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物語の裏側で  作者: ティラナ
第一章
3/105

第2話 泣き虫系ヒロイン?

 


 ご令嬢は俺のベッドで横になっている。

 ふっ、だから言っただろう? 大丈夫だと。

 ……本当は起きないかドキドキしてました。あと、胸が当たって更にドキドキしてました。


 店を開けるまでにはまだ時間があるから、それまでは起きるのをゆっくりと朝飯でも作りながら待つとしようか。

 俺の家は一階が店で二階が住居になっている、というかだいぶ昔にそういう風に改造したらしい。 そんなわけで二階はリビングダイニングキッチン兼ベッドルームが一つと、物置部屋と書庫が一つずつ。あとはトイレと風呂だ。

 だから、キッチンで料理していてもご令嬢が目覚めればわかる。




「………んん」


 ちょうどスープが出来上がったあたりでご令嬢がモゾモゾと動いた。そろそろ目が覚めそうだ。

 二人分作っておいてよかった。


「………?」


「あ、よかった。目、覚めた?」


 ゆっくりと起き上がったご令嬢に声をかける。

 風邪などをひいてはいなさそうだけど、顔色は良くないし頬もこけている。


「……ここは?」


「君、道で倒れてたんだよ? それでどうしようかと思ったんだけど、ここまで運んできたんだ」


「そう……。ありがとう」


 どこか生気の抜けたような声で答えが返ってくる。 抑揚も少なく、まるで感情が抜け落ちてしまったみたいだ。

 無愛想というよりも無関心と言った方が良さそうな感じだが、決して悪意があってのことでないということはわかる。


「いま朝食の準備してるからさ、よかったら風呂で身体洗ってきなよ。服は男ものでよければ新しいのがあるからさ」


「………」


「……あの。大丈夫?」


「………うぅ」


 黙り込んだご令嬢の顔を覗き込んだら、その瞳に大粒の涙を浮かべて泣き出してしまった。


「いや、なんもヘンなこととかしてないですよ! 拉致監禁とかじゃないですから! ほんと、疚しい気持ちとかそういうのじゃないんで!」


 慌てて、弁解するも彼女の涙が止まる様子はない。

 どうしたものかと考えていると、ご令嬢が嗚咽混じりに口を開いた。


「うえっ。 あの、うぅ。 違う、ん……ですっ。 わ、たしっ。 ひぐっ、優し、くてっ。 嬉しくてっ。 えぐっ」


「え? あ、あぁ。そっか、よかった。でもさ、ほら。泣いてばっかりだと折角の綺麗な顔が台無しだからさ。お風呂で流しておいで?」


 砂埃や土で汚れた髪を撫でながら、幼子に語りかけるようにそっと話しかける。


「ひぐっ。 は、はい。 あ、ありがとう、ございます」


 風呂場まで案内してから、物置部屋から服を見繕う。

 服などは本を仕入れるついでに王都でまとめて買ったりしたのが結構あったりするのだ。

 下着は………。

 ごめんなさい、流石にないです。 男ものだけど新品があるんでそれで勘弁してください。



「あの、お風呂。本当にありがとうございました」


 脱衣所に着替えを用意してから、朝食の続きを作っているとご令嬢の声が聞こえた。多少は落ち着いたようだ。


「いやいや、どういたしまして。 朝食の準備もできて、る……よ……」


 フライパンを火から上げ、声のした方を振り向いて、俺は目を見開いた。

 ご令嬢は思っていたよりも遥かに綺麗でした。

 いや、風呂に入る前からかなりの美少女だったんだけど、それを上回る超絶的な美少女だった。

 腰のあたりまで伸びたウェーブがかった金髪に、シルクのようにきめ細やかでツヤのある肌。触れれば壊れてしまいそうな、儚げな少女がそこにいた。


 ……俺の貸した服がすごく浮いている。


「ご、ご飯まで……。私、もう、死んでもいいです。というか、どうせならいま死にたいです……」


「い、いや。そこまで、言わなくていいんじゃない?」


