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物語の裏側で  作者: ティラナ
第二章
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第26話 対面

新章突入です!

 



「申し訳ありません……」


 俺の膝の上でぐったりとしたまま、力のない声で謝るミリー。

 いま、俺たちは二人で風呂に入っている。 正確には、ミリーの身体を俺が洗っている。


 コトが終わったあと、気絶するように眠りについてしまったミリーを起こさないようにベッドを抜け出し、水瓶に残ったぬるま湯で身体を拭いてからお湯を沸かした。

 ミリーには一人で入ってもらおうと思ったのだが、どうやら身体に力が入らないらしい。

 そんなわけで、俺も服を脱いでからミリーを抱き上げて風呂場まで移動。 膝の上に乗せて赤ちゃんの身体を洗うように、片手で支えながら洗っているというわけだ。

 豊満な胸を曝け出し四肢を投げ出す姿は、赤ちゃんとは明らかに違ってとても扇情的だが。


「いや、気にしなくていいよ。 というか、むしろごめん」


 そう、彼女がこんな有様なのは俺の責任だ。

 次第に快楽に身を任せていくミリーがいつも以上に可愛かったのと、その声が色っぽかったのと、色々と溜まっていたのがあり、ミリーが初めてだったにも関わらず何回戦もしてしまった。

 ……本当にごめん。


「あっ」


「あ!? 」


 考え事をしていたら敏感な部分に触ってしまったらしく、ミリーが嬌声を漏らす。

 その声に驚いて俺もビクッと飛び上がる。


「んぁあっ」


 俺が飛び上がった衝撃でミリーがさらに大きく反応する。

 なんだこの連鎖反応は。


「ご、ごめん!」


「い、いえ……」


 女性すべてがそうなのか、それともミリーが特別なのかは知らないが、事後はとても敏感らしい。 気を付けていないと刺激してしまって俺の精神的にも良くない。

 流石に今からもう一回戦始めたらミリーが持たないだろう。


 滾る欲望をグッと堪えてどうにか機械的にやろう。

 俺は機械だ。

 だから、ミリーの裸を見ても何も感じない。

 変な気持ちにもならない。

 ならないったらならない!



 ミリーの体を洗い終える。

 タオルでそっと包み込むように拭く。

 下着を履かせる。

 下着をつける。

 服は現時点では難しいから諦める。


「うーん。 ベッド、シーツがグチャグチャだし、シーツは剥がしちゃってもいいかな……?」


 尋ねる。


「はい」


 返事が返ってくる。

 寝かせる。


「それじゃあ、本の配達してくるね」


 任務完了。


「あの、レオ様……。 お召し物を身に付けられた方がよろしいのでは?」


 ……おぅ。

 俺、真っ裸やないですかい。

 機械は故障中だったみたいだ。

 慌てて風呂場に脱ぎ捨ててあった服を着る。


「───それじゃあ行ってくるね。 今日はゆっくり休んでていいから」


「ありがとうございます。 いってらっしゃいませ」


 ベッドに横たわったまま笑顔で送り出してくれるミリー。

 天使だ。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 本の配達を終えて、なんとか上半身だけ起こせるようになったミリーと朝食を終えて、平常通り店を開けた。

