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物語の裏側で  作者: ティラナ
第三章
82/105

第73話 始まりの地へ

 



 〜レオ視点〜




 情報収集を開始してから2ヶ月が経過した。



 その間も様々な観点から情報をかき集めていたわけだけど、有力なものは集まっていない。

 とりあえず今わかったことを整理していきたいと思う。


 まず、アリス・シリーズ現子爵令嬢が言葉巧みに男子生徒に近寄り彼らを魅了したということ。 しかし、ミリーを追い出すに至ったにもかかわらず、彼女に直接的に口説き落とされた人数は意外にも少なく4人しかいなかった。

 一人目は、ルイス・ウォンダランド。 この国の王太子でミリーの元婚約者。

 二人目は、アインハルト・ルーデイン。 宰相、ルーデイン公爵家当主の長男でミリーの兄。 俺の義兄。

 三人目は、ガウス・モルガン。 モルガン伯爵家の長男。 父親であるモルガン伯爵は騎士団長でもある。 この国の中枢の一人だ。

 最後は、ミカエラ・ボルドナント。 王宮大臣を務めるボルドナント公爵家の次男。 ちなみに王宮大臣とは、王城を取り仕切る大臣で、王族の公務や食事の管理や王城の整備などを行っている。 宮内庁のようなものだと思う。


 以上の4人がアリス・シリーズ子爵令嬢の取り巻きの中心だった面子だ。

 あとは、この周りにコバンザメみたいなのがいたそうだが、そこに関しては把握ができていない。 決まったメンバーではなかったそうで、そうでない生徒との線引きが難しいのだ。


 面子を見てもらえばわかるとおり、名門中の名門ばかりだ。

 他の超名門は子供の歳がまだ小さかったり、逆に上だったりするから、いま学校に通っている超名門子息たちのほとんどと言っても過言ではないだろう。

 シリーズ子爵令嬢はおそらく家柄のいい相手を優先的に取り巻きに加えたんだと思う。


 驚くべきはその人身掌握術だ。

 いくらバカばっかりでも、名門子息で、見た目も申し分ない彼らに近寄る女性は数多(あまた)いたそうだ。 にも関わらず、彼らの心を射止めて恋愛関係になるどころか、自身の取り巻きにしてしまっている。

 彼らにそう思わせるほどの何かを彼女が有しているのか……。




 次に、王太子について。

 やはりというべきか、その無理な要望のほとんどは自身の婚約者であるシリーズ子爵令嬢への貢物。

 その理由に関しては『次期王妃に贈り物を贈るのは当然』『アリスの喜ぶ顔が見たい』とのことらしい。

 肝心の、子爵令嬢が王太子に強請っているのか王太子の独断なのかはわかっていない。

 つまり、どちらが介にゅ……説得しやすく、どちらを最終的に叩き潰……罪に問うべきかがわからないのだ。 まぁ、実際に罪に問えるかはわからないけどね。


それに、現時点での王族はルイス・ウォンダラントのみ。

次に近いところだと、各公爵家や侯爵家ということになるだろう。

それも何代も前に当時の王女だったり王子が嫁いだだけで、血もかなり薄い。その上に数が多い。

さらなる混乱を招くことになるのは火を見るよりも明らかだ。


 また、王太子自身はクールで聡明なんだけど真っ直ぐで芯の強い性格……らしい。 ぶっちゃけ俺からしてみたら猪突猛進なただのアホにしか見えなかったんだけど、クールで聡明なんだそうだ。

 シリーズ子爵令嬢に唆されているとも、人の迷惑を顧みずに高価なプレゼントを贈っているとも考えられる。




 最後はシリーズ子爵家について。

 今さらだが一年くらい前までは男爵家だった家で、一人娘であるアリスがこの国の第一王子と婚約したことで力をつけた家だ。

 なぜ娘の婚約で力が付くのかと言うと、王妃の実家ともなれば少なからず王族への進言が許される。 それだけでもその家の価値は跳ね上がるわけたが、そこに加えてそのお零れにあやかろうとする取り巻きが増え、更に権力を増すという理由だ。


