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物語の裏側で  作者: ティラナ
第三章
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第77話 断罪・1

 



 〜レオ視点〜




 3月。

 桜の花が舞い散り、前世でも今世でも卒業の季節だ。


 王都から少し離れた森林地帯。

 小高い丘になっているここいら一帯は、いくつかの貴族の小別荘が点在している場所でもある。

 王都からの距離がそこまで離れていないにも関わらず、王都の喧騒を忘れさせてくれるこの場所は王都に勤める貴族達にとっては憩いの場所になっているようだ。


 そんな中に、つい先日できたばかりの真新しい豪邸がそびえ立っている。 緑の濃い木々に囲まれた白亜の洋館は、世情に反して税の限りを尽くしていた。


 卒業式を終え、その足でそのままここに向かってきた王太子とアリス・シリーズ子爵令嬢は二人揃ってこの洋館にやって来た。 他にも、宰相様とアインハルトなどの関係者もこの場に揃っている。



 ────ここが、決着をつける場所だ。




「どうだいアリス。 ここは君のために作らせた別荘だよ。 以前、森に囲まれたログハウスで過ごすのが夢だと言っていただろう?」


「え……? あ、あぁ、うん」


 バルコニーで隣に立つアリス子爵令嬢に王子スマイルを向ける王太子。

 向けられた方はその笑顔に照れてはいるようだが、それよりもこの屋敷のクオリティに引いているようだ。

 これのどこをどう見たらログハウスなのだろうか。 完全に屋敷だ。

 彼女のイメージしていたものとはまったくの別物だろう。


「どこか、気に入らないところでもあったか?」


「ううん! 全然そんなことないよ!? ただ、びっくりしただけ」


「そうか、それなら良かった」


「う、うん……。 ありがとう、ルイス」


 この二人を観察していてわかったのは、バカなバカップルだということだ。

 王太子はアリス子爵令嬢のことしか見えていないし、彼女の願いを叶えようとするのが微妙に……いや、かなり的外れだ。 これが王太子という立場ではなく一般人だったならば良かったとかもしれないけど、立場が立場だけにその間違いが大きく響いている。

 対するアリス子爵令嬢はよく言えば健気で、悪く言えばイエスマンだ。 気を遣いすぎて自分の意見が言えず、王太子が間違っていてもそれを咎めようとしないし、無理矢理にでも笑顔を作ってしまう。 そしてそれが王太子の暴走を助長させてしまっているわけだ。


 どちらも明確に“罪”というわけではない。

 けれど、国のトップに立つ者として、それは罪だ。



「お取り込み中、申し訳ありません。 お二人に重要なお話があるのですが、よろしいでしょうか?」


 甘い雰囲気に浸っているところ悪いけど、後ろから2人に声を掛ける。

 すると、アリス子爵令嬢は恥ずかしそうに、王太子は苛立ちを隠しきれない様子で振り返った。


「……なんだ?」


「アリス様について、なのですが」


「え、私について?」


 小さく首を傾げるアリス子爵令嬢に、とびきりの笑顔を向けながら祝いの言葉を述べる。






「えぇ、ハーレムルート攻略、おめでとうございます」







「…………え?」


 ぽかんと口を開けて、目を大きく見開くアリス子爵令嬢。

 まさに寝耳に水、というやつだろう。

 このタイミングで、この相手に、こんな言葉をかけられるとは思っていなかったようだ。 確かに、俺は彼女の“ゲーム”とは全く無関係な存在だからな。


「なんの話だ? ……アリス?」


「な、なんで、なんで」


 王太子が心配そうな顔を向けるも、アリス子爵令嬢の視界には入っていないようで、彼女は口をパクパクとさせながらどうにかこうにか言葉を紡ぐ。

 しかしそれは、言葉にこそなっているものの文章としてはまだまだだ。 さしずめ、『なんで貴方がそのことを知っているのか』とか『なんで、いまそんなことを言い出したのか』とか、そんなところだろう。

