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物語の裏側で  作者: ティラナ
第一章
23/105

第21話 デート:その2

 


 ………。


「………」


「………」


「………」



 俺とミリー、そして俺たちから少しだけ離れたところに立っている先ほどの声の主、イレースちゃん。


 その間にだけ、まるでテレビを消音モードにした時のような不自然な沈黙が広がる。

 ミリーはみるみる顔をリンゴのように真っ赤に染めているが、俺の腕にかかる力はむしろ強くなっている。

 イレースちゃんはイレースちゃんで、顔を赤らめながらもチラチラとこちらの様子を伺っている。


 どうしようか。

 凄い気まずいな。


「あ、あの、続きをどうぞっ!」


 イレースちゃんが両手を前に出して、どうぞどうぞと促す。


「いや、どうぞって言われても……」


 なんの無茶振りだよ。

 どれだけ想い合っていても、人前で見られながらのキスってツライと思うんだ。


「………」


 そしてミリーよ、そんなに潤んだ目でこちらを見つめるんじゃありません。

 あれだよね? 恥ずかしくて俺に助けを求めてるだけだよね?

 まさか、キスをしようとしてるわけじゃないよね?


「と、ところでイレースちゃんは、こんなところでどうしたの?」


「え、えっと……。 こんなところと言われても。 ちょっと通りがかっただけです」


 ですよね〜。

 道のど真ん中だもんね〜。

 てか、よく見たら離れたところからこっちを見てる人が結構いるんだけど!?

 俺が見た途端にあからさまに誤魔化し始めてるけど、絶対見られてたよね!?

 てか、ポケットに手を突っ込んで口笛を吹くとかそんなに古典的な誤魔化し方始めて見たよ!


 ……道のど真ん中で発情してた俺らが悪いよね、はい。

 次からは場所は選びます。


「そ、それじゃあ、俺たちはこれで……」


「あ、は、はい。 ミリーも、またね」


「はい、また」


 逃げるようにイレースちゃんに別れを告げる。

 ただ、あんまり早足だとミリーが疲れちゃうから普通よりもすこーし速いかなくらいだ。

 繋がれたミリーの手は柔らかくて、ほんのりと湿っていた。


 少しずつ歩くペースを戻して、女将さんの店に向かう。

 さっきの店からは徒歩1、2分くらいだからあっという間に到着する。

 営業中の店のドアは大きく開かれていて、中の様子を外からでも知ることができる。 どうやら昼休憩の時間には少し早いからかお客さんの気配はない。

 この時間なら宿屋の方のお客さんが時間をズラして食事を摂っていることもあるのだが、今日はそうでもないらしい。


「いらっしゃ〜い! ……って、あら、レオちゃんにミリーちゃん。 今日はデートかしら?」


「はい。 今日はお店がお休みですからね」

「レオ様とお買い物をしています」


 店に足を踏み入れると、カウンター席の向こうで頬杖をついていた女将さんが立ち上がって声をかけてくれる。

 いや、お客さんが来なくて暇なのはわかるけど、旦那さんは裏で料理の仕込みをしてるんじゃないんですかね。 手伝わなくて大丈夫なのかな。

 ……まぁ、俺も似たようなもんか。 椅子に座って本読んでるだけだし。


「あらあら、青春ねぇ。 さ、そこの席にどうぞ。 今はまだ空いてるけど、もう少ししたら五月蝿くなるから勘弁ね」


 女将さんに促されるまま、カウンター席にミリーと並んで腰掛ける。 酒を飲むつもりはないけど、正面にはボトルやら樽やらに入った酒が並んでいる。

 そういえば、この世界ってガラスとかガラス瓶とかって普通にあるよな。 透明なものだったり色がついてるものだったり色々あるけど、本当にこの世界の科学技術はどうなってんだろう。


「いえ、俺は大丈夫です。 ミリーも大丈夫?」


「はい。 レオ様が大丈夫なら、私も大丈夫です」


「ん、わかった。 それに、ここが混むのはいつものことですし、流石に昼から飲む人はいないでしょう?」


 酔って暴れるような人がいたらミリーが危ないかもしれないから遠慮させてもらうが、昼間から酒を飲む人はそういないだろう。

 この世界にも夜勤の人はいるが、流石にこの時間は寝てるだろうしな。


「それもそうね。 ミリーちゃんがびっくりするかとも思ったんだけど、レオちゃんが一緒なら大丈夫そうね」


「はい、レオ様がいれば何だって大丈夫です」


 ミリーが力強く頷くのを見ながら、繋がれた手がギュッと握られるのを感じる。

 それを俺もそっと握り返して微笑みかける。

 はい。

 超リア充してます。


「うふふ、ごちそうさま。 それで注文はどうするのかしら?」


「あ、そうでしたね。 それじゃあ────」




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「あ、ミリーちゃん! と、レオさん! 二人がここにいるなんて珍しいね 」

「あれ〜、ほんとだ〜。 やっほ〜ミリ〜。 レオさんも〜」


 正午を過ぎてしばらくした頃。

 注文した料理をちょうど食べ終えたあたりのタイミングで、ドアの方から2人の女性の声が聞こえた。


「こんにちは。 お二人とも、お久しぶりです」

「こんにちわ〜。 って言うか、ついこの前、うちの二階で会ってなかったっけ?」


 そう、確か二人ともイレースちゃんから始まるミリー参りの参加者だ。 ミリーに会いに来たって意味ね。

 女同士の愛じょ……ではなく友情により、百合百合し……とても微笑ましい空気を纏っていた姉妹だ。 そう、二人とも性格は違うが双子の姉妹で顔立ちはそっくり。

 この世界で双子だと苦労することも多そうだが、二人ともそんな色は見えない。

 むしろ───


「ミリーちゃん♪」

「ルリアさん♪」

「ミリ〜」

「はい、ネミアさん♪」


 ───すごく幸せそうだ。

 それぞれミリーの手を片方ずつ恋人繋ぎで繋いで嬉しそうに見つめあっている。

 見目麗しい少女たちが手を取り合って微笑みあってるのっていいね。 カメラがあれば写真を撮って保存しておきたいくらいだ。


「あらあら、二人ともいらっしゃ〜い」


「「こんにちは〜!」」


 奥から女将さんがやって来て二人と挨拶を交わしてから注文を受け始める。

『酒場』と聞くと剣を腰にぶら下げたゴツいおっちゃん達ばっかりというイメージかもしれないが、魔物とかそういったもののいないこの世界ではそういう賞金稼ぎなんだかゴロツキなんだか、はたまた傭兵なんだかよくわからないような人はそんなに多くない。 もちろんいないことはないが、街の酒場に昼間っから溢れかえるほどはいない。

 だから、この店には女将さんの情報目的に女性客も多く来るのだ。


 そう、若い女性客が多いのだ。


「「「あ、ミリーちゃん!」」」


 入り口の方からまた若い女性の声が聞こえた。

 ………この場の百合百合しい空気がどんどん濃くなっていくのを感じた。



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