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物語の裏側で  作者: ティラナ
第二章
30/105

閑話 ルーデイン公爵

総合評価1万ポイント達成しました!

読者様方には感謝です!


……今回のお話、試行錯誤しましたがイマイチ納得のいかない出来です(; ̄ェ ̄)

お砂糖が皆無 _| ̄|○

 




 私には二人の子供がいた。

 やがて私の───ルーデイン公爵家のあとを継ぐことになる息子のアインハルトと、王家に嫁ぎこの国の王妃となるはずだった娘のミリアリアだ。



 ハルトは変わり者だが、要領のいい息子だ。

 何を思ったのか、あれよあれよと言う間に学校の教師となった。

 学校はこの国で唯一にして最高の教育機関だ。 その教師ともなれば、各家が個人的に抱えている教師とは一線を画する教育技術が要求される。 それにわずか23の齢で就いてしまったのだから舌を巻かざるを得ない。

 しかも、その仕事の合間に私の仕事の手伝いをして、当主としての仕事の経験を積もうとしている。

 飄々としていて掴み所のないやつだが、これで私が引退した後も公爵家は安泰だろう。



 ミリーは大切な娘だった。

 王太子の婚約者───未来の王妃として恥じることのないよう、厳しい教育を施した。 そしてミリーはそれに嫌な顔一つするのことなく、日々研鑽を重ねて完璧な令嬢に育った。

 親の贔屓目かもしれないが、この国で一番の令嬢に育ったと思っている。

 貴族の嗜みとされるものは全て身に付けた。 料理も刺繍も、音楽も絵画も、学も所作も、何をとっても同年代では右に出るものがいないほどまで極めていた。


 何より、心優しい娘だった。

 時間を見つけては民に混じり、困っている人を助けて回っていた。

 民のことを第一に考え、自分のことよりも他の人のことを優先する、王妃として申し分ない娘に育った。

 大切な、娘だった。



 それなのに私は───。

 ミリーが男爵令嬢に嫌がらせをしているのだと、ハルトから報告を受けた。

 本人に確認すると、そのようなことをした覚えはないと、男爵令嬢の自作自演ではないのかと、そう答えた。


 そのことをハルトにも話したら、今までに見たことないほどに怒りを(あら)わにした。 普段の彼からはとても考えられない様子だった。

 その様子を見るに、ハルトの証言に嘘がないことは把握できた。


 そして、ハルトはミリーが嫌がらせをしたという証拠を次々持ち出して来た。

 王太子もミリーが悪事の限りを尽くしているのだと私の元まで言いに来た。


 そして私は、ハルトや王太子の言葉を信じた。

 ミリーを信じてやれなかった。

 そのまま流れるようにミリーの罪状が突き付けられていくのを、私はただ傍観していた。

 ミリーが、私に助けを求めたのを無視した。


 私は───ミリーを見捨てた。



 今になって考えれば、なぜあのような結論に至ったのかわからない。 証拠の品だというものは確かに嫌がらせを受けた証拠ではあったが、どこにもミリーがそれを行ったのだという証拠はなかった。

 私は愚かだ。

 大切な娘をこの手で切り捨ててしまった。


 ミリーが本当に嫌がらせをしていたのかは今となってはもう分からない。 ミリーは既に王都を追い出され、何処にいるとも分からないのだから。

 しかし、周りに頼るべき味方のいなかったミリーに手を差し伸べてやれたのは私だけだったのだ。 私があの時、ミリーの求めに応じていたなら……。

最後までミリーの味方だった一部の使用人は、屋敷の中に軟禁状態だった。 私がそう命じた。 もし、彼女達を屋敷に閉じ込めていなければ、 ミリーの無実が証明出来たかもしれない。


 考えれば考えるほどに自責の念が次々に湧き出てくる。

 次第に仕事にも影響を及ぼし始めた。

 このままではいけない。 そう考えた私は仕事の合間に馬車を飛ばして、恩師の元へと足を運ぶことにした。


 私が若い頃に世話になった本屋の店主だ。

 以前は王都に店を構え貴族や王族向けの商売をしていたのだが、今では少し離れたところにある街に店を構えて庶民向けの商売をしている。

 ここ数年は全く訪れていなかったが、昔から悩みがあるたびに会いに行っては意見や叱咤をもらっていた。



 久方ぶりに恩師の店を訪れると、そこにいたのはまだ年若い、整った顔立ちの青年だった。


「おや。 確かご老人が店主だったと思ったのだが、店を間違えたか」


 本屋であることは変わりないがあの人の姿は見受けられない。

 もしかすると、またしても店の場所を変えたのかもしれない。 もしくは……。


 青年が言うには、やはりあの人は他界したらしい。

 私が出会ったときから既になかなかの歳であったから仕方がないのかもしれない。 ……惜しい人を亡くした。

 あの人ならば光明を齎してくれるやも知れぬと思ったのだが。


「うむ。 あ、そういえば申し遅れたな。 私はシュヴァルツ・ルーデインだ」


「宰相様であらせられましたか」


 青年の雰囲気がガラリと変化したのがわかった。

 表情の裏側に何かを隠していると、長年培って来た勘が告げている。

 大切な決断を誤ってしまうような愚か者だが、私はこれでもこの国の政治を国王陛下より任されている。 人よりも他人の表情や雰囲気から腹の中を探ることに関しては、それなりの経験を積んでいると自負している。


 しかしそれでも、この青年の考えていることまでは推し量ることができない。 そもそも名前すら知らないのだからやむを得ないのかも知れないが、感情すら読めないのは珍しい。 かなり経験を積んでいるようだ。

 さすがはあの人が次を任せただけのことはあるということか。 この青年、見た目通りの歳だと思っていたら足元を掬われかねない。


 彼の立場を探るためにも、相談を持ちかけてみることにした。

 この話を聞いてどう反応するかというのが一点、ここに来ると心の中のものを全て吐き出してしまいたくなるのがもう一点だ。


 それでも、彼は私の話を聞く間も表情どころか雰囲気一つ乱すことなく、完全に何も隠していない風を装っていた。 いや、それすらも私の先入観で本当に何も隠していないのではと思えるほどだ。

 しかし、彼は言葉巧みに私から情報を聞き出そうとしている。

 この情報を何処で使うのかはわからない。 それこそ興味本位なのかも知れないし、何か具体的な用途があるのかも知れない。


 相手が何者か分からない以上、迂闊に間違った情報を与えることも難しい。 だからと言って、何も考えずに全ての情報を与えるのも愚かだ。


 現時点ではレオナルドと名乗るこの青年が何者なのかは私には分からない。

 ならば、適度なところまで情報を与え、あとは泳がしておくことにしよう。 そう心に決めて私は店を後にした。


「お主はレオナルドと言ったか、覚えておこう」


「ありがとうございます」


 笑顔の下で行われる自分にとって有利な情報を引き出すためのやりとり。

 完全に貴族の、それも他国の有能な外交官との会話だった。

 問題の解決策を見つけに来たのに、新たな問題が増えてしまったな。


 レオナルド……。

 得体の知れない男だ。

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