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物語の裏側で  作者: ティラナ
第二章
53/105

第48話 帰還

 




 〜レオ視点〜





 日は西に傾いており、だいだい色の光が俺たちの影を遠くまで伸ばしている。


 行きとは違い何事もなく、我が家に到着をした。

 いや、ソフィリアさんもいたわけだから、“ナニ”かが起こるはずもないのだけれど。


 街はおよそ2週間前となんら変わることなく、いつも通りの景色だ。 ただ、王都の喧騒に晒されてしまったからなのか、安心できる落ち着きを感じる。

 そんな街の中を顔見知りの人に挨拶をしながら歩き、見慣れた我が家の前で立ち止まった。


「たった2週間なのに、なんだか、とても久しぶりな感じがしますね」


 ミリーの言う通り、俺にとってもなかなかに充実した旅だったからなぁ。

 一人の時は黙々と歩くだけだったのが、かなり賑やかになったし。 濃い時間だった。

 まぁ、それはミリーが来てからはずっとか。


「ここが、ミリーのいま住んでいる家か……」


 ミリーの隣に立っているソフィリアさんが感心したように言う。

 ウチは店舗を兼ねているということもあり、建物の大きさは普通の民家と比べても2倍とまではいかなくても1.5倍くらいはあるだろう。

 日本のワンルームマンションとは比べるまでもない。


「素敵なところでしょう?」


「まぁ、悪くはないな。 ただ、住居部分が二階だけということだが、そうすると少し狭くないか?」


「うぐ……」


 思わぬ指摘に苦虫を噛み潰したような表情になってしまう。 変な声も漏れた。

 実は住居部分の大きさだとウチはそんなに広くない。

 物置部屋と書庫に一部屋づつ使ってしまっているから、実質的な居住スペースは一部屋分しかない。

 そこで寝食を行っているわけだ。

 ミリーのことを考えればせめてミリーのための部屋を設けたいところなのだが、物置部屋も書庫も潰す訳にはいかないし。


「それでも生活をするのには困りませんよ? むしろレオ様を近くに感じることができて幸せです」


 苦悩している俺の横で、ありがたいことを言ってくれる。


「しかし、ミリーと結婚をしたのならばやはりもう少し立派な家にだな。 これから人数が増えたら不便だろうに」


「ふ、増えたら……」


 何故か頬を赤らめながらちらっと俺の方を見るミリー。

 濃蒼の瞳と一瞬だけ目があったが、慌ててすぐに逸らされてしまった。

 うん……?


「あ、い、いや、待て。 いまのは決してそう言う意味ではなくてだな! その、なんだ……。 えっと、だな……」


 ……あ、そういうことね。


『人数が増える可能性を懸念』

  ↓

『家族が増える可能性を懸念』

  ↓

『子供ができることを視野に入れる』

  ↓

『子供を作るのを容認』


 という論法が展開されていたようだ。

 すこーし話が飛躍しているような気がしなくもないが、ミリーとしてはそういう風に受け取ったのだろう。


 でもなぁ……。

 変な話、家族が増えるのも時間の問題だと思うんだよ。

 いくらミリーの母方の家系が子供ができにくいとは言っても、全く出来ない体質わけではないはずだし、避妊もしてないし、頻度も多いし。

 ……既に新しい命が宿っていたりしないよね?



「さ、さて、そろそろ時間も遅くなるわけだけど、ソフィリアさんは今日の宿はどうするの? ウチも頑張ればもう一人くらいなら泊まれないこともないと思うけど」


 なんか甘いような、気まずいような妙な空気が流れ始めたから話題を変えることにする。

 遅かれ早かれしなければいけない話だったからね。


「いや、私は宿屋を使わせてもらう」


「そっか。 宿屋の場所はわかる? よかったら案内するけど」


 この街に来るのは初めてというわけではないらしいが、念のために聞いてみる。

 まぁ、宿屋と言っても何軒かあるから、適当に歩いていても夜までにはどこかしらにたどり着くだろうが。


「ここに来る途中で通ったところだろう? 大丈夫だ」


「そっか。 それじゃあ、また明日ね」


「おやすみなさい、ソフィお姉様」


「あぁ、おやすみ、ミリー。 その、レオナルドも」


 俺がおまけに聞こえるのは気のせい?

 いや、まぁ、いいんだけどさ。


 ちょっとだけやさぐれながら、リアカーに積まれた本を店の中に運び入れ始めた。

 ある意味、買った本を並べて整理する作業が一番ハードかもしれないな。

 それに、ジャックの病気のこともミリーにしっかり話さないと。





 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





 〜ソフィリア視点〜




 目的の宿屋に到着し、その敷居をまたぐ。

 この宿屋には初めて泊まるが、ミリーのお勧めだということだから泊まってみることにする。

 しばらくの間はこの宿に世話になるのもいいが、できるだけ速やかに定住できる場所を確保しなければいけないな。

 幸いなことに資金は潤沢にあるし、ミリーの住む家は街の中心からは少し外れている。 運が良ければ近くに空き家が見つかるかもしれないし、たとえなくとも職人に頼んで造らせればいいだろう。

 そうなったら、金と時間はかかるがやむを得まい。


「いらっしゃ〜い」


 店主が見当たらなかったから、入り口のあたりで考え事をしていると、食事処も兼ねているのであろう店内のカウンターの奥の方から声が聞こえた。

 厨房があると思われるそこから聞こえた声は、ここの店主か、もしくは従業員のものだろう。

 しかし、この声は何処かで聞いたことがあるような……。


「なっ……!?」


 奥からやって来たのは、王都で世話になった宿屋のナーシサス殿だった。

 夜遅くになってからだったにも関わらず部屋を用意してくれ、ミリーにも好意的だったようで色々とよくしてくれた人だ。

 あの時は本当に世話になった。

 しかし、何故そのナーシサス殿がここにいるのだ。


「あらあらどうしたんだい、お嬢ちゃん。 人の顔を見るなり固まっちゃったりなんかして」


「あ、貴女は王都にいた……」


 まさか、私たちが王都を出た後で馬車でこの街に向かったのだろうか。

 馬車であれば最短で1日で着くことができる。 長く見積もっても2日だから、何処かで追い抜かれた可能性が高い。


「え? あぁ、ナーシサス姉さんのことね。 似てるってよく言われるのよ。 私はジャスミンって言うのよ、よろしくね」


 は?

 姉さん?

 まさか、姉妹なのか……?

 同一人物ではなく……?


 いや、確かに双子だとしたらここまで瓜二つなのも納得だ。

 並べて比較したわけではないから、余計に似ているように見えるのかもしれないな。

 なんだ、そう考えればさほど驚くべきことではないな。




 ────二人が双子ではないと知った時、私はさらなる驚きを覚えた。

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