閑話 とある転生者のお話.4
〜アリス視点〜
「………おい、お前誰だ」
レオナルドさんと話していたら、警戒心むき出しのルイスが早足でやって来た。
い、イケメンが怖い顔をすると迫力満点だよね……。でも、そんな姿すらも格好良く見えるわけだけど。
「私、でしょうか?」
「そうだ。 お前以外に誰がいる。 アリスにナンパとはいい度胸だな。 王太子である私の婚約者に手を出すことがどういうことか、わかっているのだろうな」
「…………は?」
レオナルドさんがすごく驚いたような顔をする。
………あ。
そういえば私、自己紹介してなかった。
そうだよね。
私、なんだかんだ言っても、王太子様の婚約者なんだよね。 普通に驚かれるよね。
なんて言うか、頭ではわかってても自覚はないと言うか。ルイスの隣にいるためには頑張らないといけないと思ってるし、責任がある立場だってわかってるんだけど、偉い立場は慣れないって言うか……。
前世では小市民。今世でも、ちょっと前までは孤児院にいたわけで。
うぅ……。
ゲームの世界だとは言っても、プレッシャーで押しつぶされそう。
こういうのってどうすればいいのかな。やっぱり慣れるしかないのかな。
「その服についている家紋、お前ルーデイン公爵家の者だろう? 一体なにをしに来た」
「ちょ、ちょっと、ルイスっ。 いくらなんでも失礼だよ!? この人はお仕事でここに来て、たまたま私と話してただけなんだから」
あまりにもトゲトゲしいルイスを慌てて諌める。
ゲームでは語られていなかったけど、ルイスは意外と過保護で、ついでに嫉妬深かったりする。
「ふんっ、どうだかな。 もともとアリス目当てでここにやって来たのかもしれない」
それはないよ。
私が目当てでって、一体なんのためにって感じだよ。
私経由でルイスに近寄ろうとしたりする人とか、いまのうちに仲良くなっておいて将来的に優遇してもらおうっていう人とかはいるけど、そういう人ってなんか目がギラギラしてるからすぐにわかる。
だけど、この人はそういう人には見えない。
「ルイス、それはいくらなんでも考えすぎだよ」
「アリスは優しすぎるんだ。 宰相の遣いなのだろう? 何の用だ」
「もう、ルイス! あの、本当にごめんなさい」
レオナルドさんに慌てて頭を下げる。
───と、私の隣でルイスが不機嫌そうな声を漏らした。
「………お前は俺よりもこの男を信じるのか?」
「そうじゃないよ! 私はルイスのことが好きだし、ルイスのことを信じるよ! ………って、なにを言わせるの!?」
勢いで言っちゃったけど、恥ずかしすぎる。 顔が熱を帯びるのがわかるし、初対面のレオナルドさんに見られたというのが恥ずかしさを倍増させている。
「はは、照れるアリスも可愛いよ。 わかった、今日はここまでにしておこう。 おい、さっさとここから去れ」
「………わかりましたよ」
ため息をつきながら、レオナルドさんは校舎の方に消えていった。
……あ。そういえば結局、ルイスにレオナルドさんに謝ってもらってない。 うぅ、今度会うことがあったらそれも含めて謝らないと……。
すると、暖かい手が私の頬をそっと撫でた。 目の前には、少し心配そうにしつつも笑顔を浮かべたルイス。
リアル王子スマイルは何度見ても破壊力が……!
「大丈夫だったかい、アリス?」
「う、うん」
「あの男に何かされたかったか? 変なことを言われたりしなかったか?」
「大丈夫だよ」
「そうか。 それなら良かった」
ルイスは基本的に私が知らない人と話していると、相手がどんな人であろうともこういうことを聞いてくる。
「もう、ルイスは心配性すぎだよ」
「それだけ、俺にとってアリスが大切なんだ」
ルイスが私をそっと抱きしめてくれる。私は真っ赤になった顔を見られるのが恥ずかしくて、彼の胸に顔をうずめる。
うぅ、私たちの周りに甘い空気が充満しているのがわかる……。
前世の友達がいたら『砂糖警報発令! 砂糖警報発令!』とか言い始めるやつだよ。 まさか自分が当事者になるとは思わなかった。
「も、もう寮に戻ろうか! 私、勉強しないとだし!」
甘い空気にいたたまれなくなって、慌ててルイスに提案する。
「どうしたんだ、急に。 もう少しゆっくりしていてもいいじゃないか」
「で、でも……」
「大丈夫だ。 また今度、俺が勉強を教えてあげるから」
「うん……。 わかった」
結局、流されやすい私です。