 前者ならいまはそんなに重要なことではない。 冷静になればじきに俺も転生者であるという可能性に気がつくだろう。

 後者こそ、俺がいま言いたいことに繋がる。


「いえ、単に貴女がゲームをなさっているようでしたので」


 彼女はこの世界をゲームだと思っているのだろう。

 だったら、それはゲームであったと告げることで、いまのこの場所はゲームではないとそう伝える。

 ゲームはクリアされた。 だからここはもうゲームの中ではないのだ。

 いや、そもそも、この世界がゲームだと思うこと自体が間違っているのだが、それは後でもいいだろう。


 正直言って、彼女がどういう思惑でミリーを追い出したのか、まだ分からない。

 アントワさんの話から判断するに、『見目麗しい男性たちに目が眩んだ』という説と『ミリーに殺されると思い込んだ』という説のどちらかだろう。


 だけど、そんなことはどうだっていい。

 俺のミリーを傷つけたんだ。

 ───こいつの人生をグチャグチャにしてやる。


「王太子様、人間は死んだらどうなると思いますか?」


「まさか……!」


 俺の言葉をどう取り違えたのか、王太子はアリス子爵令嬢を庇い、護身用の短剣に手を伸ばす。


「いえいえ、お二人を殺そうと言う話ではありませんよ。 単純に言葉通りの質問です」


 特に妙なニュアンスは含ませないで言ったつもりだったんだけど、そんなに俺は怪しいだろうか?

 ……まぁ、怪しいか。

 突然わけわかんないことを言ったかと思ったら、なぜか自分の婚約者がそれに怯えてるわけだし。 魔法の世界だったら、精神魔法とかを使うやつと考えられても不思議じゃないな。

 ちなみに、この世界には中世ヨーロッパみたいな魔女は存在しない。


「輪廻転生、という考え方をご存知ですか? 死んだ人間は再び別の人間として生まれ変わるというものです」


 元々は仏教とかの思想だそうだけど、この世界にもその概念があることは確認済みだ。 もちろん本で。

 ただ、このバカ王太子がそんな専門的な話を知っているかどうかは別だけど。


「それが、どうかしたのか」


「どうやらその輪廻の中で、稀に記憶を残したまま生まれ変わってしまう人がいるようで。 そうですよね、アリス様?」


 王太子のリアクションにわずかに心の中で驚きつつも、アリス子爵令嬢に水を向ける。

 彼女は顔を青くしたまま黙ってうつむいてしまっているが、その反応は俺の問いかけを肯定しているのと同義だな。 誰の目にも明らかだ。


「貴様は、アリスが前世の記憶を残しているとでも言いたいのか。 はぁ、まったくバカらしい」


 訂正。

 王太子の目には明らかではなかったらしい。

 あ、目じゃなくて節穴か。なら、誰の目にも明らかで間違ってないのか。

 しかし、黙りこくったままでいられては話が進まないから、アリス子爵令嬢に次の発言を促すことにするかな。


「私に嘘は通じませんよ、アリス様」


 俺の言葉が彼女の中の最後の扉をこじ開けたのか、彼女はゆっくりと口を開いた。 こっそりとピンポイントで彼女にぶつけた殺意が効いたのかもしれない。


「………その通り、です。 私は、転生者です」


「アリス、何を」


「私は一回死んで、アリスとして生まれ変わったの。 それまではまったく別の人間だった」


 驚いた様子の王太子の言葉を遮って、アリス子爵令嬢は真剣な顔でそう告げる。

 いきなりこんなことを言われれば、『なんだこの電波ちゃんは』という感じになるだろうけど、この雰囲気では流石にそんなわけにはいかないだろう。


「私は、この世界のことを知っていました。 私の世界にあったゲームと、この世界はよく似ているんです」


 彼女はゆっくりと、口を開いた。

レオ君の思考がドス黒くなっとる……。

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