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物語の裏側で  作者: ティラナ
第三章
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第61話 日常

 




 〜レオ視点〜





 シュヴァルツさんに俺とミリーの考えを伝えたあと、俺たちは再び街に帰ってきていた。 しばらくはこの店を空けざるを得なくなるから、身の回りのものをまとめるのと、そのことを街の人たちに知らせるためだ。


 ソフィリアさんも同行してくれるらしく、女将さんに長期休暇をもらったそうだ。


 俺は自分の身支度を簡単に終わらせて、ある意味いつも通りに店のカウンターに座っていた。


「レオさん! ミリーさんと一緒に王都に行っちゃうって本当なんですか!?」


 バタバタと駆け足の音が聞こえたと思ったら、店の中にイレースちゃんが駆け込んできた。

 相変わらずアクティブで元気いっぱいである。

 二本の尻尾がフヨフヨと揺れている。


 そういえばこの子ってこの一年間でほとんど背が伸びてないよね……。

 まさか、もう成長が止まってしまったんだろうか。

 うーん……。

 まぁ、本人が気にしてないならいいけど、完全にロリ体型だもんなぁ。 小さくて可愛らしいからいいと思うけど、いろいろと大変そうだ。


「あぁ、うん。 やらなきゃいけないことがあるんだ」


 何をするのかは誰にも言っていない。

 庶民が宰相の補佐なんて万が一にも他の貴族に知られたら何をされるかわかったものではない。 俺の身分に関してはシュヴァルツさんの方でうまくフォローしてくれるらしいから俺は下手なことはしない方がいいだろう。

 ただでさえ、マナーとかの危険性があるんだから。


「そんなぁ……」


「本当にごめんね。 できるだけ早く帰ってくるつもりだけど、その間は店を閉めないといけないと思う。 できたら、誰かに頼んで本の店頭販売だけはできるようにしてみるけど」


 無責任ではあるけれど、公爵家の誰かをこっちの本屋に派遣してもらえるように頼んでみるつもりだ。

 いくら売り上げが落ちているとはいえ、完全になくなれば困ってしまう人はいるだろう。

 それに、頼みを聞いてこちらから出向くのだから、それくらいはしてもらっても罰は当たらないと思う。


「いえ、それもそうなんですけど。 しばらくレオさんとミリーに会えないと思うと寂しくて……」


「……ありがとう」


 イレースちゃんの言葉に心がほっこりとする。

 持つべきものは大切な妹……友達だね!

 いや、別にイレースちゃんを勝手に妹だなんて思ってないよ!?

 ただ、この子は街の人にとって妹みたいな存在だからセーフ!


「そうだ! それじゃあ今夜、女将さんのお店を借りて送別会をしましょうよ!」


「送別会? でも、やることが終わったら帰ってくるつもりだし、何年も開けるつもりじゃないよ?」


 あんまり盛大に送り出されたら帰りづらい……。


「いいんです! あ、だけど、もしかして迷惑ですか?」


「ううん、そんなことないよ。 ミリーも喜ぶと思う。 だけど……その、お金とか大丈夫?」


 これは逃げるための口実じゃなくて、本当に心配だ。

 なんだかんだ言ってこの街の人たちは逆境にも負けずに前向きにがんばっているから忘れがちだけど、職を失ったり重税に耐えかねて土地を捨てて逃げる人も少なくないご時世だ。

 イレースちゃんたちだって例外ではないだろう。 送別会なんてことをする余裕はほとんどないのではないだろうか。


「心配ありません! 女将さんもレオさんとミリーのためならタダで借してくれると思いますし、お金のかかったパーティーじゃなくて気持ちみたいなものですから!」


 確かに、イレースちゃんの言う通りか。

 パーティーは気持ちが第一だからな。 お金がかかってなくても気持ちが籠っていれば嬉しいよね。


「それなら、お言葉に甘えようかな。 ミリーには俺から話しておくね」


「ありがとうございますっ! それじゃあ、今夜6時くらいに、女将さんのお店に来てください!」


「ん、わかった。 楽しみにしてるね」


「はい! 任せといてください!」


 意気揚々と店を出ていくイレースちゃんを見送る。

 うん、店に入って来た時よりも茶色の尻尾が上を向いている気がする。 ……髪の毛だから本当に上を向いていたら直してあげた方がいいんだろうけど、比喩だよ? 比喩。



「センセー! どっかに行っちゃうって本当ーーー!?」


 去年よりも少し大きくなったロリっ子、エシルちゃんが三つ編みの尻尾をシュンとさせながらやって来た。 学校が終わってすぐに飛んで来てくれたみたいだ。

 ……あれ、学校でも噂になってりは、しない、よね?





 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





 時間は経って、送別会。

 送別会には思っていたよりも多くの人が集まってくれた。 ミリーの人望のおかげなのか、結婚報告の時と比べると倍近くに増えている。 ……女子の数が。


 今更かもしれないけどさ、この街って俺以外にも男いるよね?

 大丈夫だよね?

 俺が普段見ているのは幻とかじゃないよね?


 最近俺が話したのは………えっと、あれ?

 あ、本の宅配をした時にお爺さんと世間話をしたな。

 この街だと、まさかのそれだけ!?

 おっかしいな。 街の外だとシュヴァルツさんとかジリーアスさん、アインハルトとか色々といるんだけどなぁ……。


「レオちゃんとミリーちゃんがいなくなると、寂しくなるわねぇ〜」


「はは、ありがとうございます」


 ミリーとその取り巻き───と言うと人聞きが悪いな、お友達がいいかな───の様子を眺めながら軽く意識がトリップしかけてたところを女将さんの声で引き戻される。


「………宰相様の手伝いをするんでしょう? がんばってね」


「どこで仕入れたんですか……」


 この人の情報網は相変わらず底が知れない。

 国家秘密を握ってたとしても驚かないよ。

 さすが、おばちゃんの情報網は侮るべからずというやつだな。


「ふふ、ソフィリアちゃんにね」


「ソフィリアさんからも情報を引き出すとは……」


 今回はケロっと情報源を教えてくれる女将さん。

 ソフィリアさんからか。 あの人、こういう情報って何があっても口を割らないタイプなんだけどな。

『主の不利益になることは、たとえこの命が尽きようとも言うわけにはいかない!』とか言って、切腹しそうな感じなんだよ。 ……って、流石にサムライ色が強すぎるか。

 だけど、彼女の口が堅いのは言うまでもない。

 ソフィリアさんの信頼をここまで勝ち取るとは、女将さん恐るべし。



「レオさ〜ん! こっちでお話しするわよ〜〜!」


「ルネア〜、声おっきい。 耳がキンキンする〜」


 ルネアちゃんに手招きをされて、俺はミリーたちの方へ向かった。



 この風景を次に見られるのは、一体いつになるのだろうか……。


 意外と早かったりしてね。

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