表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
物語の裏側で  作者: ティラナ
第二章
49/105

第44話 おや? ソフィリアさんのようすが



 〜レオ視点〜





 二人よりも先に風呂から上がった俺は、ようやく眠りから覚めたジャックにエサをやっていた。 ドッグフードなんてものはこの世界にはないから、小さく千切ったビーフジャーキーモドキやドライフルーツなどがメインだ。


 余談だが、ジャックは基本的に昼間に行動をするタイプの動物だから、さっき昼寝をしたから夜は寝ないということはない……はずだ。 いや、俺、前世ですら犬飼ったことないから詳しくはわかんないんだよね。 あくまでも知識だけ。


「にしても、お前よく食べるな」


「ワン!」


「元気だね〜」


 まさか昼寝したから夜は寝なくても大丈夫なパターンじゃないよね?

 嫌だよ? 徹夜とか。

 明日は本の仕入れに行かないといけないから、今日みたいに昼寝をするわけにもいかないし。


「ケフ、ケフッ……」


 食べ物を喉に詰まらせたのか、小さく咳き込み出すジャック。


「………? 大丈夫?」


「ケフッ……」


 ……もしかして、具合でも悪いんだろうか?


「本の買い出しの間ジャックどうしよう……」


 卸問屋の中にペットを持ち込むのは流石にマナー違反だし、かと言ってこの部屋に残して行くのも問題だ。

 残る手だとするとミリーに任せることだが、一人では何かあったときに対処しづらい。

 ミリーはしっかりしているし外套を被れば顔はそうそう見られないだろうが、王都を追放された手前、かなりリスキーなことをしているのは否めないからな。


 一人、考え事をしているとドアがコンコンとノックされた。


『ただいま戻りました、レオ様』


 鈴を転がしたような、可愛らしくも清らかなミリーの声だ。 暗い考えを一瞬にして吹き飛ばしてくれるみたいである。


「おかえりなさい、ミリー。 ソフィリアさんもおかえりなさい」


 ドアを開けてミリーを迎える。 その斜め後ろ……じゃなくて横にいたソフィリアさんも迎える。


「ただいまです」


「あ、あぁ」


『ワン!』


 うんうん。

 ジャックも元気良くお出迎えだね。


「あ、目が覚めたのですね。 おはようございます、ジャック」


「か、可愛いな……」


 ソフィリアさんの目がハートになりかけてる。

 そういえば、さっき寝姿を見たときも一瞬だけ表情が緩んでたな。


「ソフィお姉様は可愛いものが好きですものね。 抱っこしてみますか」


 ジャックを抱き上げたミリーが、脇の下に手を入れて差し出す。


「いいのか!?」


「えぇ。 人懐っこくて、とてもいい子ですよ」


 おずおずとジャックを受け取り、まるで少女のように目を輝かせるソフィリアさん。

 年齢的には二十歳前後くらいだし、日本なら友達と猫カフェとかに行っててもおかしくない感じだもんな。


 そんなデレデレなソフィリアさんとミリーを部屋の中に入れる。


「そういえば、ソフィリアさんは宿は大丈夫なの?」


 時間も時間だからいまから探すのは大変だろう。

 最悪、ミリーとソフィリアさんにはベッドで寝てもらって、俺は野営用の寝袋モドキを持って来て床で寝るか。


「問題ない。 ここの宿に空きがあったようだから一部屋押さえておいた」


「いつの間に……」


 確かずっとミリーの後ろにいたよな。


「み、みみ、み、ミリーと貴様……レオナルド様が風呂の用意をしていたときだ」


 ……おや?

 ソフィリアさんのようすが。


「お嬢様呼びはやめたんだ?」


 さっきまでは、『ミリーお嬢様』だったのが『ミリー』になっている。 ついでに俺の呼び名も。

 ……そういえば、ミリーもソフィリアさんのことを『ソフィお姉様』って呼んでたな。

 外見や雰囲気はイマイチ似ていないが、ミリーにとっては姉のような存在だったのかもしれないな。


「あ、あ、あぁ、ミリーがどうしてもと言うからな」


「もうお嬢様じゃありませんからね」


「そっか」


 そういうミリーの表情はなんだかスッキリしていて、また一つ前に進めたようだ。

 何より、屈託のない笑みを浮かべている様子を見ていると、こっちまで嬉しくなるな。


「よかったね」


「はい ♪ 」


 笑顔のミリーの頭を撫でる。

 ミリーは可愛いなぁ。


「さて、ソフィお姉様?」


 ミリーがチラリとソフィリアさんの方を見る。

 な、なんか怖いんだけど……?


 そう思っていたら、ジャックを手放したソフィリアさんが地面に膝をついた。


「先ほどは、誠に申し訳ありませんでした」


 え?


 は?


