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物語の裏側で  作者: ティラナ
第二章
48/105

第43話 ブクブクブクブク……

今回と次回でソフィリアさん改心なお話。


 



 〜ミリー視点〜





「それでは、行って参ります、レオ様」


 荷物の中から取り出した、タオルや石鹸などのお風呂用品を持ってお風呂に向かいます。 今はソフィから借りた、室内で被っていてもおかしくない、おしゃれだけれど適度に顔が隠れる帽子を被っています。

 部屋にやって来たときは荷物を持っていなかったソフィですが、どこからともなく持って来た大きな旅行カバンから色々なものを取り出しました。 この帽子もその一つです。

 ソフィ曰く、変装用だそうです。


「いってらっしゃい。 気を付けてね」


「はい。 行きましょう、ソフィ」


「かしこまりました」


 レオ様に手を振ってから、後ろに控えているソフィに声をかけます。 あまり声を出すと迷惑になりますし、顔を見られてはいけないので静かにお部屋を出ることになっています。


 基本的に宿の中は一本道なので前後にさえ気を付けていれば問題ありません。

 それにソフィも周囲を警戒してくれていますから安心です。


「やっぱり思うのですが、昔のように敬語はなしにしてください」


 ある程度の安全が確認できたので本題に入る前に、小手調べというような話題を振りました。


「それはいけません。 幼い頃はわかっておりませんでしたが、お嬢様と私は主と侍女なのです。 昔のように振る舞うわけにはいきません」


 すでに定型句となった言葉を口にするソフィです。

 ソフィは真面目で、それがソフィのいいところでもあるのですが、もう少しくらい融通を効かせてくれてもいいと思います。

 だけど、今この話を持ちかけたのにはもちろん訳があります。


「私はもうお嬢様ではないですよ。 今は『レオ様の奥さん』です」


 今までは先ほどのように言われては引き下がらざるを得ませんでしたが、今はそうではないのです。

 私はもう公爵家のお嬢様ではありません。

 だからお嬢様と呼ばれるのは、明らかにおかしなことになってしまいます。


 私はレオ様の奥さん。

 レオ様は私の旦那様なのです。



「それはそうですが……」


「それにソフィは子爵家の娘でしょう? 今となっては私よりも位が上なのだから、敬語を使うのは不自然ですよ」


 そう、ソフィは子爵家の四女なのです。

 四女と言うと特別に多いと思われるかもしれませんが、貴族の家において子どもが多いことは珍しいことではありません。


 むしろうちの家が特殊だったくらいで、養えるのであれば、他家との結びつきを強めるために数は多い方が都合がいいのです。

 結び付きを強くすると言うとまずは結婚が思いつくでしょう。 しかし、下位貴族が上位貴族と結び付きを作りたい場合は、使用人として雇い入れてもらうというものがあります。

 幼い頃からその家に住み込みで働かせて、側付きの侍女にするというのが目的です。 そうすれば血縁関係とまではいかなくても、かなり深い関係が得られますからね。

 ソフィもそのようなうちの一人で、ソフィの実家の子爵家は子爵位の中では平均以上の力を持っています。 もしも私が王妃になっていたら、もしかしたら更に力を付けて、伯爵家になっていたかもしれませんね。

 そのような家同士の様々な思惑が関わっているわけですが、私にとってソフィはソフィです。


 だけど、いまの彼女の心は、深く病んでしまっています。 それは私の目から見ても明らかで、このままではきっと誰も幸せになれません。


「ですが、私にとってミリーお嬢様はミリーお嬢様です。 たとえ何があろうとも、私にとって仕えるべき主はミリーお嬢様だけです」


 ソフィのその言葉に、私の中で最後の安全装置が外されたような気がしました。


「私ね、少し───いいえ、とても怒っているの」


「……え?」


 私の突然の言葉にソフィが歩みを止めます。

 その表情には驚きがにじみ出ていて、本当に気がついていなかったようです。 普段のソフィなら私の顔色にも、自分の言動にも気が付いて当然でしょうに、やはり冷静さを大きく欠いているようです。


