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物語の裏側で  作者: ティラナ
第三章
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第57話 到着

 




 〜レオ視点〜




 馬車は驚くべき速さで草原を駆け、朝早くに街を出発して、日が西の空に傾き始める頃には王都の目前まで迫っていた。

 ミリーとイチャイチャしては他の二人の存在を忘れていて恥ずかしくなりを繰り返し、その後も他愛もない話をしたりしていたらあっという間に到着した。

 ミリーが怯えたり、逆に肩肘張ってしまったりしないか心配だったが、どうやら杞憂だったようだ。



「もうじき王都に着くよ〜。 あ、でもでも〜、門は窓を開けなくてもOKだからね〜」


「窓を、開ける……?」


 確かに少し前から窓は閉められているが、日が陰り始め風が寒くなったのと、ミリーの顔を見られないようにという理由からだと思ったのだが。

 話の流れからするに、普段は窓を開けなければならないということだろう。


「そうです。 馬車に乗って王都を出入りする際は基本的には誰が何人乗っているのかを知らせるために、窓を開けておくのが決まりとなっています。 昔は一人一人の顔を確認していたようですが、いまはここまで簡略化されています」


「なるほど。 開けなくてもいいってのは、これが公爵家の馬車だから?」


 かなり簡略されていた検問だが、窓を開ける程度はするのか。

 なんか自動車で踏切を渡るときみたいだなぁ。

 まぁ、理由は違うけど。


「そうだよ〜。 ほら、僕って公爵子息だし」


 ヘラヘラとしながら胸を張る、アインハルト。

 ……こいつ本当に反省してるんだよな?


 てか、もう呼び捨てで問題ないよな?

