第34話 酔っ払っちゃった♡
「───ひとまず、これで大丈夫でしょう」
「クゥ〜ン」
水でしっかりと傷口を洗い、上から包帯を巻くと仔犬は小さく唸り声を上げた。
傷口を洗った時点でびっくりして飛び起きたのだが、まだ逃げたりするほどの体力はないらしい。
というか、なんか既にミリーに懐いてない? この子。
もしかして人間だけじゃなくて動物まで簡単に落とせちゃうの?
ミリー、恐ろしい子……!
いや。 一番初めに、しかも一番深くまで落とされてる俺が言うのもあれだけどさ。
「ご飯は……、これなら大丈夫でしょうか?」
ミリーは仔犬を抱えたまま、荷物の中からドライフルーツを取り出す。
「うん、そうだね。 それなら問題ないと思うよ」
干し肉はこの子には硬いかもしれないし、クッキーでは喉が渇いてしまって食べにくいだろうが、それに対して、甘くて他の二つと比べると微量ながら水分を含んでいるドライフルーツの方がいいだろう。
「クゥ〜ン」
ミリーが小さく千切ったそれを口元に運ぶと、仔犬は躊躇うこともなくそれを口にした。
仔犬を膝の上に乗せて微笑む美少女。 ……とても絵になる光景だ。
「うふふ、とっても可愛らしいです。 しっかりと元気になってくれたらいいのですが」
「あとは祈るしかないね」
「そうですね」
流石に疲れてしまったのか、仔犬はすぐに眠りについた。
その様子を確認してからそっと立ち上がる。
「それじゃあ焚き火の準備をしておくね」
「あの、私も」
仔犬を膝の上から地面に敷いた布の上にそっと降ろしてミリーも立ち上がる。
本当ならそのまま動かないで仔犬の世話をしていてと言おうとしたのだが、既に降ろしてしまった手前、今さらもう一度仔犬を動かしてくれとは言えない。
「うーん、それじゃあご飯の準備をしてもらってもいい?」
それならここからほとんど動かなくてできる。
ミリーも仔犬からはあまり離れたくないだろうから、これが一番いいだろう。
「わかりました。 あ、薪の量があまり多くないのですが」
申し訳なさそうに言う。
まぁ、探している途中で仔犬を見つけて帰ってきてしまったのだから仕方がないだろう。
しかし、もともとそんなにたくさんは必要ないからこれくらいでも事足りるな。
「ん、これだけあれば大丈夫。 少しずつ燃やしていけば十分に足りるよ」
「でしたらいいのですが」
「うん。 ありがとう、ミリー」
ミリーにお礼を言ってから、スコップ片手に土を取り始めた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
明かり取りのための焚き火はパチパチと音を立て、俺たちの周りをぼんやりと照らしてくれている。
女将さんからもらった、気付けにいいと言われた酒を一口だけ煽る。 女将さん曰く『男としての度胸が足りないときに飲むといいわよ』だそうだ。
酒の力を借りると言うのも情けない話だが、量はペットボトルのキャップくらいの量だから本当に気付け程度だ。 酒に弱いわけではないからこれくらいで酔うことはないだろう。
夕食を食べ終えて、そろそろ眠りにつこうかと言うタイミングでミリーに話しかけた。
「あのさ、ミリー。 昼間のことなんだけど」
「……?」
「プロポーズのこと」
「あっ」
「こんなことを聞くのも変だと思うし、昼のことを無駄にするつもりもない。 ただ、あの時はなんて言うか慌てちゃってたから、よく考えてもらってから、改めて確認したいんだ。 ミリーは……俺と結婚をしてくれるっていうことで、いいのかな……?」
昼間は自分からプロポーズしたとはいえ、急なことだったからしっかりと自体を把握できていなかったし、ミリーもよく考えての判断ができていなかったかもしれない。
もちろん俺自身はプロポーズしたことに後悔はないし、そう遠くないうちにプロポーズしようと思っていた。 ただ、あのタイミングというのは予想外だったが。
「はい! もちろんです! むしろそれしか考えられませんし、考えたくないです!」
俺の言葉に一瞬だけ驚いたような表情をしたものの、躊躇う様子も全く見せずにミリーは力強く頷いた。
「そっか。 ────ありがとう」
その返事になんとも言えない嬉しさが込み上げてくる。
さっきはバタバタしてたから感動する暇もなかったからな。
「いえ。 ですが、わざわざ確認してくださらなくても、私がレオ様を拒むということは絶対にありませんので、心配なさらないでください」
「そうだね。 ありがとうミリー」
「こちらこそ、改めてありがとうございます」
やべ、なんかジワっと涙出てきた。
嬉しさのあまり泣くとか出会ったばかりのころのミリーみたいだ。 乙女の涙はともかく、男の涙はちょっとな。
バレないようにさりげなく涙を拭ってから口を開く。
「なんか不思議な感じだよね」
「不思議、ですか?」
「そう。 元々は王妃様になるはずだった人と、田舎村生まれの人が結婚ってさ」
しかも、俺は前世で一回死んでからここに生まれたわけだし。 もともとは別の世界で、今世でも農家の次男と公爵家の長女という、全く別の身分に生まれた俺たちが結婚するなんてシンデレラもビックリの話だ。
まぁ、ミリーからして見たら、身分だけ考えたらシンデレラストーリーとは真逆になってしまうわけだが。
「こういうのを運命というのかもしれませんね。 以前、読んだ本の中に書いてありました」
可愛いことを言ってくれる可愛いミリーが可愛すぎる。
結論、ミリーは可愛い。
「運命、ね……。 それじゃあミリーは俺にとって運命の相手ってわけだ」
ちょっぴり悪戯心が生まれた俺は、ミリーに顔を近付けてわざと不敵な笑みを浮かべながら言う。
「え、あ、そ、そうなりますね」
ビクッと肩を揺らし、反射的に距離を取ろうとするミリーの腰に手を回して抱き寄せる。
「ふふふ。 大好きだよ、ミリー」
「ひゃうっ! れ、レオ様っ!?」
赤く染まった形のいい耳を甘噛みする。
うん、柔らかくて気持ちがいい。
「ふふ、恥ずかしがるミリーも可愛いね」
「うぇっ!? ………んむ!?」
慌てるミリーの唇に自分の唇を押し付ける。
歯列を舌でなぞると中への侵入を許すように、ゆっくりと開かれる。
互いの舌を絡めあいながら、ミリーを味わう。
「……ぷは。 ミリー、大好きだよ」
「ま、まさか酔っていらっしゃるんですか……?」
「うん。 ミリーの魅力に酔ってる」




