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物語の裏側で  作者: ティラナ
第三章
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第76話 告白と


ここから先、ちょっと早足だけど許してください……。

 




 〜レオ視点〜




 再び王都の屋敷に戻って来た俺は、ミリーに全てを話すことにした。

 アリス子爵令嬢との対決を控えている以上、ミリーには全てを理解して置いてもらわなければならないからだ。


 ミリーの私室にあるテーブルに二人ならんで座り、ソフィリアさんに用意してもらった紅茶を一口だけ口に含んで喉の渇きを潤した。

 この部屋にいるのは俺とミリーの二人だけ。ソフィリアさんにも、今は席を外してもらっている。


「ミリー」


「なんでしょうか、レオ様?」


 俺の声から真面目な話であると察したのか、綺麗な落ち着いた声で応えてくれる。 空気を読めるうちの嫁、略して空気嫁……絶対違うな。

 なーんて、現実逃避している場合じゃないよね。


「ミリーに、行っておかないといけないことがあるんだ」


「………?」


「いまから言うことは突拍子もないことだし、なかなか信じられないことだと思う。 だけど、どうか。 ゆっくりでもいいから、俺の話を信じて欲しい」


「わかりました」


 ミリーがしっかりと頷くのを確認してから、僅かに震える手でもう一口だけ紅茶を口に含む。 ふぅと小さく息を吐いて、俺は覚悟を決めた。


「俺は……“俺”という存在は、こことは違う世界で生まれたんだ。 転生って言って伝わるかな……。 一度死んで、別の世界で別の人間として生まれわかることなんだけど。 とにかく、俺は“レオナルド”として生まれる前の、まったく別の人間としての、前世の記憶を持っているんだ。 いろいろなことを知っていたのもそのおかげ」


 この世界に生まれてから、今の今まで誰にも言ったことのない俺の秘密。

 いままで一度も誰にも言おうとしなかったかと言われれば、否定することはできない。


 両親に言おうとしたこともあった。 けれど、人は自分の大切な子供が精神年齢は既に大人だったと知ったらどうなってしまうのか。 それを考えるのが怖くて、俺は両親の前では子供を演じ続けた。

 その演技力が役に立ったことも少なくないけど、それはたまたまいいように転がっただけだ。 宰相様を騙せるだけの演技力に至ったけれど、それだけ俺が臆病だったということ。


