第22話 デート:その3
「さて、ミリー。 そろそろ、行こうか」
ミリーといつの間にか十人近くに膨れ上がった女性陣が盛り上がっているところ申し訳ないが、ミリーのそばに寄って声をかける。
時刻は午後一時過ぎ。 店にもよるがそろそろ午後の営業を開始する時刻だ。
午後の時間を有効活用するためにもそろそろお暇したいのだが。
「えぇー。 いいじゃんレオさん。 せっかくミリーといいところなんだから」
ルリアちゃん───双子の姉が口を尖らせて抗議してくる。
念のために言っておくが、みんな普通に話したりして盛り上がっていただけだ。 百合にはなっていない。
「いや、でも、申し訳ないけど、ミリーとデート中なんだ。 他にも行きたいところがあるから」
「じゃあ、レオさんとは代わりにネミアをあげるから、ミリーとは私たちと、ってことで!」
「なんで私が〜? 私もミリーと話したい〜」
「……レオさんとデートできるよ?」
「レオさん〜。 どこに連れて行ってくれるの〜?」
「いやいやいやいや……。 そういう問題じゃないから」
「申し訳ありません、皆さん。 お気持ちは嬉しいのですが、私もレオ様とデートしたいです」
「「「ミリー(ちゃん)がそう言うなら……」」」
「ありがとうございます、皆さん! よろしければ、また別の機会に声をかけていただけますか?」
「「「もちろん!」」」
あ、こういうの前世で見たことがある。
宝ジェンヌさんとそのファンの人の集いみたいな雰囲気だ。
圧巻だわ。
なんでこんなにタイミングがピッタリ揃うんだろう……。
「お待たせいたしました、レオ様」
「う、ううん。 さ、行こうか」
少女たちの輪の中を抜けて俺の元にミリーがやってくる。
ミリーが彼女たちといたいと言うなら引き下がらなければならないかとも考えていたから、友情よりも俺の方を選んでくれたのが照れくさいがやっぱり嬉しい。
繋いだ手から伝わってくる温かさに優越感と安心感を覚える。
「はい! 皆さん、また」
「「「ミリー(ちゃん)またね〜」」」
声を合わせてミリーに手を振る女性陣。
本当さ、ミリーってどうやって彼女たちとここまで仲良くなったのさ。
ただでさえ、ミリーにはあの張り紙の大きなハンディキャップがあったというのに。
やっぱりミリーの魅力の成せる技なんだろうか。 真っ直ぐで楚々とした彼女の人柄は全ての人を惹きつけるのかもしれない。
「レオ様、次はどこに行くのですか?」
「そうだね。 じゃあ、雑貨屋さんに行こうか。 ミリー用の手鏡とか筆記具とか、他にもいろいろ」
「それでは、何かお揃いのものを買いませんか? 」
「お揃い? いいね」
お揃いか。
なんか、本当に恋人同士って感じだな。
いや、本当に恋人同士なんだけどさ。 むしろ、この世界の基準で言うところの結婚のちょっと前。 前世なら婚約者くらいではないだろうか。
お揃いの皿を使ったり、マグカップを使ったり……。
「あ、でも、食器類とかはもう同じやつ使ってるからね。 何かいいのあるかな」
あとお揃いにするとすると、服……はちょっと恥ずかしいな。
この世界だと万年筆とか、あとはファッション小物か。ネックレスやブレスレット、指輪とかね。
「一緒に探しましょう」
「うん、そうだね」
楽しそうに微笑むミリー、可愛い。
もちろんミリーは常に可愛いけど、楽しそうなミリーはいつもよりも更に5割り増しくらいで可愛い。
酒場から少し、10分くらい歩いたところにある行きつけの雑貨屋に入る。
ここは街の中でも一番規模が大きく、品揃えも豊富だ。
小さな店に掘り出し物を探しに行くのもいいが、買いたいものが決まっている時はこういう店の方がいいだろう。
「まずは必要なものを先に買っちゃおうか。 その途中でお揃いにするのにいいものがあったらそれにすればいいし、なかったらゆっくり探そう?」
「はい」
棚やテーブルに並べられている商品に目をやる。
手鏡だけでも何種類もあり、その全てが手作りだ。 鏡の部分の形は同じだから、鏡だけ大量発注して外枠を変えて何種類も作っているのだろう。
気を削ってベースを作り、そこにいろいろな模様を掘ったり金属で飾りを付けていたりしている。
「あ、ミリー、この手鏡とか可愛いよ。 使い勝手も良さそうだし」
目に付いた手鏡をミリーに差し出す。
裏側には花が掘ってあり、周りには金属や木で作られた造花が付けられている。
まるで、木に色とりどりの花や金属の花が咲いているようだ。
「本当です、とても可愛いらしいですね。 でも、少し派手なような気がします」
「……そう?」
「はい。 あ、いえ、レオ様のセンスはもちろん素晴らしいのですが」
「ううん、気にしなくていいよ。 俺もミリーの趣味とかも知りたいからさ。 ミリーがどういうのが好きか、教えてほしいな」
「は、はい! それでは……えっと……」
唇に手を当てながら手鏡を眺め始めるミリー。 それでも繋いだ手は離さないのだから流石と言うべきだろうか。
それにしても、ミリーが自分の好みをしっかりと主張するのは珍しいな。
本にしても料理にしても『レオ様のお好きなもので』とか、さっきの服とかも『レオ様はどちらがお好きですか?』という感じだったんだがどういう心境の変化なんだろうか。
いや、もちろんいい事なんだよ?
ミリーが自分の好きなものをしっかりと言ってくれるっていうのは。 ミリーの好みとかを知ることができるし。
ただこの短時間でどんな心境の変化があったのかなぁと思ったり思わなかったり。 やっぱり女友達との交流というのはミリーにとっていい影響を及ぼしてくれるのかもしれない。
「あ、こういうものが好きです!」
そう言うミリーが手にしていたのは、木の素材を最大限に生かしたようなデザインの手鏡だった。
装飾はあまり多くなく、針金を曲げて作られた花が取り付けられている。 しっかりと磨かれていて、丸く滑らかで手触りが良さそうだ。
俺がさっき進めたものと比べるとシンプルで、飾り気のない美しさを体現している。
「なるほど、ミリーはこういうのが好きなんだね。 落ち着いた雰囲気でとっても可愛い」
「ありがとうございます」
「ううん。 ミリーの好きなもの、もっと教えて? ミリーのこと、もっとよく知りたいから」
な〜んて。
キザっぽかったかな、流石に。
思ったことを口にしただけなんだけど、完全に口説き文句な気がする。
「レオ様……」
うん、ミリー。
ときめいてくれて、ありがとう。
おかげで恥ずかしさもだいぶ軽減されたよ。
第一話冒頭部を少しばかり修正させていただきました。 大きな変化ではありませんが、読者様によっては世界観が少しばかりずれてしまうかもしれません。
具体的には、主人公から見たこの世界のイメージを修正いたしました。 ファンタジー世界みたいと、解釈しています。
コロコロ変わって大変申し訳ありませんが、今後もお付き合いいただけたら幸いです。




