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物語の裏側で  作者: ティラナ
第三章
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第55話 真実

新年あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。


……と、書いているいまは11月。

予約投稿様様ですね。

そしてまさか、この話が新年一発目になるとは……。

 




 〜ミリー視点〜





 この一年の間で数回通った道を、いままでとは比べ物にならないスピードで馬車が走り抜けます。

 ときどき大きな石にぶつかったのか馬車が大きく揺れますが、クッションがしっかりとしているのでお尻は全く痛くありません。

 この馬車は国内でも最高のもので、豪奢な造りに反して小回りが効き、速さも出やすく、なにより中での会話が御者台にすら漏れません。

 しかも向かい合っても、お互いの膝同士がぶつかる心配がないだけの広さがあります。


 私の横にはレオ様が、私の前にはソフィお姉様、そしてレオ様の向かいにはお兄様が座っています。 馬車の中はこの四人だけで、お兄様の従者は御者台に乗って手綱を握っています。

 あとは、この馬車を囲むように馬に跨った三人の人がいます。 公式の業務ではないので、人員は最小限に抑えているとのことです。


「馬車なんて生まれて初めてだよ」


「そうなのですか?」


 ぼんやりと外を眺めていたレオ様がそんなことを口になさいます。

 なんと言うか、意外です。

 レオ様なら馬車くらい何度も乗ったことがありそうなのですが。


「うん。 庶民だと馬車なんてそうそう使う機会ないからね。 行商の人も馬に荷物を引かせてはいたけど、自分は歩いてたし」


 確かに、普通ならそうなのでしょう。 ですが、普通ではないのがレオ様ですからね。


「レオ様に喜んでいただけたようで嬉しいです」


「馬車とか関係なくミリーと一緒にいられることが俺の喜びだよ。 ミリーと一緒にいられて、本当に嬉しい」


「レオ様……。 私も、レオ様とお会いできたことを感謝しています」


 レオ様の瞳を真っ直ぐ見つめます。


 あぁ、どうしましょう。

 心臓がドキドキし始めました。

 大切なところが本能のせいでムズムズと疼いてしまいます。


「レオ様ぁ……」


 もじもじと足をすり合わせながら、目を閉じてキスを強請ります。

 あぁ、レオ様。

 レオ様をもっと、もっと感じたいです。



「ラブラブだね〜」


「「………」」


 お兄様の言葉に現実に引き戻されます。

 そこにはニヤニヤとした笑みを浮かべるお兄様と、どこか諦めたような視線を送ってくるお姉様が……。


「二人とも、一応もう少し人目を憚るということを覚えた方がいいと、私は思うぞ。 あと……その、はしたない」


「はは、わかってはいるんだけどね」


「うう……。 恥ずかしいです」


 みっともない姿を見られてしまいました。

 貴族などは関係なく、人前で欲情してしまうなんて女性としての品格に欠けています。

 き、きっと馬車の中という密閉された空間だというのと、レオ様との距離が近いというのが原因です。

 そうです。

 そうに違いないです!


 わ、私は決していつでもどこでもレオ様に欲情してしまうような、みっともない女ではない……はずです。

 あの、もし、そうだったとしても……私のこと受け入れてくれます、よね?




「それにしても馬車って本当に速いね。 歩くのとは大違いだ」


「レオナルドも買ってみたらどうだ? 馬の世話は大変だが、多くの本を運ぶのには便利だし、利益も上がるだろう。 馬の世話なら、私も多少だが心得がある」


「そのうちね。 ……いまは景気が悪いからそれどころじゃないかな。 ねぇ、アインハルト様。 いまの不景気の理由、あんたたちに関係があるんだよね?」


 お姉様の話に相槌を打ってから、レオ様はそのまま話の矛先をお兄様に向けます。

 いまの不景気はお兄様たち、もっと詳しく言えばアリス男爵令嬢が原因だと、ルーデイン公爵家の使用人であるジリーアスさんたちから情報を得ています。

 ジリーアスさんはルーデイン公爵家の執事の一人で、私が小さな頃からお世話になっている初老の男性です。 レオ様は彼をはじめとしたルーデイン家の使用人達と繋がりを持ち、様々な情報を入手しています。