 彼女の姿勢はまさに土下座。

 両手を地面について額を地面に付けている。


「ミリーの恩人だということも忘れて、濁った目でレオナルド様のことを見てしまっていました。 しかも、ミリーにそれを指摘されるまで、自分では全く気が付きませんでした。 全て水に流して欲しいなんて、図々しいことを言うつもりはありません。 ですがせめて、謝罪だけはさせてください」


「お、おぅ……」


 ガチな謝罪や。


「私の身勝手な言動で不愉快な思いをさせてしまい、本当に申し訳ありませんでした」


「いや、そこまでガチで来られると……」


「レオ様、遠慮などしないで要求などはいまのうちに突きつけておくべきです。 愛人は私が許しませんが、レオ様にはソフィお姉様に罰を与える権利があります」


「いや、ないから」


 罰とかそんな大層なことにするつもりないよ。

 珍しくミリーが物騒なことを言っているのは、それだけ俺のことを思ってくれているということだろうけど。


「まぁ、なんていうか。 ソフィリアさんのさっきのには少し頭に来たけど、ここまでじゃないから。 罰とかも別にいいし」


「レオ様、本当に遠慮などは……」


「本当にしてないよ。 この人からしたら何処の馬の骨とも知らない男にミリーを取られたんだから、多少怒るのは仕方ないと思うし。 だからこの話はこれでおしまい!」


「ありがとうございます。 このご恩はご迷惑でなければ必ず何らかの形でお返しさせていただきたいと思います」


「ま、まぁ、それくらいなら。 あと、口調もさっきまでのでいいよ。 呼び方も貴様でも構わないし」


「しかし」


「ミリーに敬語を使わないのに、俺にだけ敬語って言うのは不自然でしょう?」


「わかっ、た……」


 俺の説得をどうにか受け入れてくれる。

 うん、流石にガッチガチの敬語を日常から使われるとか嫌だからな。



 さて、こんな気まずい雰囲気になってしまったわけだけど……。


 言わなきゃだよな〜。

 気マズイよな〜。

 ヤダな〜。


「……ところでさ」


「なんでしょう?」


「ど、どうかした……のか?」


「いや、言いにくいんだけど。 風呂では静かにね? 大きな声を出すと、男湯とかにも声が聞こえるから」


「「………え?」」


 俺の言葉にさっきまでフヤフヤとさせていた表情を固まらせる二人。

 しばしの沈黙の後、みるみる顔を赤くしながらミリーが口を開いた。


「き、きき、聞こえてたのですか?!」


「まぁ、正確にはミリーの声は聞こえてなかったんだけどね」


「ほぅ……。 よかったです」


 胸に手を当てて小さく息を吐くミリー。

 なんだろう、ジャック以上に小動物っぽいこの可愛い生き物は。


「ちょ、ちょっと待て! ということは───」


「……うん。 まぁ、なんて言うか、ソフィリアさんの声はすごく聞こえて来た」


「────!?」


「も、もう少し何かなかったのか。 早い段階で知らせてくれていれば……」


「いや、風呂場に入ったときには既に盛り上がってたみたいで、こっちの声が届かなかったから……。 ま、まぁ、廊下とかには聞こえてなかったからセーフだと思うよ? いくらなんでも、上の階にも聞こえてないと思うから」


「そ、そういう問題ではなくてだな……」


「ごめんなさい、ソフィお姉様。 私が調子に乗って必要以上にお姉様にちょっかいを出したから……」


「ま、まぁ、とりあえず、次回からは気を付けてね? 他に人がいたらマズイから」


 今回は男風呂に俺しかいなかったからいいものの、他に人がいたらヤバいことになっていただろう。

 ミリーのことがバレる危険性もそうだが、覗き魔が大量発生しかねない。

 ………俺はやってないよ?


「はい。 わかりました……。 ありがとうございます、レオ様」


 恥ずかしさのせいなのか、顔を真っ赤にして口をパクパクとさせているソフィリアさん。 けれど、頭を垂れて申し訳なさそうに謝るミリーの様子に、ソフィリアさんの興奮も少し収まったらしい。

 口調こそ同じだけど、さっきまでの高圧的な感じとは違って、不器用な人って印象だ。ミリーのことを思うあまり暴走してしまったのかもしれない。


「あと、あまり話を長引かせると、余計に恥ずかしい思いをするだけだと思いますよ? ここはレオ様のお優しさに甘えて、今回のことは忘れた方がいいでしょう」


「それは……。 まぁ……そうだが」


「よし、それじゃあ、これでおしまい! もう夜も遅いから早く寝よう? あ、二人は明日はどうする? 俺は本の卸問屋に行くけど」


 ソフィリアさんが冷静になって来たから、ポンと手を打って話を切り替える。

 さっきまでこのことで悩んでたんだもんな。


「わ、私はレオ様にお供します」


「では、私もミリーのお供をしよう。 この子に散歩も必要だろうしな」


 ジャックの面倒はソフィリアさんが見てくれるようだ。

 基本はミリーのお供らしいから、店の前あたりまではジャックと一緒に来ることになるのだろう。


「了解。 それじゃあ、朝9時に宿の前で待ち合わせでいいかな?」

 

 ちょうどそのくらいの時間に店が開いたと思うし、朝飯を食って身支度をする余裕も十分にあるしな。

 普段はかなり早起きをしているし、最近は旅で疲れていたから朝は遅くまで寝かせてもらおう。


「わかった。 ……ん? レオナルド、ミリーと同じ部屋で寝るのか!? いや、そもそも同じベッドで寝るのか!?」


「もちろんです ♪ 」


「そ、そうだよな。 夫婦なんだもんな。 そう言うこともあるよな、うん……。 ミリーが、そうか……。 うん……」


「あとさ、ソフィリアさん。 少し話があるんだけど、いいかな?」


「な、なんだ!? の、のの、望むならこの体なら差し出しても……!」


「……そうじゃないから」


最近、本気で執筆の時間が取れないです(^_^;)

すでにストックを食いつぶしている状態。


これから更に忙しくなるかと思うと……。

うっ、目眩が(泣)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