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物語の裏側で  作者: ティラナ
第一章
25/105

第23話 デート:その4

 


 手鏡に引き続き、いくつかの生活雑貨類を揃え、二人でお揃いにするものを探していた。

 この店には食器や身嗜み用品の他にファッション小物も並べられている。


 前世のように天然宝石や人工宝石が一般にまでは普及していないから、金属を磨いたり形を工夫したりしたものが主だ。 金属とは言っても金銀プラチナといった貴金属ではないだろうが、それでも十分に綺麗だ。

 全部手作業だと思うのだが、そのクオリティは前世のそれにも負けていないと思う。

 ……あれ、前世のも手作業なんだっけ?

 この世界に生まれてから長い上に、そもそもその辺に詳しくないからよく覚えてないわ。


「あ、あの、あのあの、レオ様」


「ん? どうしたの?」


 くだらないことを考えながら、並べられたアクセサリーを見ていたらミリーが声を裏返らせながら声をかけて来た。

 最近ではすっかり落ち着き始めていたミリーがここまで動揺するなんて珍しい。 ……いや、照れてたりすると割と動揺してるか?


「こ、のの、この、この」


「……ん?」


 なんかもう既に壊れたオモチャみたいになっちゃってるんだけど。

 本当に大丈夫?

 声をかけてあげたいが、ここは口を出さないで聞いてあげた方がいいのだろうと思い止まる。


「この指輪、お揃いにいかがでしょうか!?」


 そう言うミリー指差す先には竹かごに入れられた指輪があった。

 カゴの中には同じ指輪がいくつも入っており、どうやら大まかなサイズごとに分けられているらしい。

 大量生産(とは言っても手作りだが)の飾り気のない指輪だ。

 確かにシンプルだが、シンプル過ぎてミリーが気に入るようなデザインではないと思うのだが……。


「あ、そういえば、貴族とかだと結婚とか婚約の時にお揃いの指輪を贈るんだっけ」


 そう。 確か、この国の貴族にも結婚や婚約の時に指輪を贈るという風習があったはずだ。 しかも左手の薬指に。

 なんで前世と同じような風習があるのか分からないが、そもそも前世でもどうして指輪を贈るのか知らないからなんとも言えない。 ただの偶然なのかもしれないし、人間の文化の上での必然なのかもしれないし。


「は、はい。 もしご迷惑でなければレオ様とのお揃いは指輪がいいな、と。 ほ、本当にご迷惑でなければなのですが」


「全然迷惑なんかじゃないよ。 指輪、とってもいいと思う。 これにしよう。 せっかくミリーが選んでくれたんだし」


 貴族生まれのミリーにとっては指輪に対する憧れのようなものがあるのかもしれない。

 だったらそれは叶えてあげるしかないな。


「あ、ありがとうございます」


「ううん、こちらこそ選んでくれてありがとう。 すごく嬉しいよ」


 ミリーの頭をそっと撫でる。

 うん、柔らかくて気持ちがいい。


「はぅ〜」


 ミリーも気持ちがいいのか、ため息ともなんとも取れない不思議な声を漏らす。

 めっちゃ可愛いです。


 ミリーを存分に楽しみんでから、それぞれの指のサイズに合う指輪を選ぶ。


「薬指でいいよね?」


「薬指!? は、はい、薬指です!」


 一応確認を取ってから合うサイズを探していく。

 そうは言っても、男性用女性用で各4サイズに分けられた中から一番近いものを探すだけだからそんなに時間はかからない。

 こういう例えをするとチープに聞こえてしまうかもしれないが、観光地のお土産物屋の数百円の指輪を選んでいるみたいだ。


 二人分のサイズが見つかったから、手鏡やら小物類と合わせてカウンターに持って行く。

 店番は商品の一部も作っている年齢不明なヒゲ面のおっちゃんだ。



「お願いしま〜す」


「おぅ、随分とまぁイチャイチャしてるみてえじゃねぇか。 『ミリーのこと、もっと知りたいから』だっけ? いやぁ、いいねぇ。 やっぱモテる男は違うねぇ」


「……お願いします」


「連れねぇな。 俺とレオの仲じゃねぇかよ」


「お願いします」


「おいおい、少しは俺と会話しよって気はねぇのかよ」


「お願いします」


「だー。 わーった、わーった。 俺が悪かったよ」


 おっちゃんが折れた。

 この人はモノを作る腕前は確かなのだが、どうにも酔っ払い親父のようなところがある。 ここが剣と魔法の世界だったら、酒場で酒を飲んでばっかりの冒険者って感じだな。


「まったく。 あまり人をからかうものじゃないですよ」


「年下に叱られるとはなぁ」


「だったら、叱られないような年相応の大人になってくださいよ。 あと、それと俺たちこれからまだ行くところがあるんで遊んでる時間はあんまりないんですけど」


 隣で所在なさげに佇んでいたミリーの頭を撫でる。

 すると少し戸惑い気味だった表情が柔らかくなっていく。


「わーったよ。 ほれ、少しサービスしといてやるよ」


「ありがとうございます」


 こういう人の良さがこの店が繁盛している秘密なんだよな。 あ、あとは腕の良さもそうか。

 そう考えながらお金を払う。


「うぃ、まいど〜。 今度店に行った時に話し聞かせろよ〜」


 ……人、いいよな?



「ごめん、時間かかっちゃって」


 店を出てすぐのところで立ち止まってミリーに謝る。

 こちらの声は聞こえているかもしれないが別に構わないだろう。


「いえ、お知り合いですか?」


「まぁね。 この店はよく来るから。 さ、ミリー、手を出して?」


 あらかじめ別にしておいた指輪を取り出す。

 本来ならば、夕焼けを背景にとか、高級なワインを飲みながらとか、そういうムーディーな感じで渡した方がいいのかもしれないが、一緒に選んだ手前こうして渡してしまった方がいいと思ったのだ。


「はい」


 おずおずと左手を出してくれたミリーの薬指に指輪を嵌める。

 柔らかな肌と金属の硬質な感じがうまく調和していて、ミリーの指の美しさを何倍にも引き立てている。


「うん、ミリーの綺麗な肌によく似合ってるね」


「あ、ありがとうございます。 あの、レオ様も、手を出してください」


「ん、こう?」


「はい。 ……はい、レオ様もよくお似合いです」


 同じように俺の左手の薬指に指輪を嵌めてくれるミリー。

 そのうっとりとした表情がまた魅力的だ。


「ふふ、ありがとう、ミリー」


「いえ、あの、とても嬉しいです」


「俺もとっても嬉しいよ。 ミリーと繋がってる感じがする」


「繋がって……」


「そう。 なんて言うか、ミリーをもっと近くに感じられるって言うかね」


 心の繋がり、というのだろうか。

 心が満たされているような、そんな感じがする。


「私も、私もレオ様を感じます! レオ様をしっかりと感じます!」


 ミリーも頬を染めながらそんな嬉しいことを言ってくれる。

 荷物を持っていない方の手で思いっきり抱きしめようと手を伸ばした時───




「お〜い、ここはベッドの上じゃねぇぞ〜」


 ───店の中からおっちゃんのヤジが飛んできた。


「おっちゃん、空気読め! 空気!」



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