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物語の裏側で  作者: ティラナ
第三章
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第66話 とある少女との語らい

とうとう、ここまで来ましたか……。

 



 〜レオ視点〜





「さって〜。 どうしたもんかねぇ……」


 宰相様に王城を自由に歩いてくれていいとは言われたけど、ぶっちゃけ言って困る。

 前世でも今世でも小市民な俺が、どうして王城を好きに歩けるんだよ。 公爵家の応接室ですらビクビクしてたのに、王城とかもう無理だろ。

 怖くてまともに歩けないわ。


「てか、何でこんなに無駄に広いんだよ」


 貴族の子息令嬢は貴族の子息令嬢で、妙にプライドが高かったりしそうだけど、こちらがビクビクする必要はないから気分的に楽だ。早く学校に着きたい。


 と、まぁ、これといって何の問題もなく、王城と学校の地図はあらかじめ見せてもらっていたおかげで迷うことなく二つが繋がっているところへ来た。

 話に聞いていた通り、王城と学校は隣接しているらしい。

 二つの境界部分は高い壁で仕切られていて、出入りができないようにされているようだ。

 唯一の門も門番───と呼ぶには文官風な出で立ちだが───がいて、出入りが制限されているのかもしれない。


 宰相様から受け取っていた許可証を見せてから、門を通過する。

 どうやらこの服のボタンに刻まれている刻印がルーデイン公爵家の家紋になっているらしく、あっさりと通してもらえた。



 ───のはいいんだ。

 門をくぐって出たのは、森!?

 というか、完全に校舎裏だ。

 仮にも王城と繋がっているというのに、なんか雑じゃない?

 出入りが少ないというか、もう既に門番さんが可哀想に思えるほどに使われてないんじゃないか?

 せいぜい学校の先生が出入りするかなくらいだろう。

 地図には校舎の見取り図はあったものの、前世ほどのクオリティじゃなかったからなぁ。 このパターンは予想してなかったわ。


 王太子と、ついでにシリーズ子爵令嬢に関する情報を得られたらって思っていたんだけど、まずは人を探すところから始めないといけないな。


 何て思いながら森を歩いていたら、ベンチに座ってぼんやりとしている少女を見つけた。 特別なにかをしているというわけではないようだ。

 学校指定の制服に身を包み、茶色の髪を頭を後ろで縛っていて、可愛らしい顔をしている。 ミリーには負けるけどな!

 あまりいい情報を得られるかはわからないけど、まずはこの子から情報収集を始めてみるべきだろう。



「すみません。 少しお尋ねしたいことがあるのですが、よろしいですか?」


「あ、はい。 大丈夫です。 人を待っていただけなので」


 俺の言葉にパッと顔をこちらに向け、そのまま立ち上がってくれる。

 かなり丁寧に対応をしてくれる子のようだ。 本来ならば、こちらが話しかけたのだから、向こうが立ち上がる必要なんてないのに。


「そうですか、それではあまりお時間を取らせてしまってはいけませんね」


「あ、いえ。 本当にお構いなく」


「私は、宰相様の遣いの者です。 今の学校での生活に何か不満や、希望があれば教えていただきたいのです」


 流石に直球で聞くのはまずいなぁということで、こういう話からうまく情報を引き出して行きたいと思う。

 王太子やシリーズ子爵令嬢が自分勝手な振る舞いをしているようならその苦情を聞けるかもしれないし、宰相の立場ならどうにかなるかもと話してくれる可能性は上がる。


「あ、それはご苦労様です」


 ぺこりと俺に頭を下げてくれる。 その様子は貴族っぽくはあるものの、何処か街の子たちの仕草と似ていて堅苦しさがない。

 ……対応がまとも過ぎて困る。

 もう少し高慢なのが出てくると思ったんだけど。


「私などのようなものに、学園に通われるようなお嬢様が頭をお下げになる必要はございませんよ」


「…………? あの、こういう話は失礼かもしれませんけど、宰相様にお仕事を任されるほどの方なんですから、私なんかよりも偉い人なのではないですか? それにここの卒業生さんなんですよね?」


「…………」


「………?」


 やっちまったなぁ。

 そうか、そうだよね。

 宰相にひとりで仕事を任されるんだもんね、少なくとも貴族の子息とは見るよね。 実際、俺以外は皆そうなんだろうし。


 彼女の話を聞く限り、あまり高位の貴族ではないそうだから、使用人だからって公爵家の人を邪険に扱うことはできない。 自分よりも高位の実家を持つ人間である危険性があるからな。