 お義兄さんとは呼びにくいし、尊敬に足る人物でもなさそうだし。


「さてさて〜。 公爵家の別邸に着いたよ〜。 僕は先に降りるね〜」


 話しているうちに目的の場所に着いたようで、馬車は動きを止めた。

 御者をしてくれていたアインハルトの付き人が外側から扉を開け、そこからアインハルトが出て行く。


「「「おかえりなさいませ、アインハルト様」」」


「ん〜、ただいま〜」


 チラリと外を見ると大勢の使用人が控えているようだ。 アインハルトが出ると、その人たちが一斉に頭を下げる。


 うわぁ〜……。

 マジで貴族だわ。

 当主ってわけでもないし、これでも全員じゃないんだろうな〜。

 流石はこの国で最上級の貴族だ。

 てか、どうして今日帰ってくるってわかったんだろう。

 こっちの都合で引き伸ばさせたのに。

 まさかこのためだけに早馬を走らせたりしたのだろうか。……してそうだなぁ。


「……ミリー、大丈夫? 」


 ソフィリアさんもアインハルトに続いて出たから、俺たちも出ようとミリーに声を掛ける。


「はい。 大丈夫です、レオ様。 お心遣いありがとうございます」


「ん、それじゃあ手を」


「はい」


 ミリーの手を取り、お姫様をリードする王子───自分で言ってて恥ずかしいな───のようにキザっぽく振る舞う。

 なんか雰囲気がそれっぽいなっていうのと、後はユーモアだ。


 俺が馬車から降りて来たことに眉を顰めていた使用人達だが、ミリーの顔を見るなり大きく息を呑んだ。


「ぁ……。 お嬢……さま」

「お、おかえりなさいませ。 お、お嬢、様」

「お嬢様……!」

「なんで……」


 三者三様な反応だ。

 お嬢様と呼ぶことに躊躇いのある人もいれば、髪が短くなり庶民の服に身を包んだミリーの姿を嘆くような人もいる。

 申し訳なさそうな、心臓を締め付けられたような表情をしている人もいるから、彼ら彼女らがミリー支持派を軟禁した人たちなのだろう。

 とは言っても、彼らを恨むのは筋違いだ。 彼らにも生活や事情があったのだから。


 そんな混沌とした雰囲気の中、奥の方から一人の老齢の紳士がやって来た。

 その姿を見た周囲の使用人達の間に沈黙が広がる。

 まさに鶴の一声───いや、声を上げてすらいないね。


「ようこそおいでくださいました、レオナルド様、ミリアリア様」


「ご無沙汰しています、ジリーアスさん。 突然、押しかけてしまって申し訳ありません」


 この老齢の執事は、この一年間でミリーの情報をかき集めてうちまでやって来たうちの一人だ。

 手がかりらしい手がかりもないのに、よくもここまでと感心した。

 それもそのはず、何を隠そうこのジリーアスさん、このルーデイン公爵家の執事長なのだ。 超やり手である。


 俺がこの家の人間にバレることなく情報を得られたのは、彼の優秀さや立場が多いに役立ってくれていたのは言うまでもない。


「いえ、とんでもございません。 準備はほとんど整っております。 ただ、お部屋のご用意にあと少しばかりお時間をいただいてもよろしいでしょうか? 」


「近くに宿を取るのでも構いませんよ」


 俺からしたら大きな恩がある。

 あまり手を煩わせるわけにはいかないから、そう提案する。

 多少のリスクはあるが、ナーシサスさんのお店に行くのもいいだろう。


「いや〜、僕としても泊まって行ってくれる方が嬉しいかな〜。 いろいろと遅くなっちゃうといけないしさ〜」


 しかし、アインハルトは申し訳なさそうにしつつも、譲る気などサラサラないといった口調でそう言ってくる。

 確かに、ミリーが公爵や公爵夫人に会って何事もなく終われるとは思えない。

 対立がないことは祈るしかないが、逆に感動の再会になっても時間がかかりそうだ。

 遅くなってからでは宿に空きがないかもしれないし、夜遅くになってバタバタとするのは好きじゃない。


「まぁ、それなら仕方がないか。 ミリーもそれで構わない? 」


 ここには数多くの思い出が詰まっているだろう。

 楽しかった思い出も、いまになって見たら辛く感じてしまうこともあるかもしれない。


「大丈夫です、レオ様がそばにいてくだされば」


 また可愛いことを言ってくれる。

 うん。 俺もミリーがそばにいてくれれば、たとえ火の中だろうが、水の中だろうがなんてことはないな!

 ……あ、でもミリーがそばにいたら、ミリーまで火の中に入ることになるのか!?


 それはダメだ。

 問題を一人で抱え込むのはお互いにしない約束になっているが、かと言ってミリーを火の中は入れたくない。

 よし、二人で抱き合ったまま水の中に行こう。

 レッツ海水浴!


 ……あれ?

 なんか苦難というかただのデートになってない?


「じゃ〜、そういうことで。 ジリーアス、後はよろしくね〜」


「畏まりました」


 ジリーアスさんはアインハルトの言葉に恭しく頭を下げてから、後ろに控えていた使用人に指示を出す。

 ほとんど丸投げされたわけだが、テキパキと指示を出す姿は熟練の技を感じさせる。


「さて〜、お父様はあいにく王城からまだ帰って来てないけど。 どうする? お母様には会っておく?」


「いえ、後ほどお父様とお会いする時に一緒にお時間をいただければと」


「オッケ〜」


「ところで、時間まではどこにいればいいの? 」


 流石にずっとこのままというわけにもいかないし、建物の中を自由に見学と言った雰囲気でもなさそうだ。

 何処か控えの間みたいなところに通されるのだろう。


「それでしたら、私どもの方で応接室の用意をしておりますので、そちらに」


 俺の質問に答えたのは、アインハルトではなくてジリーアスさんだった。

 ……ふと思ったんだけど、俺って公爵子息は呼び捨てな上にタメ口なのに、その使用人であるジリーアスさんには敬称付きな上に敬語だね。

 うーん、あべこべ。


「わかりました。 それでは、案内していただいてもよろしいですか?」


「畏まりました。 ところで、ソフィリアはどのようにいたしましょうか」


 チラリとミリーの後ろに所在なさげに立っていたソフィリアさんに目を向ける。

 つまり、客の一人として迎えるべきか、それとも使用人として働かせた方がいいか、ということだろう。

 ソフィリアさんはミリーの方に目を向けるが、何か目でやりとりをしたらしく、ソフィリアさんが恐る恐る口を開いた。


「わ、私は……み、ミリーの姉だから、ミリーのそばにいるつもりだ。 ……………で、いいよな?」


「はい、もちろんです。 ソフィお姉様」


「畏まりました、それではソフィリア様もこちらへどうぞ」


「か、畏ま……ありがとうございます」


 やっぱ、ソフィリアさんにとっては上司だもんな。

 様付けで呼ばれるのは居心地が悪そうだ。


 俺とミリー、あとソフィリアさんはジリーアスさん自身の案内のもと、屋敷の中に通された。

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