてこの国を立て直そうてしているのであり、最終的にミリーの望む結果に持っていくのが俺の望みだ。


「え、えっと……私、ですか?」


 急に話を向けられたミリーが上目遣いでこちらを見上げてくる。

 うん、抱きしめていいですか?


「うん。 ミリーは、なにを望むの?」


「とりあえず、これからもずっとレオ様のおそばに……」


「それはもう決まっていることだから」


 そもそも、それは彼女に望むようなものじゃないよね。

 俺とミリーが一緒にいることは決まっていることだし、『末長く一緒にいられますように』と言うなら教会とかに行ってお祈りするやつだろう。

 たとえ相手が神だろうが、俺とミリーの仲を引き裂くようなら(以下略)。 ごめんなさい、ちょっと調子に乗りました。

 なんか変なフラグを建てかけた気がする。 この後に、乙女ゲームの制作側という名の神とのバトルとか勘弁だわ。


「……それでは、一つ」


「な、なんですか……?」


「これから先、この国をしっかりと支えてください」


 うん、ミリーは聖女様です。

 ある程度は予想していた答えだったけど、本人の口から聞くのは別格だ。 慈愛を体現したようなミリーは、きっと彼女たちに厳しい裁きを下さないだろうと、ある程度の予想はしていた。

 俺としてはその決断に納得できるかといえば、答えはNOだ。 心身ともにミリーを傷付けたのは絶対に許せない。

 けれど、当の本人であるミリーが許すと言っているのだ、ここで俺が駄々をこねるのは間違っている。


「……それだけで、いいんですか?」


「きっと、貴女が思っているよりも何倍も大変なことですよ。 その覚悟が、貴女にありますか?」


 拍子抜けしたようなアリス子爵令嬢の言葉に、ミリーは真剣な顔で問いかける。 凛々しい顔も可愛いです。


「できる限り、頑張ります」


「その言葉に偽りはないですね」


「はい」


「なら、許します」


「え、許すの?」


 あまりにもあっさりし過ぎていて、気の抜けた声が壁の方から聞こえた。 せっかくいいところだったというのに、割り込まないで欲しい。


「………えっとさ〜。 俺が言えたことでもないけどさ、今回の件に関わった人全員を罰する権利がミリーにはあるんだよ〜?」


 壁の飾りと化していたアインハルトが口を開く。ちなみに、宰相様は既に壁の飾りだ。大人の余裕というかなんというか、俺たちにこの場を一任してくれている。


「でも、皆さんがいなくなってしまっては国が余計に混乱しますし、王族の婚約者が何度も変わるのは問題です。 ルイス様やガウス様、ミカエラ様そして兄様に関しても、今後、このようなことがないよう努めてくださるということを約束していただければ十分だと思います」


 しっかりと意志のこもった目でそう断言するミリーに、アインハルトを始めこの場にいる全員が信じられないというような目を向ける。

 どうだ、信じられないだろう?

 これがウチの嫁の心の広さだ!

 可愛いだろう!?

 世界一の嫁だこのヤロー!


「やっぱミリーは賢いね。 と言うか本当に優しいね、可愛い可愛い、俺の天使だよ」


 よしよしと頭を撫でながら彼女に微笑みかける。

 無理をしての言葉だったら止めたんだけど、その表情に無理をしているような様子は見られない。 優しすぎて心配だよ。


「ん……。 ありがとうございます、レオ様。 ………先ほどの理由もそうですけど、彼女が頑張ってくれれば、私はレオ様と一緒に平和に暮らしていけますから」


「っ……!?」


 いま鼻血を出さなかった俺を褒めてくれ!

 上目遣いで頬を染めながら小声でそんなことを言われたら理性がぶっ飛んじゃうじゃないか!

 可愛い、可愛すぎるよ!

 ………この可愛い嫁をどうしてくれようか?