「………。 本当にどこで情報を仕入れているのか不思議だね〜」


「肯定なのか、否定なのか」


 話をはぐらかそうとしたお兄様に、レオ様がキッパリと問い詰めます。


「肯定、かな〜。 ルイス……えっと、つまりは王太子がアリスへの貢物をしてるんだ」


「へぇ、あんたはそれを黙って見てたと。 陛下や宰相様は何をしてんの? いくらなんでも黙認ということはないんでしょ?」


「………これはあまり大声では言えないし、どうか秘密にしておいて欲しいんだけどね───陛下は、もういないんだよね」


「つまりは………」

「……え?」

「それは……!」


 あまりのことに言葉が出てきません。

 それはレオ様もソフィお姉様も同じようで、三人揃ってお兄様の方を凝視します。


「陛下はもう一年くらい前に亡くなったよ。 それはもう呆気なく。 長年、病気を患っていたんだ。 ミリーが王都を追い出された頃には、既にいつお亡くなりになってもおかしくはない状態だったんだよね。 だけど次期国王であるルイスはまだ学生。 王位を継ぐには若すぎるから、国民の不安を煽り、隣国に付け入る隙を与えるだけ。 だから陛下はまだ “生かされている” んだ。 いまは、うちの父をはじめとした国のトップとルイスが話し合って政治を行っているよ」


 陛下が亡くなった。

 これはおそらく本当にこの国のごく一部の人間しか知らないのでしょう。 何せ、ルーデイン家に仕えている使用人ですら知らなかったのですから。


 陛下の死を隠し、あたかもまだ存命かのように政治を取り仕切る。 陛下には兄弟はいらっしゃいませんでしたから、王太子殿下以外には後を継ぐべき人がいないからでしょう。


「だったらどうして、こんな状態になっているの? 話し合いで決めているなら、独裁的な政治にはなりにくいんじゃない? 」


 レオ様のご指摘はごもっともです。

 けれど、それは間違っていらっしゃいます。

 確かにこのようなことは上位の貴族くらいではないと知ることのないことでしょうから、そう思われるのも無理はありません。


「……実際には、ルイスがほとんど決めているよ。 税金をいろいろ理由をつけてアリスのために使っちゃってるし、足りなくなったら税金をあげればいいと考えてる。 他の貴族たちはその尻拭いかな」


「誰か王太子を咎めようとはしないの?」


「しないんじゃなくて、できないんだよ。 あまり公言されてはいないけど、この国は他国と比べても王族が大きな力を持ってる。 王太子を咎めようものなら、不敬罪でその場から追い出されちゃうんだ。 そして以降の会議に出席できなくなっちゃう。 だから、何も言わないで少しでも被害を小さくするように尽力するしかないんだよ」


 私が王都を追い出されたのもここが関係しています。

 この国では王族に逆らうことは許されません。

 いえ、本来ならば国王が間違っていたら、それを咎めることくらいは罪には問われません。 それが現在の貴族の役目の一つでもあるからです。

 けれど今は違うのでしょう。 殿下が王族の力を乱用してしまえば、誰も逆らうことは出来ません。


「もういっそ革命でも起こした方が早くないか、それ」


「それは勘弁して欲しいな〜。 そうなったら僕たちも処刑されちゃうし」


「それはそれだな。 ミリーが家族の縁を切られているのが幸いしたな。 完全に切り離せる」


「あっはは〜、冗談きっついな〜」


 お兄様はそうは仰っていますが、それが冗談ではないということはこの場にいる誰もがわかっています。


「ま、革命したら人が大勢死ぬからそれは最終手段だな。 このままの政治で、革命で死ぬよりも多くの人が死ぬようなら視野に入れざるを得ないだろうけど」


「革命って言っても、そもそも兵力がないんじゃないかな〜?」


「戦争をしなくても別にいいんだよ。 ようは相手の大将を殺して、歯向かってくる奴を屈服させればいいんだから」


「甘い顔して怖いこと言うね〜」


「……甘い顔は、あんたには言われたくないな」


「はは、お互い様ってやつだね〜。 というかさ、革命の計画なんて僕に話しちゃっていいの? 王都についてすぐに君のことを国家反逆罪でひっ捉えることも出来ちゃうんだよ〜?」


「そんなことしないでしょう? 利益がないから」


「はは、やっぱ頭いいね〜。 そうなんだよね。 このままだと、国が滅んじゃうのは確実だし、君を捕まえたらミリーが黙ってないしね」


「当たり前です! レオ様を捕まえるなら私も一緒に捕まえてください!」


 さっきまで話に口出しをすることなく、ただ口を閉ざしていましたが、お兄様の言葉に思わず反応してしまいました。


 私にはレオ様がいない生活なんて考えられません。

 レオ様とともに生き、レオ様とともに死ぬ覚悟です。

 レオ様が処刑されてしまうなら、私も断頭台に一緒に並びます。

 最後の瞬間まで、私はレオ様と寄り添っていたいですから。


「ふふ、大丈夫だよ。 俺は捕まらないからね。 革命を起こさなくていいように手を尽くすつもりだから」


「ん……」


 そう言いながら私の頭を撫でてくださいます。


 ……あ、いけません。

 また、疼き始めてしまいました。

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