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物語の裏側で  作者: ティラナ
第一章
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第1話 美少女を拾った。

しばらく短編に加筆、修正をした話が続きます。

 


 さて、突然だが、俺は異世界転生をした。


 細かな流れは必要ないと思うから端折るけど、中世ヨーロッパ風の世界だ。 ……いや、と言うよりもファンタジー小説やゲームの世界と言った方がいいのかもしれない。 ただし、魔法なし。


 念のためにもう一度言っておこう。この世界には魔法はない。 水道は家の庭にある井戸を使い、火は薪を使う。まぁ、生まれてすぐの頃は色々と戸惑ったんだけど、本物の赤ん坊に比べたら順応するのは早かっただろう。


 前世の記憶を残したまま新たな生を賜った俺は、田舎の小さな農村に次男として生まれた。特別貧しいわけでも、かと言って裕福なわけでもない村だ。

 ただ、村のルールとして長男は村に残って畑を受け継ぐことになっていて、次男以降は村の外に働きにでなければならない。


 そんなわけで俺は15で成人するのと同時に村を出た。

 村を出たとは言っても裸一貫で出たわけではなく、両親や村の人から祝い金という形でいくらかの費用をもらった。


  そのあとはいま住んでいる街までやって来て、街の外れにある、街に一つしかない本屋で働くことになった。 そこはお爺さんが趣味でやっているようなのんびりとした雰囲気だったけど、品揃えは3千冊ほどもあった。

  中世ヨーロッパ風の街並みや生活風景に反して、この世界には本が数多く出回っている。 王都に仕入れに行ったときに何度か見たことがあるが、地球の中世ヨーロッパのときの印刷技術───活版印刷よりは精度もスピードも優れ、更にコストも低いという謎のハイテクノロジーだった。 流石に21世紀の印刷技術とは比べるべくもないけど、この街並みとはイマイチ結びつかなかった。

  まぁ、ここは地球とは全く別の世界なのだから別の歴史を辿っているわけで、地球の常識を押し付けようとする方が間違っているのかもしれないが、ぶっちゃけ我が目を疑ったよ。

 

  さて、話を元に戻そう。 俺はそのお爺さんの元で2年間働いたのだけど、お爺さんが去年亡くなった。 もともと本を運ぶのも一冊ずつで、最期の方は寝たきりになってしまっていた。

  最期はベッドの上で安らかに息を引き取った。


  お爺さんには身寄りはいなかったらしく、お爺さんの家と本は俺が引き継ぐことになった。 なんでも、『最期まで世話をかけた礼』らしい。

  むしろ、田舎から出て来て右も左もわからなかった俺に親切に色々と教えてくれて、更には住む場所と仕事まで与えてくれたのだから、あれくらいどうということはなかった。 しかし断ってしまってはせっかくのお爺さんの気持ちを無駄にすることになるので、お爺さんの気持ちを受け継いで生前と同じように本屋を営業することにした。


  基本的にはお爺さんがやっていたときと同じように日中はカウンターに座って待機だが、新しく始めたこともある。

 その一つが本の宅配だ。 具体的には、俺宛に欲しい本を書いた手紙を送って貰えば在庫があれば翌日の早朝に、なければそのことを連絡した後に王都に買いに行ってから本をお届けするというものだ。

  これは家から出るのが大変なご老人や忙しい人をメインターゲットにしている。 もちろん配送料金は無料だ。


「さて、今日も一日頑張りますか〜」


 ようやく空が薄っすらと白み始め、そろそろ鳥の鳴き声が聞こえてくだろうかという時間帯に本を乗せたカートを押して家を出た。

 ちなみに代金は着払いか後払いということになっている。

 住所と名前を控えているからそうそう踏み倒せない。と言うか踏み倒させない。今のところはそんな不敬な輩もいないが。


「あ、おはようございます」


「あら〜、おはよう。朝早くからご苦労様」


「ありがとうございます」


 人通りはほとんどないものの、途中で会った何人かの早起きなご老人と言葉を交わしつつ小走りで街の中を進む。たまに家の前で待っていてくれる人なんかもいて、そこでも言葉を交わす。気分は新聞配達の学生だ。

 ラストは我が家とは反対側の街の端だ。小走りで30分程度だからいい朝の運動である。


 目的地の近くにたどり着いた時、道の真ん中にボロ布を纏った何かが落ちていることに気が付いた。

 いや、何かではない。人だ。


 倒れていたのは女性だった。顔立ちは整っており、年は俺と同じくらいだろうか?

 しかも、かなりの値段がしそうな真紅のドレスを身に纏っている。しかし、そのドレスもかなり汚れていてところどころが破れたりして……厄介ごとの気配しかしない。

 髪もボロボロ。年頃の女性に対して失礼な話だが、何日も風呂に入っていないということがすぐにわかった。汗などの匂いが強烈だったのだ。


「大丈夫ですか!? しっかりしてください! 俺の声、聞こえてますか!?」


 昔に習った救急救命法を思い出しつつ、その人を仰向けにしてその肩を叩きながら声をかける。弱々しいが息はしているし、胸もしっかりと上下している。


「………って、ダメだダメだ」


 しばしその大きな膨らみに目が釘付けになるも、何とか引き剥がす。


「このまま転がしとくわけにもいかないしな」


 救急車を呼びたいところだが、残念ながらこの世界には救急車なんて存在しない。

 見たところ外傷もなさそうだし、熱もなさそうだ。

 そういうわけで、とりあえずウチまで運んだ方がいいだろう、という結論に至った。

 決して、美少女お持ち帰りとかそんな(やま)しいこと考えてない!


「……カートに乗せる、のは流石にマズイよな。貴族かどっかの豪商のご令嬢っぽいし」


 ここでお姫様抱っこでもできれば格好良かったんだろうが、少なくとも片手はカートを押す方に回さないといけないから、前から片手で抱き上げて肩に乗せる感じで……。

 まるで脳筋キャラみたいな運び方だということなかれ。 考えた末がこれなのだ仕方がない。


 ご令嬢の目が覚めないことを祈ろう。

 ……え、フラグ?

 いや、気のせいだよ。大丈夫。

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