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物語の裏側で  作者: ティラナ
第二章
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第47話 帰り道

 



 〜レオ視点〜






 2日目はミリーとソフィリアさんには宿に残ってもらい、俺一人で食料などを買い揃えた。

 ソフィリアさんもミリーについて来る気満々だったので、本人の方でも用意はしてあるだろうが、念のため二人分よりも多くの食料を買っておいた。



「さて、それじゃあそろそろ出発しようか」


 自分達の部屋で早めに朝食を摂り終え、荷物の確認をしてから、ミリーとソフィリアさんに声をかける。

 ソフィリアさんも俺たちと同様に部屋で食事を摂り、自分の出発の準備を終えてすぐにこの部屋にやって来ている。


 時刻は朝の7時半。

 この世界では朝飯を食べるには少しばかり遅い時間だ。

 他の宿泊客たちも既に食事を終え、部屋で出発の準備をしたり、ゆっくりと休んでいる頃だろう。

 俺一人の時はもう少し遅くに出ていたのだが、今回は色々な事情があって早めに出ることにした。


「そうですね。 あまり遅いと道が混んでしまいますし」


「そういえばソフィリアさん。 他の使用人の方たちへの連絡はいいの?」


 たしか、他にもミリーを探している使用人がいるって言っていた気がするんだけど。

 ソフィリアさんの話を聞く限り、かなり熱心に探しているようだが、今のところミリーに会いに来る人はいない。

 いや、会いに来てしまって下手に騒ぎになったら周りの人にミリーのことを気づかれてしまうかもしれないから、来ない分にはいいんだけど。


「あぁ。 一昨日、ジャックの散歩をしている間に数人と連絡を取ってある。 『お嬢様の無事を確認。 一般家庭で平穏な生活を送っている模様。 すぐにお嬢様の元に戻り、護衛を兼ねて行動をともにする』とな。 念のためにレオナルドの名前と、どこに住んでいるのかは伏せておいた」


「そっか、それならいいんだ。 仕事が早いんだね」


 ソフィリアさんはなんだかんだいいつつも、冷静ならば頭の回転は悪くないらしい。 ……って、ちょっと上から目線かな。

 とにかく、わかったことをペラペラと話していないのは正しい判断だと思う。


 壁に耳あり障子に目ありという言葉があるように────この世界には障子がないから、もちろん存在しないが────どこで誰が聞いているのかわからないのだ。

 使用人仲間から、ミリーの父親である宰相様の耳に入る分には、まだなんとかなるかもしれない。 しかし、もしも何かの間違いで、王太子や男爵令嬢派閥の人も耳に入ってしまえば、王都の出入りを制限されかねない。

 そうされたら、ミリーが見つかるのも時間の問題だろう。


 現在どこにいるのかを言わなかったのもいい。

 すぐにお嬢様の元に戻ると言っているものの、それが王都の中なのか、それとも王都近郊なのか、はたまた遠くの村なのかもわからない。

 それこそソフィリアさんの後をつけていれば可能かもしれないが、そういった動きをした人は見られないし、そんな危険性のある人物にはソフィリアさんのことだから教えていないだろう。

 俺が知らないだけで、他にも幾つかの対策を講じているのかもしれないし。


「流石はソフィお姉様ですね」


「家柄だけで側付きの侍女に選ばれたわけではないからな」


 あ、いまちょっとドヤ顔した。

 子供っぽい、お茶目な一面もあるらしい。

 まぁ、大の犬好きだしなぁ。

 いまも真面目な話をしつつも、ちゃっかりジャックを抱きかかえてるし。

 ジャックも嬉しそうだね。



「あら、レオちゃんにミリーちゃん、それからソフィリアちゃんだったかしら。 もう出るのかしら?」


 荷物を持って階段を降りると、カウンターで頬杖を付くナーシサスさんの姿があった。 お客さんはいないらしい。

 それにしても、ジャスミンさんと仕草までそっくりだな。


 クーティンさんの姿が見えないところを見るとまだ寝ているのかもしれない。

 夜遅くまで仕事をしていたのだろうし、ゆっくり休んで欲しい。


「えぇ、道が混み過ぎないうちに門を出たいので」


 王都に入る時は、ある程度混んでいた方がイイと言ったが、逆に混み過ぎてたらそれはそれで問題がある。 もし人にぶつかりでもしてミリーの帽子が取れて顔が見られたらマズイ。

