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物語の裏側で  作者: ティラナ
第二章
58/105

閑話 友情?

 




 〜レオ視点〜




 家の裏の空き地で俺とソフィリアさんは互いに剣を構えて対峙していた。


 剣とは言っても金属でできたものどころか木刀のようなものですらなく、訓練用の竹刀のようなものだ。

 当たっても“それほど”痛くないもので、喉や顔を切っ先で突いたりしなければ怪我などの危険はない。 せいぜい痣ができる程度だな。


 今日は休日を利用して運動がてら軽く手合わせをすることになった。

 ソフィリアさんを付き合わせてしまって申し訳がないが、この街に馴染めてきているようだし、本人も乗り気だったから問題ないだろう。

 ミリーと一緒にお茶会をしたり、メイドの経験を活かしてジャスミンさんの元で宿屋のお手伝いをしたりして、この街にだいぶ溶け込めているようだ。


 ウチに顔を出す頻度もそこまで多くなく、ミリーがしっかりと独り立ちできている────正確には俺と二人三脚だから独り立ちではないのかもしれないが────かどうかを確認しに来る程度だ。 それもなんと言うか、妹が心配でついつい見に来てしまう過保護なお姉ちゃんみたいで微笑ましい。


 第一印象はお互いに最悪だったわけだけど、なんだかんだで俺とソフィリアさんの中も悪くない。

 ソフィリアさんは俺に対して引け目を感じていたようだけど、それも最近ではある程度は収まって来ている。 良くも悪くも真っ直ぐで、ブレーキやハンドルの効きが悪いけど、心根はしっかりとした人だ。



「レオ様〜! 頑張ってくださ〜い! あと、お姉様も〜!」


「ん、任せといて」


「………いや、うん、レオナルドとミリーは夫婦なのだしな。 私の応援はついででも仕方がない、か」


 ミリーの声援に気を引き締める。

 ソフィリアさんが少し悲しそうな顔をしたけど、これは譲れない。 俺とミリーはご近所でも有名なラブラブ夫婦だからね。


「えっと、ソフィリアさん、よろしくお願いしますね」


「あぁ、こちらこそよろしく頼む。 私などに相手が務まるかわからないが、最善を尽くさせてもらおう」


 キッと表情を引き締めて剣を構える姿はまさしく女侍だ。

 ミリー曰く、ソフィリアさんはミリーの護衛も兼ねていたそうで剣の腕はそこそこあるそうだ。 『でも、レオ様の方が強いです!』と、付け加えてくれたけど。


 ミリーの恋愛フィルターを考慮に入れると、なかなかいい試合になるのではないかと思っている。

 もちろんミリーのことは信頼しているし、ミリーの分析能力が低いというわけでもない。 ただ、やはり恋愛感情が 絡むと判断を誤ってしまうことは多々あるだろうからな。

 それに、実際に手合わせをしてみれば相性というものもある。

 念には念を。

 油断せずに気を引き締めて行くべきだろう。


「それじゃあ、開始ってことでいいかな?」


「わかった」


 なんとも気合が入らない感じだが、今のが開始の合図だ。

 本物の決闘とかになると『いざ、尋常に………始め!』とか、そういう掛け声があるらしいんだけど、審判のいないこの場では選手同士で始めるしかない。

 え?

 ミリーは観客だよ?



 なんて考えている間にソフィリアさんが突っ込んでくる。

 彼女の性格のように直線的な動きだが、かなり速い。

 身を屈めつつ重心を前に傾けて、倒れるよりも先に足を前に踏み出しているようだ。

 さながら忍者のようである。

 そのまま俺の脚を目掛けてほとんど予備動作のない最小限の動きで竹刀を叩き込んでくる。 相手を生きたまま無力化するなら脚を狙うのが一番効果的なのかもしれない。


「おっ……!」


 低い位置からの攻撃だが、焦らずに冷静に払う。

 イメージとしては燕返しの要領で、ソフィリアさんの剣を上に弾く感じだ。


「はぁっ」


「おわっと」


 弾いたそばから、今度は身体を捻じって剣を持つ俺の腕を狙ってくる。 切り返しが早いね。

 そこはこちらの剣をぶつけて再び弾き飛ばす。

 今度は先ほどより強く弾き、その反動で後ろに飛んで距離を作る。


 さて、今の流れでわかったのはソフィリアさんの剣術はスピードとテクニックを活かしたものだということだ。

 なんと言うか、主人公っぽい技だね。 あとは二刀流で黒いマントだったら完璧。 ……某黒衣の剣士さんみたいになりそうだ。


 ふぅとため息を吐いてから剣を横に構えたまま走る。


「こんどは、こっちからっ」


 そのまま、勢いを利用して左斜め下から右斜め上に切り上げる。

 俺自身が前に進んでいるから後退して避けることも出来ないし、斜め方向に斬っているから横に飛び退くのも難しい。 ついでにしゃがんで避けるのもできないように脚を大きく踏み出しているし、蹴りに転じることも可能だ。