「貴女だって冷静に考えれば、その理由くらい気がつくしょう? 自分がレオ様にしたことがどれだけ失礼で恥知らずなことか」


 彼女の言動には目に余るものがあります。

 レオ様はなにもおっしゃいませんでしたけど、非常識すぎます。 ソフィは結婚の件で頭から抜け落ちているのかもしれませんが、レオ様は私を救ってくださったのです。


「レオ様は私の命の恩人で、とても素晴らしい方です。 そして、私はレオ様のことを愛しています。 貴女がなんと言おうと、その気持ちは変わりません。 レオ様のことを悪く言わないで。 レオ様のことをこれ以上悪く言うなら────ソフィだって許しません」


 自分でもびっくりするくらいに冷たい声。


 私本人ですら驚いているのですから、ソフィは先ほどにも増して驚いているようです。

 その様子に私の頭は逆に冷静さを取り戻していきます。


「はぁ……。 ごめんなさい、少しカッとなってしまいましたね。 貴女が私のことを考えてくれているのはわかっているつもりです。 この短い間に貴女がどれだけ苦しんで、いまどれだけ喜んでくれているのかも。 だけど、いまの貴女は少し暴走している気がします」


 私に対する罪悪感と、私に会えたことの喜びで感情の制御ができていないのでしょう。 真っ直ぐすぎる彼女のことですから、このひと月近く自分のことを責め続けたのだと思います。 それで疲弊し切って心が壊れかけていたところで、私と出会い暴走しているのでしょう。

 私もレオ様のことに関しては人のことを言えませんが。


「私はもうお嬢様じゃありません。 もうお嬢様には戻れませんし、戻るつもりもありません。 貴女が望むような、屋敷を追い出される前の関係はもうないんです。 私の居場所はレオ様の隣。 そこが私の帰る場所です」


 ソフィは以前の生活を取り戻したいのでしょう。

 私が追い出される前の、平凡だけど平和だった生活を。 お茶を飲みながらお話をした、あの生活を。

 昔の私に、戻って欲しいのでしょう。


「ねぇ、ソフィ。 貴方にとって私は “お嬢様” でしかないの?」


 昔はお嬢様とか、侍女とか、そういう(しがらみ)もなく遊んでいました。 私がお嬢様でなくなった今、再びそういう頃に戻れると思うのです。

 いえ、戻るのではなく、新たに進むのです。 これからの新しい関係のために。


 それとも、ソフィにとって私はただのお嬢様で、公爵家との関係を繋ぐものでしかないのでしょうか。

 彼女の求めている昔の私以外は、私ではないのでしょうか。


「私は、お嬢様じゃない今の私も見て欲しいです。 ……お願いできるでしょうか?」


 ソフィならそんなことはないと考えながらも、やはりどうしても不安になります。

 しかしソフィは、そんな私を安心させるように大きく頷いてくれました。


「も、もちろんです! 私は、考えを改めなければありませんね。 私が大切に思っているのは“ミリーお嬢様”ではありません。 ……すまなかった」


 その返事に嬉しくなって、思わず声が弾みます。

 口調も戻してくれたあたり、私の意図を冷静にしっかりと汲み取ってくれたようです。


「はい。 ソフィお姉様」


 あぁ。 ソフィお姉様をソフィお姉様と呼べて、帰ればレオ様がいて。

 私、とても幸せです。


 あ、でも、後でソフィにはレオ様にしっかりと謝っていただかないといけませんね。 もちろん誠心誠意、心の篭った形で。



 そのまま黒い考え事をしているとお風呂にあっという間に着きました。 食堂からカウンターの横を抜けた先に女性用のお風呂があります。

 私を手で制して、ソフィお姉様が中の様子を確認してくれます。


「よかった。 どうやら先客はいないようだな。 安心して入っていいぞ、ミリー」


「ありがとうございます、ソフィお姉様」


 嬉しいので、ついついソフィお姉様の名前を呼んでしまいます。 お姉さまの口調はまだ少しぎこちないですが、そのうち慣れてくれると嬉しいです。


 お風呂はお家のものよりも広く、5人以上でも窮屈することなく十分に身体を洗うことができそうです。

 お湯は湯船に貯めてあるものを桶で汲んで使うようで、その湯船には温められたお湯が流れ込んでいます。

 おそらく、大きな(カマド)のようなところで水を熱して、それが少しずつ流れてくることで常にお風呂の温度と水量を一定に保つようにされているのでしょう。 こういった宿のお風呂を使うのは初めてなので新鮮で面白いです。


