第65話 お仕事
うーん。
政治関連の話は作者のスッカラカンな頭だとなかなか難しいです(; ̄ェ ̄)
学生時代に政治学とか勉強しとけばよかった……。
多少の問題点には目を瞑ってください。
〜レオ視点〜
「……これが今日の書類ですか」
王城の比較的奥の方に位置する、とある一室。ここが宰相としての執務室なのだそうだけど、その執務机の上にはおびただしい数の紙の山がそびえ立っている。
いくらこの世界の紙が少し分厚いからと言っても、この山には圧倒されてしまう。
「いや、これは午前の分だ。午後にはこの倍くらいの量が届くな」
「ははは………」
要するに、これは今日1日のウチのまだ三分の一ってことですか。
乾いた笑いをこぼしながら机の上の紙の束をペラペラと捲る。俺が手にした紙に記載されていたのは、王都の道路の整備に関する内容だった。
うん。各大臣のところで纏められた書類も、少なくとも一度はここを通過するんだもんね。
いや……何というオーバーワーク。
気合いを入れるためにふぅと小さく息を吐いて、俺は弱気な考えを吹き飛ばした。
「よっし。ま、いっちょやってやりますか!」
「うむ、よろしく頼むぞ」
この程度の書類の山がどうした!
確かに量は多いけど、紙の一枚一枚が日本のコピー用紙の倍くらいはある。だから、実際の量としてはこの半分くらいだ。
それに書類は全て手書きだから、みっちりと書き込まれていると言っても前世の比ではない。
前髪を掻き上げてから、俺は宰相様の執務机の斜め前にある机に腰を下ろす。
向かいでは本来の宰相付きの執事さんが黙々と宰相様の補佐をしている。その様子を視界の端に捉えながら、書類を処理していく。
ま、俺の一存で決めるわけにもいかないし、気になる点などがあれば優先的に宰相様の方に回すけど。
「ここの予算、具体的には何に使われているんですか?」
気になった部分に印をつけて、宰相様の方に質問をする。
王宮大臣の方から提出された資料だ。
「王宮の庭に植える植物や花瓶に生ける花だな」
「もう少し削って貰うように言ってください」
「いや、しかしだな……」
きっぱりと言い切る俺に、口籠る宰相様。
まぁ、削れと言われてそう簡単に削れないのはわかってる。口で言うのと実行するのは別の話だ。
でも、ここで中途半端な気遣いをするのは悪手になる。情け容赦ないと言われようが、割り切るところは割り切らないと。
「民の暮らしと城の内装、天秤にかける必要がありますか?」
詰め寄る俺に、宰相様は苦い顔をしながらも首を縦に振った。
「………わかった、善処しよう」
「いざとなれば、私も説得に協力させていただきますから」
「……うむ」
「これらの書類、計算にミスがあります。程度に差はありますが、どれも必要経費が本来よりも多く見積もられているようです。ただのミスならいいのですが、意図的だとしたら問題ですね。確認を取るよう、お願いします」
十数枚の紙の束を宰相様に渡す。内容は各部署からの必要経費の申告書なのだけど、内訳と合計額が合わないものがあった。
財務大臣の方でもチェックはしているんだろうけど、いかんせん数が多いから手が回らなかったのだろう。
「今すぐ、か?」
「今すぐにです」
「……わかった。使いを向かわせておく」
宰相様が執事さんに目配せをすると、執事さんは鷹揚に頷いてから部屋を出て行った。
おお、これぞまさに以心伝心というやつですか。
「ここの土地、税の収入を誤魔化しているようですね。早急に対応をお願いします」
「う、うむ……。わかった」
「学校の費用ですが、少しかかりすぎですね。具体的には何に?」
「教師の給料、教材費、校舎などの維持費、光熱費などだ。その内訳なら、ここにある」
「王宮の方でも思いましたけど、光熱費がかかりすぎです。王都は比較的温暖な気候なんですから、暖炉など用の薪は必要ないでしょう。光に関しても、もう少し削ることはできると思いますが?」
「しかし、なんでも削ればいいというものでは」
「民はもっと削ってますよ? ウチだって、無駄遣いをしないように色々とやりくりをしてるんです。民を思うならお貴族様も頑張ってください」
「う、うむ………」
「それから────」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「さて、少し休憩にするか。おかげでだいぶ早く片付いた」
「そうですね。ちゃちゃっと昼飯にしちゃいましょう」
宰相様の声で、書類から目を離す。
時刻は正午まであと30分くらいといったところ。かれこれ3時間以上は書類とにらめっこをしていたようだ。
「ん〜〜」
宰相様が執事さんに何かしら目配せをしているのを確認しながら、バキバキと肩や指を鳴らす。
そういえば、なんだかんだ言って今世では初のデスクワークかもしれない。
村では親の手伝いは農作業がメインだったし、街に出てからは本の整理やお会計がメインだったから、デスクワークをする機会はなかったからなぁ。
そもそも、この世界ではよっぽど上の方の人にならないとデスクワークなんてしないからね。
「お待たせいたしました」
机の上の書類をまとめながらそんな事を考えていると、執事さんが銀のトレイを手に部屋に戻って来た。
トレイの上にはサンドイッチとティーセットが乗せられている。
……平然と持っているけど、けっこう重そうだ。
執事さんにお礼を言ってからサンドイッチを口に運ぶ。
前世では、トランプが大好きなサンドイッチ伯爵がトランプをしながらでも食べられるようにと考えて生み出したとされるサンドイッチだけど、今世でもやっぱり手軽に食べられる食事として広く食べられている。
具材は、ハムチーズレタスとタマゴだ。
「ところで、宰相様は午後のご予定はどうなっていますか?」
咀嚼したサンドイッチを呑み込んでから、宰相様に話しかける。
休むときと働くときでメリハリは大事だと思うけど、そんな呑気な事を言っている場合でもないから時間は有効活用しないとね。
宰相様は紅茶を一口だけ口に含んでから、俺の問いかけに答えた。
「うむ。まずは上層部での会議、その後に財務大臣のところと、王宮大臣のところのはずだ」
「なるほど。俺もお伴したほうがいいですかね?」
会議ともなれば俺の出番はなくなりそうだけど、一応は付き人の一人という扱いになっている手前、周囲への建前的にはついて行った方がいいだろう。
「いや……。君は、王太子の方に接触を計って欲しい」
「接触、と言うと?」
宰相様の発言に首を傾げる。
確か王太子は学校内の寮で寝泊まりをしていたはずだ。
基本的に学校内外の人の出入りは禁止。王太子だけは例外的に出入りが許されていたと思うけど、今日は会議に王太子が出席するという話ではなかったはずだ。
「学校内に王城から役人が出向くことは実はそう珍しくない。きちんとした教育が行われているのか、といったものを見るためにな」
なるほど。アインハルトがクビになったのもそこに理由があったのか。
内部の不正や問題を知るためにはやはり実際に人を送り込むのが一番手っ取り早いということか。
「そこで、君には学校内の調査という名目で王太子やシリーズ子爵令嬢の様子をその目で確かめて欲しい」
「そうですね。やはり一度、確かめておく必要はありそうですね」
宰相様に笑顔で答えてから、俺はサンドイッチを口に放り込んだ。