 とりあえず部屋に閉じ込めてイチャイチャだな。

 仕方がないから、いまは抱きしめて撫でるだけで我慢しておこう。


 確かに、ここでアリス子爵令嬢と王太子の婚約をなしにすることは簡単だろう。 王太子を誑かして国政を著しく乱したとすれば、お家取りつぶしに加えて、下手をすれば一族郎等────生まれたばかりの赤ん坊だろうが、死にかけの爺さんだろうが関係なく死刑なんてのも不思議じゃない。

 だけど、そうしてしまうとこの国の次期国王はたかが男爵家の娘に手のひらの上で転がされた(うつ)けだと国内外に向けて公言することになる。それでは隣国に付け入る隙を与えてしまうから、今よりも厳しい外交を強いられることは確実だ。

 婚約の件を大っぴらにしてしまっている以上、裏でこっそり死刑にするというのは難しいだろうし。 病死という名の服毒死も見る人が見れば違和感がある。


 ここで講じることができる手段としては、『アリス子爵令嬢が王太子の目を盗んで国の予算を横領していたとして婚約を破棄、その上でまともな相手を婚約者として新しく迎える』か、いまミリーが言ったように『婚約関係はこのままで、心を入れ替えてもらう』のどちらかだろう。

 前者は条件を満たす新しい婚約者がいればいいのだが、生憎そんな令嬢はいなかったはずだ。……まともな奴がいないのではなくて王太子と歳が近く、まだ婚約者が決まっておらず、王妃となっても問題のない血筋の者がいないのだ。

 王妃になっても反感が少ないのは公爵家や侯爵家、ギリギリで伯爵家だろうけど、そういった令嬢は早々に婚約者を見つけてしまっている場合が多い。まだ決まっていないほど年下というと、6〜7歳くらいの子になってしまうだろう。……18歳と7歳が結婚とか世が世なら犯罪だよ。

 しかも、王太子がこの短い間にコロコロと婚約者を変えるというのはミリーの言う通り、外聞が悪い。


 理想はやはり後者なのだが、2人が心を入れ替えてくれるかはわからない。まぁ、そうしたら集めまくった証拠を突きつけてアリス子爵令嬢を処刑するか、王太子の妨害でそれが叶わないようなら革命を起こすしかないだろう。

 なんだかんだ言いつつも甘さが隠しきれないミリーは、2人を信じているみたいだし、そこまで怖いところは考えていないのかもしれない。

 ……ま、そんな俺も大概だけどね。


 ミリーの髪の毛、フワフワで堪らんです。


「あの、えっと……私は……」


「あぁ、そういうわけだから、頑張ってね」


 まだ話についていけていないといった様子のアリス子爵令嬢に俺がキッパリと答える。

 え?

 ミリーはどうしたって?


「……いいんですか?」


「ミリーがいいって言ったんだから、いいんだよ。 ね?」


「ふぁい……」


「よしよし」


 もうトロットロですよ。

 この辺りに宿屋(ホテル)はあっただろうか。………休憩だけのところでもいいんだけどなぁ。

 宰相様に聞いてみるか。


「それじゃあ、俺たちはこれで」


「ちょ、ちょっと待ってくれ!」


「何かようですか?」


 王太子に呼び止められて、軽くイラっと。

 早くミリーとイチャイチャしたいんだけど?


「ミリアリア、君は無実だったのか……?」


 今更それですか。

 まぁ、バカ王太子なら仕方がないか。


「はい」


「そうか……」


「さっきのこと、ルイス様も守ってくださいね?」


 このイライラをどうしてくれようか。

 この抑圧された分をミリーにぶつけるのはもちろんのこととして、王太子にも軽く仕返しをしておきたいな。

 何かいいものはあっただろうか。


「アリス様とルイス様の二人で、この国を支えて行くという話です。 私の時のような過ちのないように、よろしくお願いしますね?」


「あ、あぁ。 わかった」


「………あ、思い出した」


 いい手があったじゃん。


「どうされたんですか、レオ様?」


「これ、この一年間のこの国の収支決算と参考までに一昨年の収支決算。 王太子様とアリス様の二人でよーく見てみるといいよ」


 黒〜い笑みを浮かべながら、さっきの書類の上に新しく書類を重ねる。

 ふふふ、自分の馬鹿さ加減をより思い知るがいい!

 その間に俺はミリーとイチャイチャする!


「あ、あの、レオ様……?」


「たっぷり可愛がってあげるからね?」


結局はお砂糖にたどり着くこのお話。


まさかの、これで断罪は終わりです!

スッキリしなかった?

だって、心優しいミリーとその意思を尊重するレオくんですからね。 レオくんの方に慈悲の心がなくても、ミリーが慈悲と慈愛の塊ですから厳しい裁きは下さないかなって思ったんですよ。


王太子がアリスに失望して婚約破棄。アリスは子爵家の娘として暮らし、王太子は新しい婚約者と添い遂げる。……っていうのも考えたんですけど、いくらなんでも無理があるなと。

一応は乙女ゲーのメインキャラである王太子にも、好いた相手を最後まで愛し続けるくらいの気概は持っていてほしいんで。

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