「すまない、ミリー。 石鹸を貸してくれないか? 部屋に置いて来てしまったようなんだ」


「もちろんです、ソフィお姉様。 それではついでに私が身体を洗って差し上げますね」


 自分の身体を洗っていたタオルに石鹸を擦り付けて泡を立てて後ろからソフィお姉様の身体を洗います。

 お姉様の身体は日頃から鍛えているからか、しっかりと引き締まっています。 しかし、レオ様のように筋肉があってたくましいという感じではなく、女性的な柔らかさもしっかりとあります。


「え? あっ、ちょ」


 後ろから手を回して前の方も洗います。 手が届きにくいので、身体を密着させてしまうことになります。


「ソフィお姉様、こんなに胸が大きいのですね。 知りませんでした」


 私も大きい方だ思っていましたが、ソフィお姉様は更に大きいです。 これだけの大きさがあればレオ様はもっと喜んでくださるでしょうか。

 殿方は胸が大きい方が喜ぶと以前聞いたことがあります。 レオ様はどうなのでしょうか。

 あ、でも、小さい方が好きというからもいらっしゃるそうですけど。 もし、そういう方だったとしたらどうしましょう……。


「み、ミリー!? 身体くらい自分で」


「いいじゃないですか。 いつもは私が洗ってもらってばかりなのでしたから」


 幼い頃はまだ小さくて自分ではうまく洗えなかった私をお姉様が洗ってくれていましたし、大きくなってからは主従関係となってしまっていたので私がお姉様を洗うことはありませんでした。

 たまには逆の立場というのもいいものですね。


「そ、それはそうですが……!」


 慌てた様子のソフィお姉様が振り返りながらそう言います。


「……敬語は、ダメです」


 私は頬を膨らませながら、タオルを持っていない手でお姉様の胸に手を伸ばします。


「きゃう!?」


「ふふふ。 どこを触られると反応してしまうのかは、自分の身でタップリと経験していますから」


 レオ様にときに優しく、ときに激しく責められた私は、どこをどうされると反応してしまうのかはしっかりと身に付いています。

 私がされたことを、逆にソフィお姉様にやってしまうのです。 レオ様に失礼なことをした分、私からもお仕置きをします。


 時々そんなお仕置きを交えながら身体を洗い終えました。


「───これでよし。 はい、綺麗になりましたよ。 ソフィお姉様 」


「……はぁ、はぁ。 んぅ、ありが、とう」


 お姉様は呼吸を荒げていて、意識が少し朦朧としているようです。

 いつも凛々しいお姉様とは違って何故だか嬉しいです。


「それではお風呂に入りましょうか」


「あ、あぁ……」


 ゆっくりと立ち上がるお姉様に手を貸しつつ、大きな湯船に向かいました。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 〜レオ視点〜




 ミリーたちを送り出してから、俺もすぐに風呂に向かった。

 時間が時間だからなのか、男湯には俺一人しかいない。


 そんな状況だから、久々の風呂で、旅で疲れた身体を静かにゆっくりと癒そうと思ったのだが……。



『きゃっ!? ミリー、そこは……!』


『あ、あぅ、やめっ』


『はぁんっ』



 隣からそんな嬌声が聞こえてくる。

 男湯と女湯は換気のために上が繋がっていて、人は通れないものの大きな声を出せば十分に聞こえるのだ。


 ぶくぶくぶくぶく……


 息子が起き上がりそうなのを必死に堪えながら、湯船に口を付けてブクブクと泡を立てる。


『んぁあっ』


『きゃっ、はぅっ』


 そ、そうだ、素数を数えよう。


 1………。


 ………。


 ……ヤベェ、さっそくミスった。

 もう一度。


 2、3、5、7、11、13、17、19───401……


『はっ、ぅぅうん!』


 ………。

 なんかひときわ大きな声が聞こえたような気がする。

 さ、さっさと上がろう!

とりあえず、理由説明とミリーの激怒です。

そ、ソフィリアさんも悪い人ではないんですよ……? (ー ー;)

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