 喜んでくれているようで何よりだけど、『いま死にたい』はちょっと……。

 また泣き出しそうだったからパパッと料理を盛り付けてテーブルに連れて行く。


「さ、食べよ食べよ。あんまり泣いてたら冷めちゃうからさ」


「えぐっ。 は、はいぃ……」


 泣き出してもうたがな。

 本当にこの娘、何があったんだよ。


「美味しい、美味しいです。こんなに美味しいもの……うぅ」


 と、ボロボロと涙を流しながら一心不乱に目玉焼きを口に運んでいる。

 それにもかかわらず、そのナイフとフォークの動きはとても品があり、前世を合わせても見たことがないくらいのものだった。

 この娘って、貴族も貴族。下手したら王族とかそういうレベルの令嬢なんじゃないだろうか?

 それがなんで……。


「ごちそうさまでした。本当に、本当に、美味しかったです」


 食べ終わるとナイフとフォークを揃えて置き、両手を合わせてお辞儀をする。その仕草もまた洗練されたものであることは俺が見ても明らかだった。

 ちなみにこの国の文化は日本と似ているところが多く、食後には『ご馳走さま』と言うのがマナーになっている。


「それは良かった。何があったかは知らないけど、よかったらゆっくりして行ってよ」


「で、でも……。これ以上、ご迷惑をかけるわけには。それに……」


 何か言葉を繋げようとして、言い辛そうに口を塞ぐ。

 うん。

 何かとんでもない理由があることはわかったよ。


「別に気にしなくていいよ。 あ、もちろん何か都合があるなら引き留めないけど」


「………」


「貴族のゴタゴタとかってよくわかんないけどさ、ここならそういうの気にせずにいられるんじゃない?」


 俺の言葉に少しビクッとしたようだが、うつむき気味だったその顔をゆっくりと上げた。

 どうやら貴族だとはバレていないつもりだったらしい。


「………うぇっ。ありがとう、ございま、す……。うえぇ」


 そしてまた泣き出してしまった。

 あれか? この娘は泣き虫系ヒロインなのか?

 いや、そういうジャンルがあるのか知らないけど。


「さて、それじゃあ俺はそろそろ店を開けてくるから、ゆっくりしててね? 本くらいしかないけど、暇だったら好きに読んでていいから」


「……お店、ですか?」


「そう。 この家って一階が本屋になっててね、小さいけど俺の店なんだ」


「本屋さんなんですか。 あ、だから本がたくさんあるんですね」


 そう言いながらご令嬢は壁際の本棚に目をやる。

 確かにこの世界においては比較的多い方かもしれない。


「そういうこと。下にはもっとあるから、あの中に読みたいのがなかったら顔出してね」


「はい。 本当に、ありがとうございます」


「ん。 それじゃあ行ってくるね」


「はい、行ってらっしゃいませ。………えっと」


 笑顔でいってらっしゃいを言ってくれたその姿に癒されたが、その直後にご令嬢は困ったような笑みを漏らした。


「あの、お名前をお伺いしても構いませんでしょうか? 遅ればせながら、私は……えっと、ミリーとお呼びください」


 申し訳なさそうにそういうご令嬢、改めてミリー。

 偽名なのか、それとも愛称なのかは分からないが本人がそう読んで欲しいというのだから深く追求するつもりはない。


「あ、ごめん。 そういえば、今更だけど自己紹介するのスッカリ忘れてた。 俺はレオナルド。よかったらレオって呼んでくれると嬉しいな」


「はい、分かりました。いってらっしゃいませ、レオ様」


「お、おぅ。行ってくるね、ミリー」


 な、何故だか新婚さんみたいな会話になっとる。

 いいんだよね?

 これでいいんだよね?

 やばい……。すごく幸せだ。



 おっとと、いけないいけない。そろそろ朝9時、店を開けないとな。

 頭を切り替えて俺は店への階段を下りた。

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