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物語の裏側で  作者: ティラナ
第二章
34/105

第31話 お菓子選び?

 




「……これでよし、と」


 店の入り口の扉に、『本を仕入れに行きますので、2週間休業とさせていただきます』という張り紙を貼っておく。

 ただ、常連の人はこの時期に俺が王都に買い出しに行くのを知っているし、近ごろ店に来た人には直接伝えてあるから、突然の休業と驚く人はそういないだろう。


「あの、2週間も休業になさるんですか?」


 一人で張り紙を見ながらうんうんと唸っていると、隣でその様子を見ていたミリーが疑問の声を上げた。

 確かに、貴族の基準で考えるに2週間の休業は長すぎるかも知れない。

 てか、ぶっちゃけ俺の基準からしても長い。 年末年始やお盆休みなんかよりも倍くらいある。

 しかし、2週間でも最短なのだ。


「うん。 前日の今日は準備、往復で10日、向こうで2日、帰ってきたら本の整理と注文された本の配達だね。 道中は野宿になることもあると思うから覚悟しといてね」


 ここから王都までは徒歩だと5日もかかるから、長期休業をせざるを得ないのだ。

 道中には宿場町と呼ぶにはあまりにも小さい、宿屋とちょっとした店があるかないかくらいの集落───と呼ぶのも難しいくらいのものが一箇所ある程度だ。

 地球の、日本の歴史を鑑みるに、あと数百年もしたらその宿場町を中心にそこそこの規模の都市に発展しそうだが、現時点ではまだその様子は見られない。


 一泊はその宿屋でするとして、あと三泊は野宿をしなければならないことになる。 リアカーには本の他にも野営のための簡単な道具や保存の効く食料も積むことになる。


「改めて考えてみると、とても大変なのですね」


「まぁね。 だからこそ利益が出るわけなんだけどね」


 そう簡単に王都と行き来できてしまっては儲からない。

 本の卸問屋は一般客向けの商売はしていないが、それを除いても王都の本屋の方が品揃えが豊富で値段も安く、 そして新しい本を入荷するのも早い。 と、ウチよりも多くの点で上回っているわけだ。

 簡単に行き来できてしまっては、お客さんが皆そっちに流れてしまう。 ……まぁ、行き来が簡単になればウチも値段と入荷時期に関してはカバーできるのだが。


「よし。 それじゃあ買い物に行こうか」


「はい、旅行の準備ですね」


 ……旅行じゃなくて買い出しね?

 いや、ミリーのテンションは完全に新婚旅行みたいな感じだけど。


 気を取り直してから、財布とカバンを手にして買い物に向かう。

 野営の道具は帰りに本を積むことを考えると、基本的に一つのものを二人で共有した方がいいから、今日買うのは保存食くらいだ。


 だから、保存用の食料を扱っている店にやって来た。

 この街は王都に一番近い街の一つというだけのことはあり、王都からこの方面に向かう、もしくは王都に向かう旅人の多くがこの街を通過する。 食料の調達や使えなくなった道具の補充などを行うためだ。

 そんなわけで旅人向けの店もしっかりと充実しているのである。


「これが保存用の食事ですか?」


 首を傾げながら不思議そうに尋ねて来るミリー。 可愛い。


「そう。 案外美味しそうでしょ?」


「はい。 なんだかお菓子みたいです」


 ミリーの言う通り、ここに並んでいる保存食はほとんどお菓子のような外見をしている。

 小麦粉を水で練って焼いてから乾燥させた、クッキーのようなもの。

 果物や野菜を乾燥させた、ドライフルーツや野菜チップスみたいなもの。

 肉や魚を干した、酒のつまみになりそうなもの。 ただ調味料は使っていない、素材の味。

 干したものばかりだが、どれを見てもスーパーのお菓子売り場に売っていそうなものばかりだ。

 この世界にもクッキーやドライフルーツを食べる習慣はあるからお菓子という表現は間違っていない。


「まぁ、似たようなものかもしれないね」


「どれにしましょう」


 目をキラキラとさせながら顎に指を当てて見比べ始めるミリー。

 うん、全部買ってあげたい。


「一応、栄養バランスも気にしたいけど、ミリーの好きなものを選んでいいよ」


「よろしいのですか?」


「うん。 そこそこ大変な旅になるからね。 好きなものを食べて英気を養わないとね」


 と、とりあえず理由を付けてGOサインを出す。

 理由を付けとかないと、俺が際限なしにミリーを甘やかしてしまいそうだから。 ミリーじゃなくて俺が先にダメになってしまいそうだ。


「なるほど。 ───それでは、この焼き菓子とドライフルーツのようなものがいいです」


「ん、了解。 炭水化物とビタミンはこれでオッケーだね」


 あとはタンパク質か。

 干し肉と干し魚を同んなじくらいずつ買えばいいかな。

 干し肉は、ほぼほぼ味のないビーフジャーキーだし、魚の方は柔らかい干物みたいなやつだ。

 ここいらの魚は川魚で、大きくてもサケくらいまでの大きさだからほとんどがアジの干物みたいになっている。 小さい方が食べやすいし、ありがたいね。


「淡水化……? びたにん……?」


 俺が普通に零した言葉にミリーが頭上にハテナマークを次々飛ばして反応している。

 しまった。 この世界にはない言葉だったかもしれない。


「あ、いや、栄養バランスの話。 主食と野菜はこれで揃ったなって」


「やはり難しい言葉をご存知なのですね。 私も勉強してみた方がいいでしょうか?」


「え、いや……。 別に必要ないんじゃないかな……? ほら、わざわざ難しい言葉を好んで使う必要はないし、それよりも料理のバリエーションを増やしてみたりするのもいいんじゃないかな? 俺でよかったらミリーが知らない料理の作り方、教えてあげるよ」


「本当ですか!?」


 かな〜り、強引に話を逸らしたが、ミリーはそれに見事に乗ってくれた。

 素直で可愛い。


「うん。 買い出しから帰って来たらね 」


「はい ♪ 今から楽しみです ♪ 」


「ふふふ、俺も楽しみだよ。 さ、まずは買い物を済ませちゃおう」


「はい ♪ 」


 力強く頷くミリーの頭を撫でて、お菓子選びならぬ保存食選びを再開した。

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