 何事もほどほどが一番なのだ。


「ごめんなさいね、クーちゃんはまだ寝てるのよ。 次に会えるのはまた三ヶ月後くらいかしら」


「そうですね。 その時はまたお世話になります。 それじゃあ、もう出ますね。 ありがとうございました」


「お世話になりました」


「世話になった」


「またいらっしゃいね」


 クーティンさんに挨拶が出来ないのは残念だが、待っているわけにもいかないからしっかりと挨拶をしてから宿を出る。





 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





 どこまでも広がっているような草原をリアカーを引っ張って歩く。

 草の上を走る風が心地いい。

 あれだね。

 これは男二人で並んで横になって夢を語り合うやつだ。

 青春漫画のワンシーン。


「本当に馬車も使わずに行くのだな。 ミリーは辛くはないか?」


「レオ様もしっかりと気遣ってくださるので大丈夫ですよ。 それに険しい道のりではありませんし」


「それよりソフィリアさんこそ荷物重いんじゃない? 荷車の上に乗っけちゃってもいいよ」


「いや、それはいくら何でも申し訳がない。 これくらいなら自分で」


「俺はなにも困らないから気にしなくていいよ。 これだけ重ければ今さら少し増えたところで大差ないから。 それにいざという時に疲れて動けなかったらマズイでしょ?」


 たしか、慣性の法則かなんかのおかげで、一度動き出してしまえば後は別に重さはあんまり関係ない。

 あ、ただ、止まる時は徐々にスピードを落とさないとうまく止まれないけど。

 まぁ、それはそれとして。


「それは、そうだが……」


 俺ことを警戒しているというわけではないらしいが、逆に初日の後ろめたさからか、そういうところには抵抗があるらしい。 さっきもリアカーは私が、って主張してたし。

 男嫌いというわけでもなさそうだから、やはり俺との間にどうしても壁があるようだ。 うーん、俺からしてみたら少しイラっとしたくらいでそこまで気にしてないんだけどな。

 まぁ、ラノベの主人公みたいにハーレムを築こうとは思わないけど、ミリーの姉のような人なわけだし、できれば仲良くなりたいんだよなぁ。


「ソフィお姉様。 レオ様のお言葉に甘えた方がいいと思いますよ? 理にも叶っていらっしゃいますし」


「う……」


 ソフィリアさんは、ミリーにも言われて凛々しい顔を歪ませる。

 頭ではわかっているけど、気持ちとしては同意しかねるのだろう。


「わ、わかった。 その、お言葉に甘えさせてもらおう……。 ありがとうな。 このご恩はいつか……」


「別に構わないから」


 恩を売ろうなんてそこまで狡い考え方してないよ。

 本当に俺からしたら大差ないから、だったら乗せた方がいいんじゃないかなって思っただけ。


「ところでレオ様、行きも気になったのですが、どうして迷わず目的地に向かうことができるのでしょうか? 道らしい道はありませんし、轍のようなものはありますが、今度は逆に数が多すぎてどれが街に向かうものだかわからないのですが……」


「え? ……あぁ。 確かに慣れてないとわかりにくいかもね」


 場の雰囲気を変えようとしてくれたのか、ミリーがそんな疑問を口にした。

 空気の読めるお嫁さん、それがミリーです。


「山の見える位置とかで大体の方角が分かるんだよ。 あとは川とか街の位置とかで微調整ができるし、そこまでわかっていれば正しい轍を見極められるからね」


 この世界にもコンパス───小型の羅針盤のようなものはあるけど、俺は買っていない。

 少し値が張るというのも原因の一つではあるけれど、どうして買わないのかと言われれば、必要がないからなんだよね。

 始めて俺の出身地の村から街まで移動した時は行商の人と一緒だったし、街から王都まではおじいさんと一緒だった。

 あとは前に通った道を思い出しながら歩けば大体は迷うことなく目的地に辿り着ける。


「意外と難しいことをしているのですね。 ……他の方も同じようにしているのでしょうか?」


「うーん、どうなんだろ。 あんまり聞いたこともないからなぁ。 だけど、たぶん似たようなもんだと思うよ。 羅針盤を使っている人もいるとは思うけど」


「特殊な訓練を積んだ熟練の御者ならば、目印がなくとも目的地まで着くことができると耳にしたことがあるぞ」


 横からソフィリアさんが補足説明をしてくれる。

 仕事柄、そういった職業の人と話す機会もあったのかもしれない。


「へぇ〜」


「すごいですね」


 ハトみたいな感じだろうか……?


「レオ様も、できるのですか?」


「……さすがに無理」


 この子は俺のことを超能力者と勘違いしてないだろうか?

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