 こうして働いているわけだから、年齢だって俺の方が上なわけだ。 そして、年齢が上の貴族ということは自分からしてみたら先輩にあたる。

 彼女からしてみたら、俺に頭を下げない方が不自然というわけか。


「ま、まぁ。 深い事情がありまして、私はこの学校へは通っていなかったのです」


 苦笑いを浮かべながら気まずそうにそう言うと、少女はこちらの事情を彼女なりの解釈で受け止めてくれたらしい。

 何処かの貴族の隠し子くらいの認識だろうな。


「あ、そ、それは失礼しました!」


「いえ、ですから頭をお上げください」


「は、はい。 本当にすみません」


 俺の言葉におずおずと頭を上げる少女。

 その姿が、出会ったばかりのミリーの姿と重なって思わず笑みが零れた。 ……泣いてはいないけど。


「ふふ……」


「あの、なにか?」


「これは失礼いたしました。 私の妻に何処か似ていたものですから」


 ミリーの名前は間違っても出してはいけない。

 この生徒もミリーのことは知っている可能性が高いから。


 しかし、少女は目を開いて驚いたような様子を見せた。

 ま、まさかミリーのことがバレたわけでは───


「あ、もう結婚してらっしゃるんですか。 お若い方と思ったのですけど」


 ───なかった。

 セーフ。

 って、これくらいでバレるわけはないか。


「いえ、私はまだ19ですよ」


「あ、私よりも一つ年上なんですね。 羨ましいです」


「ありがとうございます。 ということは、貴女はこの学校の最上級生の方なのですね」


 俺よりも一つ下。 ということはミリーと同い年か。

 もしかしたら、ミリーとこの少女とは浅からぬ縁があったのかもしれないな。

 二人とも性格も似ているし、案外親友だったりするのかもしれない。

 貴族なのに堅苦しくないところとか、それでいて相手のことをしっかりと見て行動しているところとかね。 この少女も頭は悪くなさそうだし。


「はい。 でも、ここには転入して来たので、他の人ほど慣れていなくて……」


「そうなんですか?」


「はい。 それまでは孤児院にいたので」


「……ご苦労なさっているのですね」


 貴族の世の中もいろいろだよな。

 孤児院か。

 前世ほどに福祉施設の充実していない今世では孤児院での暮らしはかなり辛かっただろう。

 俺も何度かしたことがあるけど、街の人とかに寄付金をもらってそれでやっと運営できているという感じだ。


「いえ。 私なんて先を知っていましたから……」


「先……?」


「あ、いえ、ごめんなさい。 こっちの話です」


「そうですか」


 よくわからないけど、さほど重要なことではないと思う。

 ここでいきなり『私には先を見る力があるの!』とか言われても困る。 魔法のないこの世界では、前世同様にただのイタイ人だ。

 この少女がそのタイプの人かはわからないけど、多分そういう内容ではないはずだ。


「はい。 あ、えっと、何の話でしたっけ」


「あぁ、そうでした。 学校での生活で何かお困りのことはありませんか? 不便で困っていることですとか、イジメを受けたり暴力を振るわれたりですとか」


「……………」


 俺の言葉に押し黙り、みるみる顔を青くする少女。

 よく見ると手が少し震えているようだ。


「どうかされましたか? 顔色が悪いですよ?」


「あ、いえっ。 なんでもないです。 ちょっと怖いことを思い出してしまって」


「何か恐怖を感じるようなことがあるのですか? イジメ、ですとか」


 この少女はあまり気が強くなさそうだから、もしかしたらイジメにあっているのかもしれない。

 ミリーだって、かの子爵令嬢にイジメ……というかもっと高度な嫌がらせを受けていたのだから、それよりも身分が低いと思われるこの子だってイジメを受けていたって不思議じゃない。

 こうして人目につかないところにいるのだって、そういう理由なのかもしれない。


「い、いえ、もう一年も前に解決したことですから」


 俺の不安とは裏腹に、そういう少女の様子から見て本当にもう解決したことのようだ。

 一年前に嫌がらせを受けて学校を追い出された少女と、一年前にイジメが解決した少女か……。

 何の関連性もないと考えるのは楽観的すぎるか。


 ミリーがイジメをしていたというのは何をどう考えても、たとえ地球が爆発したとしても、空が降って来たとしてもあり得ないことだけど、何か繋がりがあると見た方がいいかもしれない。


「そうですか。 それは良かったです」


「はい。 えっと、あと、いまは特に困っていることはないですね。 お力になれず申し訳ないです」


「とんでもない。 困ったことはないのが一番ですからね」


 俺としてはかなり有用な情報が得られたわけだから、とても力になっていただいたわけだけど。

 少女にお礼を言ってその場を立ち去ろうとした時、俺の後ろから声がかけられた。


「………おい、お前誰だ」


「私、でしょうか?」


 振り返るとそこには男子用の制服を身に纏った、少女よりも色の濃い、こげ茶色の髪の青年がいた。

 顔立ちは整っているが、俺はその顔に見覚えがあった。

 いや、会ったことはない。

 姿絵で見ただけだ。


「そうだ。 お前以外に誰がいる。 アリスにナンパとはいい度胸だな。 王太子である私の婚約者に手を出すことがどういうことか、わかっているのだろうな」


 そう、この男こそこの国の王太子。

 ミリーを追い出した張本に……


「…………は?」






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