 ────本当の自分を知られて、周りの人が離れて行ってしまうのが怖かった。

 ────また、何もかも失うのが怖かった。


 俺は、結局は臆病なのかもしれない。 失うことを恐れてばかりで、前に進むことができなかった。


 でも、もうそんな生き方は嫌だ。

 これからは、前に進みたい。 前に進まなければならない。


「いままで、黙っていてごめん」


 そう言って俺は頭を下げた。

 もしかしたら、ミリーの顔を見るのが怖かったのかもしれない。 もしもミリーに拒絶されたら、俺はたぶん立ち直れないだろうから。


「レオ様……」


 ミリーの声が俺の耳に届くけど、その声がどのような感情を孕んでいるのかはいまの俺には察することができない。

 それが更に不安を倍増させて、自分でもわかるほどに心音が激しくなる。


 どれくらいの時間が経ったのかわからない。本来は一秒にも満たない本の一瞬の出来事だったのかもしれないけど、俺には途方もない時間に感じられた。

 その時、俺の両頬にヒンヤリとした柔らかなものが触れた。それがミリーの手のひらであると理解するまで、時間はいらなかった。

 その手に誘われるまま、ゆっくりと顔を上げる。


「私は、レオ様にどのような過去があったとしても、レオ様のことを嫌いになったりしません」


 そこにあったのは、女神のような笑みをたたえたミリーの姿だった。

 その笑みを見るだけで、心を支配していた不安が跡形もなくかき消されていく。 まるで心を浄化されているみたいだ。

 そのまま俺の背中に両手が回されて、ぎゅっと抱きしめられる。


「私はレオ様のことを心からお慕いしています。 たとえどのような過去があったとしても、その想いは変わりません。 それに、レオ様はレオ様ではないですか」


「ミリー……」


 耳元でそっと語りかけてくれる声はいつも通りの、柔らかい声音だった。


 あぁ……。

 やっぱり俺はミリーが大好きだ。すごく、愛おしい。

 俺の話をしっかりと受け止めた上で、俺のことを変わらず愛してくれる。

 “俺”は、ミリーを愛してる。




「……俺、そんな酷い顔してた?」


 少し冷静になって来てから、ミリーが俺のことを心配してくれているのだと気がついた。 彼女だって突然のことで理解が追いついていないだろうに……。


「酷いお顔ではありませんでしたけど、泣きそうな顔をなさっていました。 まるで捨てられそうな仔犬のようで……少し、微笑ましく思ってしまいました」


「はは、情けないところを見られちゃったね」


 顔を話して微笑み合う。


「ふふっ。たまにはいいじゃないですか、いつもは私ばかり情けない姿をしているのですから」


 ミリーの情けない姿なんてあっただろうかと考えを巡らせる。

 もしかして、始めてあった時のようなことを言っているのだろうか。

 確かにあの時は身も心もボロボロだったし、グシャグシャに泣き崩れていた。 だけど、それはミリーの境遇を考えれば当然だし、むしろここまで辿り着いたミリーの精神力は凄まじいものだと思う。

 それを尊敬することこそあっても、情けないなんて思うことはないんだけどな。 今度たっぷりと(フォロー)してあげよう。



 ただ、今はその話をしている時ではないから、気を取り直して話を進める。



「それで、ここからが本題なんだけど」


「はい」


「これはまず間違いないと思うんだけど、アリス・シリーズ子爵令嬢も転生者なんだと思う。 まぁ、俺と同じ世界かどうかはわからないけど」


 似たような世界でも、パラレルワールドみたいな世界の可能性もあるからね。


「あと、これはおそらくなんだけど。 彼女はこの世界のことを前世の時点でなんらかの形で知っていたんじゃないかな」


「それは、占星術か何かのようなものでしょうか?」


 確かに、それが普通の発想だよね。

 転生なんてことが起こっているのだから、まじないや占いの類があっても不思議ではない。


「ううん。 俺のいた世界には“ゲーム”っていうものがあったんだ。 多彩な使い方ができる玩具だよね。 その中に、物語を楽しむためのものがあったんだ」


「小説のようなものでしょうか?」


「まぁ、そんなもんだね」


 俺の残念な説明でも、なんとか理解してくれるミリーは流石だ。


「アントワさんの話から推測すると、この世界は彼女が前世で知っていた物語と似ているんじゃないかな」


「それってもしかして……」


「うん。 彼女は物語の筋道をなぞっているのかもしれない。 そして、彼女が物語に沿って動いている限り、世界はほとんど物語の通りに進んで行くんだと思う」


「その物語は、最後はどうなるのでしょうか?」


 身を乗り出してミリーが尋ねてくるけど、あいにく俺はその答えを持ち合わせていなかった。 女性向けの恋愛ゲームはやったこともないし、誰かがやっているのを見たこともない。 だから、この世界と酷似していると思われるゲームのシナリオは知る由もない。


「わからない。 ただ、物語はもう終わっているんじゃないかな」


「何故でしょう?」


「不遇な生い立ちの主人公が、自分をいじめていた相手を追い出して幸せを手に入れるっていうのは物語の定番でしょ? ミリーが王都を追放されて二人が婚約をした時点で、物語は終わっていると見るべきだね。 その証拠に、アインハルトはアリス子爵令嬢に対して、もう好意を抱いていないし」


「なるほど。 あの時は私の話にまったく耳を傾けてくださらなかったお兄様が、目が覚めたように冷静になられたのはそういうことなのですね」


「おそらくね」


 いわゆるゲームの補正力のようなものだろう。

 ミリーにも働いていたのかどうかはわからないけど、ミリーの様子を見るに働いていたとしてもあまり大きなものではなかったのだと思う。 それはミリーが自己を持った人間であることの証明であり、ここが完全にはゲームの世界ではないということの証明でもある。


「ただ、この世界は物語とは違う。 俺もミリーも、他の人たちも自分の意思を持った人間だ。 多少、物語の影響を受けたからと言って、完全にゲーム通りに進むわけじゃない」


「もちろんです」


 俺の言葉に鷹揚に頷いてくれるミリー。


「彼女には、それをわかってもらわないといけないね」


 ミリーの目を見て、俺はにっこりと微笑んだ。

 多少なり黒い笑みになってるかもしれないけど、仕方がない。




 アリス子爵令嬢と王太子の卒業まであと2ヶ月を切った。それまでにできる限り情報を集め、計画を詰めよう。

 彼女の物語を、裏側から壊してやろう。


 この国のために。




 何より、俺とミリーの未来のために。




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