 あと右上方向に受け流されないように、右上に切り上げつつも右下に向けて手首に力を入れている。 複雑だし失敗すればなんの意味もなく普通に受け流されてしまうわけだけど、俺にとっては得意技の一つだ。


 つまり受け止めるしかないわけだが、力が込められているからそう簡単には受け止められない。

 師匠に教えてもらった、逃げ道をなくして相手とガチンコ勝負に持って行く力を活かしたゴリ押しの戦法だ。


 受け止めるしかない力の勝負になれば俺の方が有利────


「えっ!?」


 ────のはずが、ソフィリアさんは俺の剣を右下(・・)方向に受け流した。

 そこに生まれた隙にソフィリアさんが剣を差し込んでくる。


「危なっ」


 慌ててそれを脚で蹴り飛ばす。

 蹴りにも移れるように重心を調節していたから、割とスムーズに脚を出すことができた。

 予想だにしなかった方向に受け流されたが、すぐに姿勢を立て直す。

 今度は逆にソフィリアさんに隙が生まれ、そこに剣を叩き込む。 ……少し弱めで。


 俺の竹刀はソフィリアさんの胴に当たり、竹刀の乾いた音が響く。



 それが試合終了の合図となり、俺もソフィリアさんも構えを解く。


「ふぅ、ありがとうございました。 ……大丈夫?」


「問題ない。 手合わせ、感謝する」


「レオ様っ、かっこよかったです!」


「ん、ありがとう」


「レオナルドのその剣術は軍のものと似ているようだな」


「うん。 退役した軍人さんに教わってたからね。 ソフィリアさんのは?」


 かなり珍しい流派だと思う。

 そもそも、軍流の剣術である俺の剣術は実戦を想定したものだ。 それの、受け流し不可のいわゆる必殺技────技名とかはないし地味だが────なわけだが、それを受け流されたのは驚きだ。

 自分で言うのもあれだが、俺の剣の腕はそこそこあるはずだ。 そう簡単に受け流されては、たまったものではない。


「あぁ、私のものはプリマス家に伝わる古武術の一つだな」


「プリマス家?」


「ソフィお姉様のご実家です。 子爵家で、騎士などの武人を多く排出している武闘派です」


「そうなんだ」


 だからソフィリアさんはこんなにサムライ風なのか。

 しかし、小さな頃からミリーのそばにいたらしいのに、一体どこで身につけたのだろうか?


「あぁ。 話を戻すが、今のは女性が使うための剣術で、最小限の力で相手に勝つことを目標としたものだ」


「なるほど……」


 地球にもそういう武術────と言うか護身術?────があると聞いたことがあるな。

 最小限の力で相手に勝つか……。


「……それを、教えてもらうことって、できるかな? いや、もちろん無理にではないし、一家に伝わる秘伝とかで無理なようなら断ってくれても文句は言わないよ」


 プリマス家に伝わるという言い方から察するに広く知られている流派ではないのだろう。

 下手をしたら一子相伝に近いものかもしれない。

 そうしたら大人しく引き下がるしかないね。


「別に構わないが?」


「え、いいの?」


 あまりの呆気なさに少し間抜けな表情になる。


「あぁ。 元々、一族の中でも使う者が少なくて消えかかっている流派だからな。 剣を振るって戦うのは多くが男だ。 だから力はある。 力があるのならわざわざこの流派を身に付ける必要はない、と考えるようだ。 私のように剣の道に進む女は少ないからな」


「力の強い人でも学ぶ価値はあると思うんだけどね」


 そんな理由で貴重な流派が消えて行くのは勿体ないな。

 わざわざ剣の道に進もうとする女の人が少ないのは仕方がないか。

 ただ、もともと女性用に編み出されたものでも、男性が全く使えないというわけではない。 むしろ両者のいいとこ取りをして、ハイブリッドな新しい剣術を生み出すこともできそうだ。


「私もそれには同意見だ。 しかし、教えるからにはきっちりと叩き込むが、構わないか?」


「もちろん。 望むところだよ」


 改めて互いの顔を見ながら強く握手を交わす。

 ほとんど男同士の友情の会話だな。

 だけど、悪くないね。


「えっと……頑張ってください?」


 いつからそこにいたのか分からないが、俺たちの横で複雑そうな表情をしながら佇んでいた。

 ………置いてけぼりにしてごめんよ、ミリー。


初のバトル。

……要練習ですね。

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