 本当なら今日だけはミリーに付き添って臨時休業にしたかったのだが、休業の理由が恥ずかしいからやめて欲しいと言われてしまった。

 確かに、俺としても聞かれたら答えづらいな。

 ナニをしていたかなんて言えない。


「センセー、おはよーございまーす!」

「おはようございまーすっ!」

「まーす!」


「ん、おはよう。 みんな元気だね」


 ちょっと昨日のことを思い出していたら、いつもの幼くて元気な声が響いた。

 今日はエシルちゃんの他にも二人来たようだ。

 昨日休みだったから今日は少し混むかもしれないな。


「……ん? なんだ、あれ?」


 子供たちをカウンターに座らせ勉強を見ていると、カタカタという音とともに、店の前に豪奢な造りの馬車が止まった。

 ブルルルと馬が戦慄(わなな)く声が店の中にまで響く。


「おっきな馬車〜」

「すっごいね〜」

「でっけー」


 子供たちはキラキラと輝く目を丸くさせている。

 俺も同じようなリアクションをとっていただろう。 馬車から降りてきた明らかに貴族な服を身に付けた人が、こちらに歩いて来ていなければ。

 黒を基調とした詰め襟に金の刺繍や装飾の施された、かなり上位の貴族と思われる服だ。

 まさか、ミリーのことがバレたのか。


「すまない、店主はおられるか?」


 身体の奥まで響くようなバスだ。

 アゴヒゲの生えたその風貌とマッチしていて威厳がすごい。


「この店の店主は私です。 何か御用でしょうか?」


 子供たちが既にフリーズしてしまっているのを視界の端に捉えつつ、平成を装って答える。


「おや。 確かご老人が店主だったと思ったのだが、店を間違えたか」


 どうやらお爺さんへのお客さんらしい。

 しかし、まだ安心はできない。

 本当にお爺さんへのお客さんかは分からないし、もしもミリーを害しようとするなら絶対にここで食い止めなければいけない。


「あ、いえ。 おそらく間違っていないと思います。 この街には他に本屋はありませんので。 前の店主は一年ほど前、天寿を全うしました」


「そうだったか。 あの人が……」


 その声はお爺さんの死を心から悔やむものであった。

 少なくとも、お爺さんの知り合いだったことは嘘ではないらしい。


「本の発注などでしたら承りますが?」


「いや、そうではないのだ。 あの人の意見は色々と参考になったのでな。 困ったときにはこうしてたまに顔を出していたのだが」


「そうだったのですか」


「うむ。 あ、そういえば申し遅れたな。 私はシュヴァルツ・ルーデインだ」


「宰相様であらせられましたか」


 お義父(とう)様であらせられましたか。

 やっぱりか。

 なんとなく、そんな気がした。

 まぁ、そんなことを言うつもりもないから深々と頭を下げる。


 相手の正体を知った途端、心が波立った。

 ミリーの父親でも。 いや、父親だからこそ、この人はミリーを追い出したうちの一人だということだ。

 ミリーを苦しめたうちの一人に他ならないのだ。


「よい、頭を上げよ」


「は、はい」


 睨みつけてしまいたくなるのを堪えて、戸惑ったような表情をする。

 社交界を渡ったりはしていないが、俺は生まれてからずっと前世の知識を持つことを隠して生きて来た。 子供の頃などは精神年齢が大人であるにも関わらず、ずっと子供のフリをしていた。

 ある意味では常に演技をして生きてきたと言っても過言ではないだろう。 ……ミリーへの想いは間違いなく本物だよ?


「なに、怯えなくともよい」


「か、畏まりましてございます」


「お主、あの人が店を任せるだけあって、それなりの学があるようだな。 名前だけ聞いて私の職を理解するとは」


「ありがとうございます」


 この人の言うそれなり学とは『庶民の割りには』というものだろう。


「名は?」


「レオナルド、と申します」


「せ、センセー、ミリーお姉ちゃん呼んで来た方がいい?」


「………いや、いいよ」


 俺が名前を名乗ったのに続いて、エシルちゃんが声を震わせながら尋ねてくる。

 正直、舌打ちをしなかった俺を褒めて欲しい。


 彼女がミリーがこの人の娘だということを理解しているのかどうかは分からないが、そこに悪意がないことは理解できる。

 きっとこの子の性格を考えるに親切心からなのだろう。

 これで舌打ちをして怯えさせてしまっては可哀想だし、弱みを握らせることになる。


「ミリー、とは?」


 なかったことにしたかったのだが、案の定、宰相様は食いついてくる。


「あ、いえ。 ここで共に働いている私の妻でございまして」


「そうか……」


 細かな話はなしにしてそう言う。

 正確には、周りに結婚したと宣言することで結婚したと見なされるこの国では、宣言をしていない俺たちはまだ夫婦ではない。

 しかし、実質的には夫婦と大差ないだろう。 男女の契りも結んでしまったわけだし。

 何より、宰相様が自分の娘が結婚しているとは思わないだろうとのがある。 こう宣言することで、『もしかして』という思いを打ち消すのが目的だ。


「いや、私の娘の愛称と同じだったのでな」


「あの、張り紙のお方でしょうか?」


「あぁ。 しかし、今になって考えれば、あまりにも酷な仕打ちだったと悔いているのだ」


 一応は後悔しているのか。

 まぁ、それだけで許されるものでもないと思うけどね。


「何故ですか? あれほどの罪を犯されたのでしょう?」


 あえて知らないフリをして情報を聞き出す俺は、悪どい人間だろうか。

 しかし、ミリーのためになり得るならたっぷりと情報を聞き出してやろうじゃないか。 個人的な憎しみもあるし。


「あのときは私もそう思っていた。 しかし今もう一度調べ直してみると、不自然な点が多いのだ。 ミリーの性格からはとても考えられない言動や証言の矛盾点がな」


「では、ご令嬢は無実であったと、そうお考えなのでしょうか?」


「それは……分からぬ。 だから、ここに足を運んだのだがな」


「左様でしたか」


 分からぬ、なのか。

 この人に自分の娘を信じようとか、そういう思いはないんだろうか。

 17年も一緒に過ごして、大切な娘として育ててきたのではないのだろうか。

 貴族って、やっぱり薄情なのかもしれないな。


「……まったく。 この店にいるとつい口が軽くなってしまうな。 すまんが今のことは忘れてくれ」


「いえ」


 後ろに続く言葉は───


『お気になさらないでください』?


 いいや、そんなわけがない。


 ───忘れるわけないでしょう?


 こっちが正解だ。

 何かをされたのはミリーであって俺ではない。

 そのミリーであっても、この人のことは既に許しているのかもしれない。

 だとしたら、俺がこの人のことを憎むのは筋違いかもしれないが、人間そうは利口じゃない。

 しっかりと償いはしてもらう。 もちろんミリーに対して。


「うむ。 それでは邪魔をしてすまなかったな」


「こちらこそ、ご足労いただいたのに申し訳ありませんでした」


 わざわざ情報までくださって。


「なに、気にすることではない。 お主はレオナルドと言ったか、覚えておこう」


「ありがとうございます」


 深々と頭を下げて、宰相様が馬車に乗って街を去るのを見送った。

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