 さて、話を戻そうか。

 そのシリーズ子爵家だけど、今から三十年ほど前に前当主の代で貴族の仲間入りをしたばかりの新興貴族だ。

もともとは山脈とは反対側───はるか南、ここから徒歩で数ヶ月という距離にある海岸地域を拠点としていた海運業を中心とした商人だった。

けれど、先代の国王───王太子から見ると祖父にあたる───に忠義を尽くしたと言うことで男爵位を賜ったそうだ。 具体的な内容に関しては、国王が船で隣国へ視察に向かう途中で嵐に襲われたところ、自身の命を顧みずに助けたということらしい。

 しかし、そのあとは海岸地域に小さな領地をもらったものの、これと言った活躍もなく現在にまで至っていた。

 元々が商人だったからか、領地運営に関する書類は几帳面に記されていて、毎年提出されていた。 土地は比較的裕福で税収も悪くない。 主な産品は海産物がほとんどだが、農作物が育たないわけでもない。


 アリス・シリーズの父親である現当主も真面目な商売人気質な人のようだ。 女性関係について問題があったもののそれもこの世界では常識の範囲内。

 自分の身の丈をしっかりと理解していて、危険は犯さない慎重な人だったようだ。 風の便りによると、爵位が急上昇したせいで王都に呼び出しを食らったり、提出しないといけない書類が増えて困っているらしい。

 要するにこの情報でなにが言いたいのかと言うと、父親の差し金で玉の輿を狙っているという可能性は少ないということだ。





 色々と述べたけど、この2ヶ月で得られた情報は多いようでいて少ない。

 しかもそのほとんどはシリーズ子爵令嬢の周囲の人間に関するものばかりで、彼女自身に関する情報は全くと言っていいほど入っていない。

 彼女の動機や目的が消去法的に少しずつ狭められているだけで、答えには辿り着いていない。


 人柄についても同様で、耳に入ってくる情報と実際にミリーに対して行なった行いとが噛み合わない。 いっそ、全く別の人物がミリーを嵌めたと言われた方が納得できるほどだ。

シリーズ子爵令嬢の周囲からの評価は『穏やか』『腰が低い』『怖がり』などと言ったものばかり。ミリーに対して好意的な意見を持つ生徒からは『泥棒猫』『ミリアリア様の仇』『尻軽女』などなどもある。

 彼女の実態は全く掴めていない。



 学校の卒業式まではあと4ヶ月ほど。

 それまでにどうにかしないと、彼女が王妃となってしまってからでは手出しがしづらい。


 だが、裏を返せばあと4ヶ月は猶予があるという意味でもある。 彼女たちが学校に通っている限り、こちらがよほど大きな動きを見せない限りは動きを悟られることはない。

 これが小説とかだと、愚かな王を上に据えてそれを裏で操ろうとする貴族か何かが出て来そうなもんだけど、そこに関しては宰相の方で色々と調査や対処をしてくれているようだし、俺の専門外だからパス。



 やはり、シリーズ子爵令嬢の人柄についての情報を集めないことにはこれ以上先には進めないな。

 彼女がどうしてミリーを追い出そうとしたのか。 ただ単純に王太子妃の座が欲しかっただけなのか、他に何か理由があるのか。


 相手が相手だけに、ピースの揃わない状態で勝負をしかけるのは危険すぎるのだ。




「レオ様、見えて来ましたよ。 あれがアリス様が幼少期を過ごした孤児院のある街ですか?」


 馬車の窓から外を眺めていたミリーが、少し声を弾ませながら街を指差した。 長旅で疲れていたのだろう。


「たぶんね」




 俺たちは、シリーズ子爵令嬢について探るべく、彼女の生まれ育った海辺の街にやって来た。




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